その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はボストン コンサルティング グループの 『BCGが読む 経営の論点2023』 です。

【はじめに】

不確実な未来

 世界は不確実性に満ちている。2020年から新型コロナウイルス感染症が全世界に蔓延(まんえん)し、ビジネスのやり方や人々の生活様式までも大きく変えるインパクトを与えた。コロナ以前の世界において、海外を自由に渡航することが許されない時代が到来するとは誰が考えたであろうか。2022年2月にはロシア軍がウクライナに侵攻。国際社会の非難を受けながらも、殺戮を繰り広げる報道を目にする。戦争の絶えなかった20 世紀に逆戻りしたかのような錯覚を覚える。

 2つの変化の力が縦糸と横糸となって、不確実性を増幅させている。

 第1の変化の力はヒトとヒトの緊密性の進化である。人々は50年前に比べてグローバルレベルで格段につながっている。インターネットの技術革新により、瞬時に世界の情報にアクセスすることができるようになった。入手した情報に対して、モバイル携帯やSNSを通じて多くの反応がこれまた瞬時に発生する。そのリアクションが情報の増幅を促す。ポジティブな増幅もあれば、ネガティブな増幅もある。ヒトとヒトのつながりが加速度的に進化している。

 第2の変化の力はデジタル情報量の圧倒的な増大である。IT・通信分野に関する調査会社であるIDCが2020年5月に発表した調査結果によると、2020年に全世界で生成、消費されるデジタルデータの総量は約59ゼタバイト(59000エクサバイト、エクサは100京)。2010年時点では988エクサバイトであり、10年間で約60倍に増加したことになる。日々の圧倒的な情報量の中で、処理しきれず情報の渦の中を泳ぎきれない、もしくはデータに翻弄されるケースが多発している。

 例えば、データ量の多い画像での情報提供はたいへんパワフルであり、場合によっては激しい乱気流に発展する。2021年のトランプ大統領(当時)のスピーチに扇動された米国連邦議会への乱入事件はまだ記憶に新しい。

 このようなヒトの緊密性の加速度的な進化と、デジタル情報の圧倒的な増加が、未来の振れ幅を大きくし、予期されない出来事が世界規模で多発する要因をつくった。来年のこと、半年先のこととでさえも、未来を予測することは、もはや誰にもできない。

 不確実性が高いから、将来を考えることは無駄なのか。否、答えはその逆である。

 不確実な時代だからこそ、経営者の重要な役割は、世の中の変化と流れを読み解き、その半歩先、1歩先の手を打つ方向性を示すことにある。競争戦略上、他社に先駆けてアクションを仕掛けることは、圧倒的な競争優位性の構築につながる。一方、経営者がその舵取りを誤れば、多くの従業員を路頭に迷わせることになる。競争に勝つためには、世の中の本質的な流れや変化点を見極めることがきわめて重要である。

 筆者らは経営コンサルタントである。日々、クライアント企業の経営者の悩みを伺い、外部の目線で問題解決の糸口を提示し、よりよい企業への変革を導く役割を担っている。不確実性の高い世の中において、コンサルタントである私たちに対する、将来のあり方に関する相談は年々増えている。私たちは占い師でもないし予測屋でもない。しかし、長年このような企業経営者の悩みに答え、長らく知見と手法をグローバルレベルで蓄積してきた。

重要な2023年の変化のトレンドを考える

 本書では、序章でこうした不確実性に対応するためのシナリオプランニングの手法についてご紹介し、第1章以降で現在の日本において、BCGが重要と考える10のトレンドについて、各領域のエキスパートが論を展開する。章ごとに大きなトレンドを選定してご紹介する。

 序章でシナリオプランニングについて取り上げたのは、現在、どの分野/業界においても欠かせない共通の手法だと考えているからである。シナリオという観点では本書の内容は頭の体操、あるいは予行演習的な部分がある。第1章以降の各論で取り上げているトレンドも実は相互に影響しあいながら違う方向に進む可能性がある。したがって、それぞれの章を読んだ上で、自社にとっての事業環境の振れ幅はどういう範囲で想定しておけば盲点がなくなるのかということを経営の現場で議論していただくとよいだろう。

 第1章から第10章は、それぞれ「今どのような変化が起こっているのか」「その変化はどのようなインパクトを経営に与えるのか」「それに備えて将来、そして2023年からすぐにでも手をつけておくべきことは何か」という構成でまとめている。大きな変化の潮流をつかみつつ、足元で何から準備を始めるべきかについてのヒントも示した。

 ここで提示した大きなトレンドがどういう振れ幅の中で将来、変わりうるのか。それは一体、企業経営もしくは事業経営にどういう影響があるのか。あるいは、一人の生活者として、個人にとってどういう示唆をもたらすのか。そういう視点を持って、読み進めていただければ幸いである。

ボストン コンサルティング グループ
日本支社長兼北東アジア総責任者
佐々木 靖

【目次】

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