その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は保科学世さん+アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 AIグループ編著の『 アクセンチュアのプロが教える AI時代の実践データ・アナリティクス 』です。
【はじめに】
多くの企業はいまだに、アナリティクス/AI を大きなビジネス価値創造につなげることができていません。場当たり的なデータ分析に留まり、ビジネスの意思決定に分析プロセスが組み込まれていない、あるいはPoC(Proof of Concept;取り組みの実現可能性・効果を技術的な観点で検証する実証実験)を実施したものの、継続的にビジネスにアルゴリズムを組み込めていないのが実情ではないでしょうか。
AIを導入するプロジェクトでは、従来のソフトウェア導入プロジェクトとは異なり、俊敏性、柔軟性をもって、アイデアを具現化すべきか破棄すべきかを判断する能力が必要です。
新しい技術であるAIの導入において、従来のシステム構築手法を採用し、自社用のアルゴリズムをゼロから開発するという選択は望ましいことではありません。すでに実績があり、短納期かつ低コストで利用できるアルゴリズムやAIエンジンは多数存在しています。AI導入を成功させるための最初のスモールステップとして、既成の仕組みを用途に応じてカスタマイズして素早く部分活用し、真価をいち早く実証することが最も重要です。
もちろん、テクノロジーばかりにとらわれてはいけません。アルゴリズムを活用する方法も、他の施策と同様に、ビジネスのビジョン・戦略に基づいて決定されるべきです。AIの本格導入を成功に導くためには、データサイエンティストだけではなく、専門スキルを持つ多様な人材が協働できる適切な方法を見つけることにも注力する必要があります。
常に求める成果をイメージし、プロジェクトの初期段階から、適切なガバナンス・アプローチを採用すべきです。これらの重要な成功要因を考慮し、分析アルゴリズムをビジネス全体に最適に組み込むことで、新しい、爆発的な価値を引き出せるようになります。
アクセンチュアが実施した日本を含む世界12か国、16の業界にわたる企業の経営幹部1,500人への調査「AI: Built to Scale(ビジネス全体でAIを活用する)」によると、日本企業の経営幹部の77%(グローバル全体では75%)が、AIをビジネス全体に積極的に導入しなければ、2025年までに著しく業績が低下するリスクがあると考えていることが明らかになりました。
また、グローバル全体で、経営幹部の84%が、AIの幅広い活用はビジネス戦略に不可欠であると考えている一方で、単なる試験導入ではなく、AI機能を本格的に備えた組織の構築を実現している企業はわずか16%に留まっているという結果が出ています。そして、この16%のトップ企業は、その他の企業と比べてAI投資から3 倍近い投資対効果を得ていることも明らかになりました。
AIの本格導入に成功したトップ企業の特長として、他企業と比べて2倍近くの実証実験を行い、はるかに速いペースでAIの本格導入を進めています。しかも、AIへの注力が必ずしも支出拡大につながるわけではなく、トップ企業はそうでない企業に比べ、実証実験や本格導入におけるAIへの投資レベルが必ずしも高くないことが明らかになっています。すなわち、規模は小さくても数多くのチャレンジをしていくことが重要です。
その際、データ、戦略、人材という基本事項から着手するべきでしょう。アクセンチュアの調査によると、95%の企業が、AIを本格活用するための基盤としてデータの重要性を指摘しています。
中でもトップ企業は、データ資産を適切に管理し、67%が社内外のデータセットを効果的に統合。持続的な成長に必要な俊敏性を備え、柔軟なビジネスプロセスを導入した上で、AIアプリケーションを幅広くエコシステムに統合しています。
戦略的な企業は成功を収めるものだと思われるかもしれませんが、AIの導入が進むトップ企業とそうではない企業の違いは、戦略的であることだけではなく、意図的にアルゴリズムの力を活用しているか否か。
解決すべきビジネス課題を明確化し、戦略的思考に基づいてどのようなアルゴリズムが適しているのか検証してから、試験導入、そして本格導入を実施しているのです。
AIはもはやバズワードではなく、新しいビジネス価値と競合優位性の源泉になりつつあります。データが急増し、データがさらなるデータを生む現代では、膨大なデータを集めることが可能。しかし、収集するデータが多ければ多いほど効果が高まるということはありません。
強固なデータ戦略に基づいて成果に必要なデータを適切に収集・分析し、その結果得られるインサイトを活用することで、迅速かつ広範な成果を実現するAI戦略を推進することができるようになるのです。
データ駆動により得られる連続的なインサイトを最大限に活用するためには、アルゴリズムの導入と同時にビジネス戦略の調整を行い、調和の取れたアプローチで「フィードバックループ」を構築し、意思決定に明示的に組み込むことが重要。そのためには、データをビジネスの中心に据えて、俊敏性を備えたインタラクティブな意思決定と開発を行う新たな手法が必要です。
本書では、基礎的な分析手法から、機械学習を用いた実践的なビジネス課題の解決方法まで幅広く紹介。これからのAI社会においてすべてのビジネスパーソンが最低限理解しておくべき、AI・データサイエンスの基礎を筆者らの実際の経験もふんだんに盛り込みながらまとめています。こうした手法を理解した上で、なにより大切なのは、データに基づいた意思決定を業務の中核に組み込むことといえるでしょう。
【目次】