その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は木村亮示さん、木山聡さんの『 BCGの育つ力・育てる力 』。「プロローグ」と「日経文庫版刊行によせて」をお届けします。
【プロローグ】BCGの成長の「秘伝のたれ」
「人」の悩み──なぜ成長が難しくなったか
人がいない──。
経営者の方々と議論しているなかで、何度となく耳にする一言だ。もちろん、実際に優秀な人材がいないわけではない。
どの会社においても、不振事業を立て直す、新規事業を立ち上げる、提携をまとめ上げる、着実に事業を運営していく、そういった実績を誇り、能力と人格を兼ね備えた素晴らしいリーダーは存在する。
しかし、経営者の言葉を借りるならば「絶対的に数が足りない」のである。事業環境が厳しさを増し、また経営の複雑性が増すなかで、戦力になる人材に対するニーズは量・質の両面でかつてなく高まっている。
次によく聞くのが、「次の世代・次の次の世代の成長を加速化したい」という悩みだ。
バブル崩壊後10年程度の間、採用を絞った企業も多く、40代後半から50代前半の世代は絶対数が少ない。加えて、一般論としてはそのひとつ上の世代の人材の層が厚いことから、組織マネジメントの経験をあまり積めていないケースも多い。
また、ビジネスコミュニケーションの中心がデジタル(メール、Chat、Web会議など)になった結果、組織内の情報の流れも変化している。大量の情報がリアルタイムにマネジメント層に届くことから、トップにすべての案件が集中。風通しが良くなって意思決定が速くなるという利点の裏で、部下の情報処理能力、判断力が鍛えられないという状態が長年放置されてしまっているケースも散見される。
それに拍車をかけるのが、昨今の事業環境の厳しさだ。右肩上がりの時代の終わりとともに、従来以上に短期での成果を出す難易度が高まっている。マネジャーの多くは、部下の育成に時間を使うよりも、自分が直接業務を遂行したほうが速く、また確実に成果が出るという状況に直面している。
結果、部下が育たず自分が抱え込む仕事は増える一方となり、「成果と育成のトレードオフをどう解消するか」という悩みを抱えつつ、結局育成が犠牲になっている。
そのような世のなかの流れの結果、「BCGと仕事をする最大のメリットは、自社のメンバーが成長することだ」というコメントを経営陣からいただくこともある。
「プロジェクトを通じてBCGメンバー1名につき自社の若手を5名つけるので刺激を与えて鍛えてほしい」
「戦略の骨格はもう存在する。BCGには、戦略の磨き込みと、その戦略を遂行できる組織づくりを頼みたい」
いずれも実際のクライアントからいただいたコメントだ。
そして、最後に聞かれるのが、この質問である。
「一体全体、BCGではどうやって人を育てているのか」
BCGが熟成させてきた「秘伝のたれ」
ボストン コンサルティング グループ(BCG)には毎年多くの新しい仲間が入社してくる。
大学院・大学から直接BCGに入社してくるいわゆる新卒採用や、国内外のMBAからの採用に加えて、実は中途採用として他社から転職してくるケースが意外と多い。
銀行や商社、メーカーなどの事業会社からの転職はもちろんのこと、近年は、医師、弁護士、会計士などの専門職、デジタルテクノロジーのバックグラウンドを持つ転職者も相当数に上る。
前職で実績をあげてきた人も多いとはいえ、まだまだ若手(~せいぜい中堅)と言われる世代が中心だ。当然ながら、BCGに転職してきた初日には、“一流のコンサルタント”にはかなりの距離がある状況だ。
それでも、コンサルタントに期待される成長スピードはきわめて速い(し、多くのコンサルタントがその期待に応えている)。
入社1年経つと中堅、2年経つとベテラン。3年経つ頃には一段上のポジションでの仕事にチャレンジすることが求められる。
他方で、クライアント企業側はというと、重要な案件ということで「選ばれし精鋭部隊」であったり「百戦錬磨の現場のたたき上げ」であったりすることが多い。
BCGチームとクライアントチームの平均年齢に10~15歳くらいの差があることは日常茶飯事。こちら側の1人ひとりが相応のパフォーマンスを上げないと厳しい𠮟責を受けることになる。
さらに、長期でお付き合いするクライアントが多いことから、新メンバーは常にこれまでのメンバーと比較されるという壁も乗り越えなければならない。
このように、BCGでは、人材育成を考えるうえでの固有のハードルとして次の3つが存在する。
