その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はサティア・ナデラ、グレッグ・ショー、ジル・トレイシー・ニコルズ(著)、山田美明、江戸伸禎(訳)の『 Hit Refresh(ヒット・リフレッシュ) マイクロソフト復興とテクノロジーの未来(日経ビジネス人文庫) 』からビル・ゲイツさんの「序文」をお届けします。
【序文】ビル・ゲイツ
サティア・ナデラと知り合って20年以上になる。初めて会ったのは1990年代半ばで、私はマイクロソフトのCEO、彼は軌道に乗り始めたばかりのわが社のサーバー・ソフトウェア事業に携わっていた。わが社は、長期的アプローチでビジネスを築き上げたが、これには二つの利点があった。成長の原動力となる事業をほかに見つけられたこと、そして、現在マイクロソフトを運営している新たなリーダーを数多く育てられたことだ。サティアもそのひとりである。
のちにサティアが異動し、世界に通用する検索エンジンの開発に携わるようになると、私は彼と一緒に仕事をする機会が多くなった。当時のわが社はグーグルの後塵を拝していた。当初の検索エンジンチームは努力してはいたが、サティアがチームに加わると、事態が一変した。彼は謙虚であり、先見の明があり、現実的で、わが社の戦略にも鋭い疑問を投げかけた。また、筋金入りのエンジニアともうまく仕事をした。
それを考えれば、サティアがマイクロソフトのCEOになったとたん、会社に大きな変化が起き始めたのもうなずける。本書の原題『HitRefresh(「リフレッシュボタンを押そう」を意味する)』の通り、彼は過去と完全には決別しなかった。ブラウザーの「リフレッシュボタン」を押して再読み込みをしても、ページの一部は変わらない。しかしサティアのおかげで、マイクロソフトはWindows(ウィンドウズ)中心主義のアプローチから離れることができた。彼は率先して、新しくて大胆なミッションを掲げた。また、常に会話を忘れず、顧客や第一線の研究者、幹部と心を通わせている。そして何よりも重要なことに、人工知能やクラウド・コンピューティングといったキーテクノロジーの開発に重点的に取り組み、差別化を図ろうとしている。
これらはいずれも、マイクロソフトに限らず、デジタル時代に成功を望んでいるあらゆる企業にとって賢明なアプローチである。コンピューター産業はかつてないほど複雑化している。現在、マイクロソフトだけでなく、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンなど、数多くの大企業が革新的なビジネスを展開している。先進的なユーザーは、米国だけでなく世界中にいる。パソコンはもはや、大半のユーザーが利用する唯一のコンピューター機器どころか、中心的なコンピューター機器でさえない。
コンピューター産業はこのように急速に変化しているが、私たちはまだデジタル革命の入り口に来たにすぎない。人工知能(AI)を例に取ってみよう。私たちはこれまで、会合のスケジュール管理から勘定の支払いまで、日常的な事柄をすべて手作業で管理・実行してきた。だが、将来はAIエージェントが、仕事中に10分ほど空き時間があることを把握し、優先順位に従って仕事を片づけられるよう手助けしてくれるだろう。AIが私たちの生活をより生産的で創造的にしてくれる時代が、間近に迫っている。
イノベーションは、生活のさまざまな面を改善してくれる。それは、世界的に深刻化している格差の縮小に取り組むゲイツ財団と私の最大の仕事でもある。たとえば、デジタル追跡ツールや遺伝子のシーケンシング技術のおかげで、ポリオの根絶まであと一歩のところまで来ている。成功すれば、人類を苦しめた病気がまた一つこの世から消える。また、ケニアやタンザニアなどでは、デジタルマネーの登場により、低所得者でも貯蓄、借り入れ、送金ができるようになりつつある。米国の学校では個別学習ソフトウェアが導入され、生徒は自分のペースに合わせて勉強を進め、苦手な部分に的を絞って学習できるようになった。
だが言うまでもなく、新たなテクノロジーには問題がつきものだ。AIやロボットに仕事を奪われる人をどう支援するか。AIが提示する情報をすべて信じていいのか。AIが仕事の仕方をアドバイスできるようになったとしても、人間はAIにアドバイスされることを望むだろうか。
だからこそ、本書には価値がある。サティアは、こうしたテクノロジーの難しい問題に向き合いながら、テクノロジーが生み出すチャンスを最大限に生かすための道筋を示している。さらに本書には、サティアの興味深い身の上話のほか、文学作品からの引用が予想以上に多く、大好きなクリケットから学んだ教訓も盛り込まれている。
私たちは、来るべき未来に楽観していい。世界はかつてない速さで進歩し、よい方向へ進んでいる。本書は、エキサイティングで挑みがいのある未来への示唆に富むガイドになるだろう。
【目次】


