その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は中野崇さんの『 「データは苦手」からの卒業 管理職のためのやさしい数値化技術 』です。
【はじめに】
「それって数字はどうなっているの?」
「裏づけるデータはないの?」
「もっとデータ分析してから提案してくれる?」
日々の仕事で誰もが耳にしているセリフでしょう。
データ分析の価値が高まっている本当の理由
優秀なビジネスパーソンは昔からあたり前のように「数字」や「データ」を活用しており、「数字活用」や「データ分析」はずっと前から行われていますが、ここ数年で、その価値が大きく高まっています。
その理由として、スマートフォンやウエアラブルデバイスなどを通して多様なデータを取得できるようになったこと、それらを大量にクラウドに蓄積できるようになったこと、AI(人工知能)テクノロジーが進歩して大量データを有効活用できるようになったこと、などが挙げられますが、本当の理由は別なのではないかと思います。
私が考える理由は、「ビジネスの問題・課題が複雑化し、かつその変化が速いため、過去の経験則が通用しなくなっているから」です。自分が経験してきた成功や失敗、そこから得られた学びや法則が今も通用するならば、「私が思うに問題はこれで、原因はこうだから、こうしよう」というアプローチでよく、数字活用やデータ分析に頼る必要はありません。いわゆる、KKD(経験・勘・度胸)ですね。しかしそれが通用せず、問題解決できないことが圧倒的に増えたので、データに頼らざるを得なくなり、データ分析の価値が高まっているのではないでしょうか。
「データ分析には専門知識が必要」は誤解
数字やデータを使えば客観的に現状を把握できます。その結果、精度の高い問題発見 ⇒ 課題設定 ⇒ 解決策の立案が可能で、これは言い方を変えれば、数字やデータによって自分の経験不足を補い、自分が経験していない問題を解決できる確率が高まるのです。
しかし、「数字活用」「データ分析」(以下、「データ活用」と書きます)と聞くと、多くの文系ビジネスパーソンは身構えてしまいます。おそらく、「統計の専門的知識を学び、SPSS・R・Pythonなどの専門ツールやプログラミングが必要で、これから自分がキャッチアップできるとは到底思えない」と感じているのだと思います。
でも、これは誤解です。データ活用に関する最近のメディアの報道がそう思わせているので、誤解している人が多いのだと思います。
ここ数年で数値・データを扱う専門家(データサイエンティストやビジネスアナリスト)の市場価値はどんどん高まり、完全な売り手市場になっています。メディアに登場する成功事例は、AI活用によって需要予測を最適化したケースや、生産設備の故障予知を膨大なデータ解析によって実現したケースなどが多く、「ビジネスにおけるデータ活用=専門家の仕事」というイメージ定着を助長しています。
実際、データに関する専門知識や分析ツールに関する専門技術がなければ解決できない問題は確かにありますが、それは一部の企業の一部の問題にとどまります。ビジネス現場のほとんどの問題解決では、高度な専門知識や専門技術は必要ありません。「四則演算レベルの算数力」と「Excelを使った簡易集計」ができれば、たいていの問題は何とかなるのです。
足りないのは「データ活用の成功体験」
本書の想定読者は、一定のビジネス経験は積んでいるものの、データ活用に苦手意識をもっている方、データを活用した意思決定やアクションが習慣化していない方です。特に、組織やチームを率いる管理職のみなさんを意識しています。
このような方々に共通しているのは、「データ活用のメリットを体感していないこと」です。自分の仕事に役に立つという実感をもっていなければ、いくら周りが「これからはデータ分析だ」と叫んだところで前向きに取り組むことはできないものです。データ活用に前向きになるには、成功体験、それも小さな成功体験を積み重ね続けることが大切です。
ところで、「データ=記録されたすべての情報」と捉えると、非常に大きな概念になります。数字、テキスト、音声、画像などもすべてデータに含まれます。本書では、データに弱いと自覚している人が「これなら私でもやれそうだ」と思えるシンプルかつ実用最小限のノウハウをお伝えしたいので、「データ=数字」としてフォーカスします。
「数字活用」「データ分析」「データ活用」などさまざまな言い方がありますが、本編では「数値化」という言葉を主に使っています。数値化は、これらの言葉に共通する、最初に身につけるべき基本技術だからです。
また、管理職の方が実務に活かしやすいよう、マネジメントのコツと一緒に数値化技術を紹介するよう心がけました。
本書のゴールは、日々の業務において、数値化の成功体験を積み重ねるきっかけを提供することです。成功体験を積み重ねれば、日々の業務で積極的に数字を活用するようになります。そうすれば数値化技術もどんどん高まり、未知の問題に遭遇しても、数字を活用して解決できるようになります。そして最終的には、数字以外のデータも活用していく、データ活用の技術習得へとつながっていきます。
本書の構成
本書の構成は次の通りです。
第1章は「数字に親しむこと」を目的とし、小中学生でも理解できる身近な話題を取り上げています。第2章では業務で役立つ最もシンプルな数値化技術として、「仕事時間の分析」の効能や手順を解説しています。誰にでも取り組める簡単な分析ですが、生産性を高める効果は抜群です。
第3章では、そもそも何を数値化すればよいかわからないと感じている方向けに、利用頻度が高い数値化の型・数値化の視点を紹介しています。第4章では、数値化するのが難しい人間の感情や気持ちを数値化する方法と、数字がもつ思いを捉えるインタビュー技術を紹介します。第5章では、1~4章で紹介した技術を実際のビジネスシーンで活用した事例を詳述しました。
第6章は少し視点を変え、数字の落とし穴を1問1答形式で解説しています。落とし穴を押さえておけば、部下からの報告の問題点を指摘できるようになります。最後の第7章は、数値化技術を高めるためにオススメしたい習慣をお伝えします。
第1章から順番に読んでいただくと理解が深まる構成にしていますが、気になる章から順不同で読んでいただいても構いません。どこを読んでも実践につながるノウハウが得られると思いますので、ぜひ興味あるところを中心に読み進めてください。
それではどうぞご覧ください。
【目次】