その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は奥山月仁さんの 『割安成長株で勝つ エナフン流バイ&ホールド』 です。

【はじめに】

 私は米国の伝説のファンドマネージャー、ピーター・リンチの本を教科書的に利用して、長期投資を実践している。リンチは、米資産運用会社フィデリティの旗艦ファンド(投資信託)を1977年から13年間運用し、1年当たり平均29%のリターン(運用益)を上げて、初期投資者の財産を28倍にも増やした超一流の長期投資家である。

 「さすがに自分が財産を13年間で28倍にするのは難しいにしても、この人のマネをすれば10倍くらいにはなるのではないか?」。そんな憧れを持って、私は短期トレード主体だった投資スタイルを完全に改め、2008年からは個別株を厳選して長期投資するバイ&ホールドを実践することにした。

ピーター・リンチに学び、ピーター・リンチに並ぶリターンを得る

 当時は短期トレードが大流行りで、長期投資といえば、インデックスファンドETFなどに広く薄く投資する長期分散投資が主流だった。株雑誌や株本を読んでも、バイ&ホールドの方法を丁寧に説明してくれる解説書は皆無と言ってよく、ピーター・リンチの書いた『ピーター・リンチの株で勝つ』(ダイヤモンド社)と『ピーター・リンチの株式投資の法則』(同)の2冊が私にとっては教科書だった。これを何度も何度も読み返し「自分の投資は間違っていないか?」「次は何をすべきか?」と自問自答を繰り返しながらの実践が始まった。

 そんなある日、自分1人で研鑽をしていてもつまらないと思い、ネット上にブログ「エナフンさんの梨の木」を開設して、自分の考える投資を誰にでも読んでいただくことを思いついた。

 私は、金融関係者の多くが自分のお金を個別株に投資することなく、企業評価や市場動向を解説している姿に違和感を抱いていた。そこで、個人として株式で運用している財産の中から100万円だけブログ用に取り出して専用の証券口座を開設し、その投資成績を公表しながら進めるというガチ勝負で行くことにした。2008年7月1日のことである。

 それから13年。その口座の残高は2021年9月6日現在2842万円と28倍を超えている。ピーター・リンチの言う通りに投資をしたら、ピーター・リンチと同じリターンを得ることができたのである。

 振り返ってみると、本当にいろいろあった13年間だった。まず、「さぁ、頑張ってピーター・リンチのように儲けてやるぞ!」と意気揚々とブログを立ち上げた直後の2008年9月、100年に1度と言われる大暴落「リーマンショック」が襲ってきた。あっという間にブログ用口座の含み益は消え、年末時点では2割以上の含み損である。神様はすぐにはご褒美を用意してくれなかった。

 その影響は翌年も続いた。欧州ではギリシャやポルトガルの国債が大暴落し、世界の金融市場は大混乱となった。日本の政治も混乱が続き、2010年には尖閣問題が深刻化し、中国本土では日系企業がひどい排斥運動を受けた。さらに2011年には東日本を未曾有の大震災が襲い、福島で原発事故が発生する。「これでもか! これでもか!」と、この世の終わりのような出来事が株式市場を襲い続けたのである。

 ただ、私の心は明るかった。たび重なる暴落で、素晴らしい成長株があり得ないほどの超割安価格でゴロゴロしていたのである。「どれを買っても儲かりそうだが、いったい、どれを買おうかしら?」。今、思い返すと極めて贅沢な悩みである。

 2012年に民主党政権が倒れ、第2次安倍政権が誕生すると、「アベノミクス」と呼ばれる強力な経済政策に期待が高まり、株価は急上昇を開始した。私の口座もそこからの5年間で6倍以上にも金額を増大させることができた。

 ただ、その後、2017年から2019年の3年間は、損こそしなかったものの、目を見張るような儲けは得られなかった。おそらく、私にとっては、この13年間で最も苦しんだ時期といえる。

 バイ&ホールドの基本は良い株を安く買うことにある。ところが、アベノミクスとセットで続いた異次元金融緩和によって、日本株は実力以上の大上昇を演じたためか、「良い株」を見つけることはできても、それを安く買うのは至難の業となった。良い株が実力以上にさらに高くなるパターンばかりとなり、その後、人気が離散するとともに、それらの株のほとんどは実力相応に暴落した。私はそれらの株の急上昇と急下降を、指をくわえて見ているばかりだったのである。

 そして2020年、新型コロナウイルスが世界を襲った。年初、中国で感染拡大が確認された時はまだ株式市場は冷静さを保っていた。しかし、2月下旬に感染が全世界に広がりはじめると市場は急激に動揺し始め、3月の日経平均最安値は1万6358円と前年末比30%を超える大暴落となった。東京オリンピックは延期され、ネット上には多くの個人投資家が保有株の大半を売却したという投稿があふれた。

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 さて、買い出動である。私の気持ちは再び明るくなった。この暴落はビッグチャンスにしか思えなかったのである。良い株が次々と異常安値をつける中、値持ちの良かった保有株の一部を売却し、コロナに無関係に成長が期待できる割安成長株や、コロナの影響でむしろ業績拡大が期待できる再成長株を、あり得ない割安さで買うことができた。

