その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は日本経済新聞社(編)の 『これからの日本の論点2023 日経大予測』 です。

はじめに

 2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻により、世界は大きく変わった。「2・24」は、国際秩序や世界経済、各国の内政に影響を与えた、歴史の転換点として位置づけられるだろう。
 では、2023年は、どんな年になるのか。「日本経済新聞」のコメンテーターや編集委員がさまざまな分野から2023年を展望し、分析するための視座を提供するのが、本書の狙いだ。

世界が直面するリスクは一段と高まる

 安全保障も経済も一段とリスクが高まる―。2023年は、こんなシナリオが基調になりそうだ。
 ウクライナを舞台に米国とロシアが対抗する構図に加え、米国と中国の対立が強まっている。世界秩序は、日米など民主主義国を中心とする「西側陣営」、中ロを中心とする「強権勢力」、どちらにもくみしない「中立パワー」に3極化されつつある。一部識者が予測した「Gゼロ(無極化)」よりもむしろ、これら3つの勢力がせめぎ合うパワーゲームの様相を呈する。
 国家同士がむきだしで力を競い合い、軍事衝突が増す場面も想定される。ウクライナに対して不利になったロシアのプーチン大統領が、小型核を使った威嚇に出てこないか。中国の習近平総書記が2022年10月の共産党大会で政権基盤を強め、台湾問題で攻勢をかけてこないか。第3次世界大戦に向かうシナリオも拭いきれない。

「世界同時不況」に陥る恐れ

 世界経済を見通すと、2023年は主要国で景気が後退し、「同時不況」に陥る可能性がある。ウクライナでの戦いが長引けば、生産や出荷のボトルネックが残り、インフレ圧力は消えないだろう。景気後退とインフレが共存する「スタグフレーション」の恐れがある。
 国の利益を守るため技術やデータ、製品など資源を確保しようとする「経済安全保障」の動きもさらに進みそうだ。貿易で経済が豊かになる「自由貿易」よりも、人間の命がかかわる「安全保障」を優先する国が増えている。市場原理と自由貿易を柱とした世界の経済秩序は崩れつつあり、世界のデカップリング(分断)に拍車をかける。
 景気減速と物価高で、各国政権は内向き志向を強める危うさをはらむ。民主主義国にナショナリズムやポピュリズムが広がる土壌が生まれれば、民主主義の土台も揺るぎかねない。

日本にチャンスはあるか

 そうしたなかで、日本はどうなるのか。
 エネルギー危機が世界を覆うなか、2022年3月、日本でも電力不足が表面化し、あわや停電寸前の事態に陥った。安定供給を実現しながら、脱炭素へのエネルギー転換を進める戦略の再構築が必要だ。政府は次世代型の原子力発電所の開発や建設の検討を進めるが、安全を確認した原発の再稼働も含めて、順調に進むかどうかは見通せない。
 株式相場は堅調な展開が続くのか。外需で稼ぐ製造業の業績は底堅く推移しそうで、円安が続けば追い風となる。ただ、製品の売れ行きは好調でも、原材料高で利益が圧迫されるため、「増収減益」がキーワードになりそうだ。コロナ禍で打撃を受けた流通小売、外食など非製造業の回復が期待される。
 金融政策では、米欧の中央銀行で広がる利上げの動きが日銀にも及ぶかどうかに関心が集まる。物価動向がカギを握り、賃上げの動きがどの程度広がるかを注視する必要がある。2023年春には日銀の黒田東彦総裁の任期が切れる。総裁人事は、政策修正を左右する重要なファクターになる。
 日本企業はどうか。「GAFAM」と呼ばれる米IT(情報技術)企業が「指数関数」の成長を続けたのに対し、日本企業の成長は直線的な伸びで、精彩を欠く。成長できる産業や企業をいくつつくれるかが日本の課題となる。

2023年のシナリオを複眼的な視点で探る

 ここまで列挙したのは、いずれも本書のなかで提示される論点の一部だ。本書では、「日本経済新聞」を代表するベテランの専門記者が、2023年の日本と世界を見通すうえで欠かせない論点と向き合い、大胆な見方を提示する。
 22の論点を次の4つの章にわけて解説する。小説のように最初から順番に読んでいただかなくてもよい。それぞれが読み切りなので、関心がある章から目を通しつつ、テーマを広げていってほしい。

1 世界はこれからどうなる
2 日本はこれからどうなる
3 企業はこれからどうなる
4 アジア、欧州はこれからどうなる

 本書は単なる「予測本」ではない。取り巻く環境は変わるし、変数を限った予測モデルの結果には誤算がつきものだ。
 いま世界や日本で起きている事象をどうとらえ、今後どんな思考のシミュレーションをすればいいのか。筆者たちが取材で得た情報をもとに、複眼的な視点で2023年のシナリオを探っていきたい。

2022年10月

【目次】

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