その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は河浪武史さんの『 円ドル戦争40年秘史 なぜ円は最弱通貨になったのか 』です。「序章」の一部をお届けします。

【序章】

<中略>

 最強通貨だった円の転落を決定づけたのは何なのか。一つは2011年の東日本大震災だろう。サプライチェーンが破壊されて生産拠点の海外流出が加速した。原子力発電所の停止で貿易収支も黒字体質から赤字体質へと変化した。

 本来であれば円安は輸出を後押しして日本の国内総生産(GDP)にプラスとなる。ところが、そうした通貨と貿易のメカニズムはうまく機能していない。家電や半導体といったかつて日本を代表した輸出産業は、以前ほどの国際競争力を持たない。24年の貿易統計をみると、輸出額は107兆912億円と前年比6.2%増えた。ところが輸出数量指数でみると、2.6%減の102.9(2020年=100)と3年連続のマイナスだ。貿易収支も赤字のままで、実需の円売りが続いて円安は止まらない。

 円がここまで安くなった大きな理由は日米金利差にある。13年以降の日銀の大規模金融緩和が円売りトレンドを定着させた。その上、日銀は物価上昇率が2%を超えても政策金利を引き上げず、インフレ率を差し引いた実質金利はマイナス2〜3%と他国に比べて著しく低い。通貨は金利が低い方から高い方へと流出し続ける。それが長期円安の根底にある。

 日本はなぜ金利を上げられないのか。それは、日本経済が金利上昇に耐えうる強さを持たないからである。政府部門をみれば1000兆円を超す財政赤字を抱え、大幅な利払い負担の増加に耐えられない。国債金利の上昇は日本の民間銀行にも巨額の債券含み損をもたらすリスクがある。日本の産業界も30年間の超低金利政策で、不採算事業の整理といった新陳代謝を進めてこなかった。

 日銀は金利引き上げを躊躇しており、日米金利差はいつまでも埋まらない。その経緯とメカニズムは本書で詳述するが、過大債務と超低金利の放置のツケが最後に円を著しく減価させて「安いニッポン」をつくりあげたのだ。

 ドル円相場の後ろには常に米国がいた。1985年のプラザ合意は「双子の赤字」に苦しんだロナルド・レーガン大統領の圧力があった。バブル崩壊後の超円高もビル・クリントン大統領の厳しい対日政策が引き起こしたものだ。2008年のリーマン・ショックはFRBの大規模緩和を呼び起こし、2度目の超円高を日本経済にもたらした。「米国第一」を掲げるトランプ政権内には、中国などを巻き込んでドル高是正を目指す「第2プラザ合意」の構想がある。米国は同盟国として日本の経済成長を後押ししつつも、それが自国の脅威になるとドル円相場を使って露骨に圧力をかける冷徹さがある。

 本書は1985年のプラザ合意から40年という節目をとらえて、円の栄枯盛衰を描くものである。それは通貨戦争とも言える経済外交史そのものであった。最強通貨から最弱通貨への転落は、このまま第2の敗戦と評価されて終わるのだろうか。

【目次】

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