 結局、その直後に動揺は収まり、それ以降、今度はコロナバブルとも呼ばれる意外な大上昇が始まった。おかげで私は、3月には前年末比で30%も財産を減らしていたにもかかわらず、年末には同41・2%増と大きく勝つことができた。

 2021年に入ってからはバブルのような急騰はいったん収まり、日経平均株価は横ばいの展開が続いている。しかし、まだまだ相場は大きく歪んでいるようで、私にとっては良い株を割安に見つけられるチャンスが続いている。9月6日時点で、前年末比+34・8%と引き続き好調だ。

ピーター・リンチの時代にはなかった巨大な問題

 さて、このように書くと「自分もピーター・リンチの本を読んで財産を28倍に増やすぞ‼」と長期投資を決意される方もいらっしゃるだろうが、少々注意が必要だ。というのも、ピーター・リンチが活躍したのは、今から30年以上も昔の米国のことであり、ちょっとイメージするのが難しい部分がある。もちろん、その本質を突いた内容は21世紀の日本でも何ら色褪せることはないので、今でも教科書として使うことはできる。

 しかし、できれば、日本人が書いた現代版の解説書が欲しいと感じる方も多いだろう。そこで僭越ながら私、奥山月仁の出番である。ピーター・リンチが書いている通りの投資を現代の日本株で実践し、ピーター・リンチと同等のリターンを手にすることができた私が、その真意を汲んだ解説書を書けば、きっと皆さまのお役に立てるに違いない。

 ピーター・リンチは、一言で言うと「素人投資家ならではの割安成長株投資」を推奨している。そこで私も自身の知見や経験も盛り込んで、個人投資家向けに割成長株投資法を解説することにした。本書はそのような狙いをもって書いた第3弾である。

 最初に書いた『エナフン流株式投資術』はアマでも大いに勝てるピーター・リンチ流投資を私なりに解釈し直して、全体を網羅的にまとめた初心者のための入門書という位置づけである(補足解説03参照)。幸い、発売から3年経つが、大変ご好評をいただき、今でも発行部数を伸ばしている。次に書いた『エナフン流VE投資法』については、その最も重要な考え方、つまり、成長株を割安に買うためのノウハウを具体的・体系的にまとめたものだ(補足解説02参照)。実のところ、この2冊を読んで、さらにピーター・リンチの2冊を読めば、個人投資家がバイ&ホールドで勝つためのほとんどのノウハウが手に入るだろう。

 あとはそれを愚直に実践していただきさえすれば、次第に財産は雪だるま式に増えるはずだ、と思っていた。しかし、現代ならではの巨大な問題が存在するため、それを克服しなければ、なかなか勝ちは手に入らないのではないか。そんな心配もあって、再度パソコンに向かい、本書を書くことにしたのである。

 その巨大な問題とは何か? 行き過ぎた情報化社会との付き合い方である。

 SNSやネットニュースが広く普及し、様々な投資情報を誰でも瞬時に大量に入手できる時代になったことで、かえって、多くの個人投資家は大混乱することになってしまった。30年以上前のピーター・リンチのやり方を愚直に実践しさえすればよいのに、もっと良さげな、様々な観点からの投資情報が、何ら整理されることなく、大量に一方的に押し寄せてくるため、何が正しく何が問題なのかもよく分からないまま、情報の渦に溺れてしまう投資家が後を絶たないのである。

 そこで本書では、氾濫する情報への対処法を提示しながら、割安な成長株に投資して大きなリターンを得るバイ&ホールドの手法を解説する。

 第1章では、あなたの元に押し寄せてくる様々な投資情報がいかに危険で利用が難しいものかを説明する。第2章では、このような情報社会でも、なぜオーソドックスなバイ&ホールド戦略が通用するのか、その優位性を詳しく説明する。第3章では、大量の情報の中から、どういうものが長期投資に有効で、どういう情報が害悪なのか、特に短期トレードでは有効でも長期投資ではまるで無意味な情報をどう扱うか、といった内容をまとめている。第4章では、私自身が13年間悪戦苦闘する中で気づいたムダ情報やウソ情報との付き合い方を説明している。

 はっきり言って、本当に良い株を安く買うことができたなら、下手に世界中から新しい情報を集めるよりも、その会社のことだけを深く詳しく調べた方がよっぽどお金持ちになれる。そこで、本物の成長株をどう整理し、どう探し出せばよいのか、成長株の見つけ方を第5章にまとめた。第6章では、投資初心者が最初にぶつかる、しかし最初でありながら最大の壁をどうやって乗り切るべきか、その考え方や方策を提案している。

 前2作と同様、本書も投資初心者向けというスタイルで書いているが、長年投資をしているが成績が伸びない方や、短期トレードや長期分散投資など他の投資法を追求してきたが、今後は個別株の長期投資もやってみたい方など、幅広い読者の方にもお勧めしたい。


【目次】

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