①そもそも取り組むテーマの難易度がきわめて高い
②人材のバックグラウンドが多様である
③求められる育成・成長スピードが非常に速い
当然のことながら、このハードルを乗り越えなければ、コンサルティングファームとしての存在意義が問われることになる。結果、人材育成のノウハウとして、「多様な人材を“超高速”で戦力化する技術」が徹底的に磨かれることになる。
では、「多様な人材を超高速で戦力化する技術」とは何なのか。それこそが、BCGの「秘伝のたれ」とも呼べるものだ。
よくある誤解が、コンサルタントとして戦力になることと、いわゆる「ハウツー」系のハードスキルを身につけることとの混同だ。
「コンサルタントのノウハウ」=「スキル」という誤解
エクセルや各種ツールを使った分析、ロジカルシンキング、簡潔な資料のまとめ方、プレゼンテーションスキル、ネゴシエーションスキル、グラフィカルな表現の仕方……。
書店のビジネス書コーナーには、現役もしくは元コンサルタントが書いた多くの「ハウツー本」が山積みになっている。MBAプログラムでも提供されるこれらのハウツースキルには実践的なものが多く、ビジネスパーソンとしてのパフォーマンスを引き上げていくうえでの「即効薬」としての期待も高い。
ファームによる程度の差はあれ、コンサルティング会社でこれらのハウツーのトレーニングが充実しているのは事実だ。ビジネスにおける「読み書きそろばん」として、初期に基礎スキルを徹底的にたたき込まれるのである。
ただし、これらのスキルは所詮、必要条件にすぎない。
ビジネス・パフォーマンスを上げていくには、これらのスキルとは別にBCGが重視している「十分条件」とも言える能力が存在する。具体例を挙げれば「必要な問題を正しく設定し、それを解く能力」「結論に基づいて人に動いてもらう能力」などが該当する。
これらの能力についてはこれまであまりオープンにしてこなかった。
したがってその「十分条件」をどうやって身につけることができるのか、という成長の「秘伝のたれ」について言語化を試みるのは本書が初めてとなる。
2015年に、当時の日本経済新聞出版社の野澤靖宏さん、赤木裕介さんに、こうしたことを書籍にまとめれば、多くのビジネスパーソンや組織にも参考になるのでは、というアイデアをいただき、言語化に挑戦することとなった。
本書について
本書は次に示すような5章構成となっている。
第1章:スキルを集めるだけでは成長しない
成長の方程式① マインドセット(基本姿勢)+スキル
第2章:どうすれば「伸び悩み」を突破できるのか
成長の方程式② 正しい目標設定+正しい自己認識
第3章:成長を加速させる鉄則
第4章:「育成」を仕組み化~自動化する
第5章:育てる人も育つには
第1章と第2章では、BCGの人材育成のベースにある2つの考え方を紹介する。これが前述の「十分条件」を身につけるためのベースと考えていただければよいだろう。
そのうえで、「秘伝のたれ」に該当する、成長が必要なメンバーの視点でできること(第3章)、育成するマネジャーと組織の視点でできること(第4章)を具体的に紹介したい。
さらに、日経文庫での再出版にあたり加筆した第5章では、「育てる側」にあたるミドル層自身が、経営幹部へとどう育っていくのかという、「育つ側」として考えるべきことについて述べる。
そして最後に、単行本刊行後10年近くの間に起きた働く環境の変化が「育て方/育ち方」の方法論に与える影響について巻末にある「補論としての巻末付録」で考察している。
本書の共著者である木村と木山は、いずれもBCGに2000年代初頭に中途採用で入社した。その後、自身もコンサルタントとして多くの壁にぶつかりながらも、その時々のクライアントやマネジャーに「育てられ」、成長を重ねてきた(現在も発展途上であり日々壁にぶつかっている)。
ここ数年は、BCGの若手コンサルティング・スタッフの人材育成責任者として、若手を「育てる」側としても試行錯誤を繰り返す毎日だ(単行本出版当時。2024年現在は、木村はBCGアジア太平洋地域の人材育成責任者、木山はBCGジャパンにおける人事管理を担当している)。
2人の共通の価値観は、「人は本当に素晴らしい可能性を持っている」というもの。
BCGで働くなかで、多くのクライアント企業でリーダーが生まれ育っていく姿を目撃し、BCG社内でも何人もの若手メンバーが一皮むけて活躍するようになるのを見て、この思いは確信に変わりつつある。
また、「アプレンティスシップ」と呼ばれる日本語でいう徒弟制に近い、BCGの育成のやり方の有効性も実感している。
