その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は矢沢久雄さんの 『コンピュータはなぜ動くのか 第2版 知っておきたいハードウエア&ソフトウエアの基礎知識』 です。


【はじめに】

 筆者は、30年ほど前からIT 企業向けのセミナーで講師をしています。受講者は新入社員、または入社後数年を経た中堅社員です。まがりなりにもコンピュータのプロである若き技術者たちに触れて感じたのは、往年の技術者に比べて、技術に対する興味が驚くほど少ないことです。受講者全員がそうだというわけではありませんが、そういう人が多いのは事実です。これは、「もっと勉強しろ!」とか「それでもプロか!」と一喝して解決するような問題ではありません。彼らにとってコンピュータは、ご飯を食べるのを忘れて没頭するほど面白いものではないことが原因だからです。なぜコンピュータが面白くないのでしょうか。何人かの受講者と話をしているうちにその理由が見えてきました。コンピュータが「わからない」のです。それでは、なぜわからないのでしょう。

 それは、すさまじい速さで複雑化しながら進化し、多くのコンピュータ技術があるように思われる現在では、一つひとつの技術に深く取り組む余裕がほとんどないからです。ちょっとマニュアルを見て技術の表面的な使い方だけを学び、「何となく目的を達成している」というのが現状のようです。それだけでもそれなりに学習時間がかかります。このように、ブラックボックスとして技術に触れているだけでは、けっして「わかった」と思えないはずです。わからないことをしていても、面白くありません。深く勉強する意欲もわきません。わけのわからない技術を使っているのでは、だんだん不安になってきます。残念なことですが、挫折して、この業界から去って行く人もいます。講師である筆者は、「何とかしなければ」という気持ちになります。

 往年の技術者たちは、最新の複雑な技術であっても、あまり時間をかけずに理解できます。その理由は、初期のマイコンやパソコンが一般に入手できるようになった時代から幸運にもコンピュータに触れることができ、数少ない技術の中で、ゆっくりと時間をかけてコンピュータの基礎知識を学ぶことができたからです。この基礎知識は、実は現在でもほとんど変わっていません。したがって、最新の複雑な技術であっても、コンピュータの基礎知識に当てはめて考えることで、すんなりと理解できます。若い技術者と同じマニュアルを見ているときにも、要点を読みこなし、実体をつかむスピードが格段に速いのです。

 何事にも、それをマスターするために知るべき「知識の範囲」があり、個々の知識には「絶対的な基礎」があります。そして、これができたら一人前という「ゴール」があります。本書の目的は、コンピュータ技術の、知識の範囲、絶対的な基礎、ゴールを、皆さんに身に付けていただくことです。これからコンピュータで何か作ってみたいけれど難しそうでためらっている人や、コンピュータ業界にいながら最新の技術に追い付けないと悩んでいる人に、コンピュータの本質を知っていただきたいと思います。コンピュータは、とてもシンプルなものであり、誰にでも理解できます。コンピュータがわかれば、コンピュータがもっともっと楽しくなります。

 本書の初版は、2003年に発刊され、約20年に渡って多くの皆さんにお読みいただきました。今回の改訂にあたり、コンピュータの回路図をZ80 マイコンからCOMET Ⅱに、VBScript のプログラムをPython に、DBMS をMicrosoft Access からMySQL に変更し、その他にも多くの加筆や修正を加えましたが、基本的な内容は初版と変わっていません。これは、現在でもコンピュータ技術の知識の範囲、絶対的な基礎、ゴールに、大きな違いはないからです。

2022年7月吉日 矢沢 久雄


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【目次】

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