その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は株式会社クニエ SCMチームの『 ダイナミック・サプライチェーン・マネジメント 』です。

【はじめに】

 サプライチェーンというキーワードがかつてないほど頻繁にニュースや新聞に取り上げられるようになった。サプライチェーンとは「モノ」が私たちに届くまでの一連の流れ、つまり「モノの流れ」である。消費者が「モノの流れ」を意識することはあまりなく、店頭やインターネット通販を通じて様々なモノが手に入るのは当たり前だと思っていたが、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックを契機として、グローバルでのサプライチェーンを巡る状況は一変した。「モノが期待通りに手に入らず、価格が高騰する」といったことが頻繁に起きている。本書ではこのような新しい状況下に、サプライチェーンをいかにマネジメントしていくべきかについて述べていく。

 日本企業はサプライチェーンマネジメント(以下、SCM)の取り組みが盛んになった2000年ごろから、継続して自社のサプライチェーンプロセスの改善に取り組んできている。しかし、長い時間をかけて改善活動を続けて来ているにもかかわらず、現在のグローバルサプライチェーンの状況変化に対応できず、様々な問題が一気に表出した。企業は現在起きている足元問題の対応に加え、リスク管理やESG(Environment, Social, Governance)観点など、これから企業経営に求められるテーマへの取り組みが喫緊の課題となっている。

 本書ではサプライチェーンがどのように形成され、SCMがいかに現在の状況に至ったのかをひもとくことにより、これまでのSCMの取り組みの特徴を整理し、現在求められるSCMとはどのようなマネジメントなのかをお伝えする。SCMを実現するための問題点、阻害要因を過去の経緯から考察しつつ、新時代のSCM構築に向けて、企業がどのような手を打つべきなのかを述べる。

 産業のマクロ動向、SCMのトレンド、そして、マーケットの主役であるジェネレーションを並べると、状況変化の背景が見えてくる(図表0-1)。

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 現在、企業の意思決定を行う経営層の多くはベビーブーマー世代であり、新たなビジネスモデルやプロセスの構築に対して積極的ではなく、保守的な投資判断がなされている。企業の中核を担っているのは40~50代のX世代であり、大量生産と新しいモノ、機能が追加される環境下に生まれている。X世代はモノ、機能を中心とした宣伝広告の中で育ってきており、基本的な思想としてモノ中心の考えが染み付いている。サプライチェーンマネジメントの取り組みは製品中心の考え方を引きずったままスタートしているため、根本的にモノを中心とした(安定したサプライチェーン環境下での)効率化手法として認識されていることが多い。

 一方、現在のマーケットの中心は、モノよりもコトやストーリーに重点を置くY世代、さらには社会問題、環境意識の高いZ世代に移っている。Y世代やZ世代の人は、なぜ自社の企業がこんなにも旧態依然としているのか理解ができず、X世代の人にとっては現在の外部ニーズやテーマに対して自分の価値観、経験が通用せず、どのような手を打つべきなのか分からないでいる(そもそも外部のニーズ変化にも気付いていないケースも多々発生している)。マーケット側と供給側との間にジェネレーションギャップが生まれ、その変化に追従できていない(または、そもそものニーズ変化に気付いていない)のだ。読者の皆さまはどの世代に属しているだろうか。

 産業構造を含む外部環境の大きな変化によって、まずは人(顧客となるユーザー、消費者)の価値観が変わる。すると、顧客と接点を持つ業務領域において、人の変化に合わせてアプローチも変化(デジタルテクノロジーなどが活用される)し、そうした変化に対応すべく、サプライチェーンに関連する基幹系の業務プロセスやITシステムも変化が求められることになる。だがしかし、基幹系業務プロセスやITシステムは、従来のオペレーションやレガシーシステムが変化の阻害要因として存在し、なかなか追従できないでいる。これにより、時代遅れのサプライチェーンプロセスが残ってしまう。

 本書は5部+巻末付録の構成を取る。

 第1部では、大量生産時代から新型コロナウイルス感染症以前までのサプライチェーンの形成過程と日本におけるSCMの取り組みの変遷を整理し、サプライチェーンに求められるテーマがどのように移り変わってきたのか、また現在起きている問題の歴史的背景を示す。

 第2部では、新型コロナウイルス感染症発生後に起きている問題事象とサプライチェーンの関連を説明し、SCMとは様々な要素が絡み合う複雑な問題であることをお伝えするとともに、新時代のSCMに何が求められているのかを示す。

 第3部では、不確実性が高まり、前提となるサプライチェーンを取り巻く環境が激しく動的に変化する新時代において、求められるSCMを「ダイナミックSCM」と定義し、ダイナミックSCMに必要となるマネジメント機能の姿を示す。

 第4部では、先進企業の取り組みを紹介する。ご協力いただいたのは、旭化成、オムロンヘルスケア、コニカミノルタの3社。具体的なSCMの運営内容を示す。

 第5部では、従来のSCMの取り組みの失敗や阻害要因を踏まえつつ、ダイナミックSCMを企業ケイパビリティーとして高めるための経営、デジタル、組織・人材の観点からの施策をお伝えする。

 巻末付録には、SCMの基本的な業務プロセスの概略と、SCMの基本原則であるPSI(ProductionまたはPurchase、ShipmentまたはSales、Inventoryの頭文字を取った言葉。巻末付録Bを参照)を説明している。SCMの基本的な知識をまず押さえておきたい方は、先に巻末付録を読んでいただくと無理なく本書をご理解いただけると思う。逆に、SCMに深く携わっている方は、第3部から読み始めると効率的である。

 本編に入る前にいくつかの言葉について本書における定義を補足する。

 「ITシステム」とは、レガシーシステム、ERP(Enterprise Resource Planning)など情報技術を活用した情報システムを指す。

 「システム」とは、ITシステムだけの話でなく、社会構造、ビジネス構想、業務プロセス、組織、評価とルール、ITシステムなど様々な要素が相互に影響し合いながら全体として機能する仕組みを指す。

 「デジタル」とは、情報技術を活用しビジネスや業務を変化させていくことを指す。

 本書が皆さまの抱える問題点の背景の理解とこれからの課題解決を図るための一助となれば幸いである。

【目次】

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