本書はこれまでの木村と木山の「育てられる側」と「育てる側」の両方の経験をもとに、BCGにおける人材育成の考え方と実践方法をまとめたものである。
ただし、初めに断っておくと、本書には「特定の能力」を身につけるための特効薬は書いていない。
書いてあるのは、各人の持つ可能性を解放するための姿勢であり、日々の方法論である。
わかりやすくするために物事をやや単純化している点はあるが、ぜひ最後まで読んでいただき、日々の仕事に活かしていただけることを願っている。
読者の皆様が「育てられ上手」「育て上手」になることで、所属組織のパフォーマンスが向上し、またそのなかで働く1人ひとりの人生が充実することに、この本が何らかの形でお役に立てばこれ以上の喜びはない。
ボストン コンサルティング グループ
マネージング・ディレクター&シニア・パートナー 木村 亮示
木山 聡
【日経文庫版刊行によせて】
拙著『BCGの特訓(今回、“BCGの育つ力・育てる力”に改題)』を2015年に刊行して早10年弱が経過し、この度、原著を一部加筆・改訂し、日経文庫から出版することになった。
これも多くの方々が読んでくださったおかげであると感謝申し上げる。
著者らは、本版の刊行にあたり改めて原著の内容を振り返ったが、この10年の環境変化を踏まえても、本書が伝えたい人材育成の基本・本質は変わっていないと再認識できた。したがって、原著の内容に関しては、古くなった事例などのアップデート以外の改訂は行わなかった。
とはいえ、10年が経過して、必要な人材像・人材層や育成の方法論において新たに考慮すべき点は生じており、読者にとって参考になるであろう2つの論考を加えた。
1つは、育てる側であるマネジャー自身の経営幹部への成長についてであり、第5章として新たに1章分加えた。
背景には、多くの日本企業が2000年前後の約10年間(いわゆる“就職氷河期”)に新規採用を絞ったことがある。その結果、10年前には30代半ば~40代半ばのミドルマネジャー層が不足していたが、10年経った現在は40代半ば~ 50 代半ばのシニアマネジャー層の不足が顕著になっている。
実際に、著者らが普段やりとりしている経営者の方々からも、「ミドル層に、できるだけ早く力強い経営幹部に成長してもらいたい」という話を聞くことが増えている。このことは現在のミドル層にとっては可能性が大きいということを示している。
加筆した章では、原著においては「育てる側」として位置づけられたミドル層自身が、経営幹部にどう育っていくのか、という「育つ側」として考えるべきことについて述べている。
もう1つは、この10年の働く環境の変化が、育て方/育ち方の「方法論」に与える影響についての補論であり、巻末付録として今回加筆した。
この10年の間で働く環境はさまざまな面で変化してきた。本書では、そのなかから以下の4つの働く環境の変化を取り上げる。これらの変化により、育てる側/育つ側の双方が「個人として」意識すべきことが生じている。また、場合によっては「企業として」の育成環境を見直すことも必要だろう。
- 時短化
(法的だけではなく社内的にも)労働時間規制の厳格化、ワークライフバランス(WLB)重視の潮流などから仕事に使える時間は限定的になっている。 - リモートワークの浸透
コロナ禍の時期に一気に浸透が進んだリモートワーク。揺り戻しはあるものの大・中堅企業、都市部を中心にコロナ禍前より高いレベルで定着している。 - 人材の多様性の広がり
国籍、ジェンダー、専門人材など働く人々の多様化は進み続けている(今、そうでない企業においても将来に向けて進んでいくことが予想される)。 - デジタル/AIの進化と普及
仕事の現場において、不可逆的な流れとしてさまざまな技術の導入が加速している。
補論となる巻末付録では、これらの変化を簡単に紹介したうえで、育つ側、育てる側の両方が実現可能な工夫について述べている(いずれも、複雑なテーマをかなり単純化しており、かつ問題提起にとどまっていることはご了解願いたい)。
著者らも、この10年の間、新しい環境に戸惑いながらも、「人の素晴らしい可能性」を信じつつ、人材育成に取り組んできた。
本書が、読者の皆様にとって人材育成の基本/本質を振り返りつつ、環境変化への対応に役立つものになれば大変うれしく思う。
ボストン コンサルティング グループ
マネージング・ディレクター&シニア・パートナー 木村 亮示
木山 聡
【目次】











