その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はサイモン・シネック(著)、栗木さつき(訳)の『 WHYから始めよ[改訂版] インスパイア型リーダーはここが違う 』。「序文」をお届けします。
【序文】ムーブメントの種
いまの世界には、インスピレーションが必要だ。
インターネットが台頭し、クリックやスワイプ、「いいね!」、購入履歴などがすべて記録できるようになったせいで、私たちは短期的視点にとらわれ、効果測定とROI(投資収益率)に夢中になっている。
その代償は大きい。信頼や喜びを失い、仕事のおかげで自分たちよりもっと大きなものの一部になれているという感覚を味わう機会まで逸しているのだ。でも、諦めることはない。WHY(なぜ)から始めることを学んでいけば、この流れを逆転させることができる。
WHYというアイデアがひらめいたのは、私自身が人生でそれをもっとも必要としていた時期だった。私は仕事にやりがいを感じられなくなり、気づいたときにはすっかり落ち込んでいた。だからといって仕事の質が落ちていたわけでも、仕事自体に問題があったわけでもない。ただ、以前は働くのが楽しかったのに、まったく楽しくなくなってしまったのだ。
傍(はた)から見れば、私は幸せそうだったろう。暮らし向きは悪くなかったし、すばらしいクライアントとも仕事ができていた。問題は、仕事に張り合いを感じられないことだった。充実感を覚えることがなくなり、どうにかして仕事への情熱を取り戻す方法を見つける必要があった。
ひょっとすると、大学で文化人類学を学び、とりわけ西洋の都市における人間行動への関心を失っていなかったのが幸いしたのかもしれない。行き詰まり、プレッシャーに押しつぶされそうになっていた私は、自身の問題を解決する方法として、WHYや〈ゴールデン・サークル〉というコンセプトを考えだし、その内容を明快に言葉で説明できるようにした。すると、非常に大きな効果があったのである。
それまでにはなかったほどの情熱を覚えられるようになったうえ、WHYという考え方を発見できたおかげで、世界観が一変した。
WHYはじつにシンプルかつパワフルで、すぐに行動に移せるアイデアだったので、すぐにこれを友人たちにシェアした。人間はなにか魅惑的なものを見つけるとシェアしたくなる生き物だ。本や映画で感動すると、友人や家族に薦めたくなる。それは体験も同じだ。私がWHYのアイデアをシェアした人たちも、やはりまったく同じ反応を示した。
やがて友人たちは、自分の大切な人や友だちにもWHYの考え方を伝えてほしいと、私を招待してくれるようになった。そこで私は誰かの家の居間に立っては、WHYについて語るようになった。ときには、その場にいる人のWHYを見つける手助けをして、100ドルの謝礼をいただくこともあった。こうした居間でのミニ講演会の評判がクチコミで広がったうえ、私自身、耳を傾けてくれる相手がいればこのアイデアを話したくてたまらなくなり、あちこちから講演を依頼されるようになった。
その結果は、私自身にとっても胸を打たれるものだった。WHYというこの新たなアイデアを受け入れた人たちが仕事にやりがいを見いだし、ビジネスやキャリアで大きな飛躍を遂げたのである。なかには、この新たな視点を得て起業した人もいた。
本書で紹介するが、WHYから始めて、イノベーションの〈普及の法則〉を応用すれば、社会にアイデアを広め、ムーブメントを起こすことができる。自分のアイデアを広めたり起業したりする際に、このふたつの考え方を活用すれば、巨額のマーケティング予算も莫大な資金も必要ない。私自身、この事実を実験して証明しようとしたところ、予想以上の成果を得た。
私のWHYのアイデアは、クチコミで広がっていった。それも、SNSが世間を席巻(せっけん)する前の時代にだ。私が信じているものを信じた人たちが、大切な人や愛する人たちにこのアイデアを伝えてくれたのである。すると、次から次へと不思議なことが起こった。出版エージェントではない人物が、私をペンギン・ランダムハウスに紹介してくれたおかげで、私は本書を執筆する機会に恵まれた。そして、べつにこちらから売り込んだわけではないのに、やはり私をTEDxのオーガナイザーに紹介してくれた人がいたおかげで、TEDxで講演をする機会を得た。その結果、このときの講演動画が歴代再生回数ランキング2位になったのである。私はWHYから始める方法を身につけたからこそ、さらにいま、こうして『WHYから始めよ!』の改訂版の序文を新たに執筆しているというわけだ。
私が最初に『WHYから始めよ!』を執筆したときといまでは、世界のあり方は大きく変わったし、ビジネス環境も劇的に変化した。それでも、ありがたいことに、自分のキャリア、チーム、企業で目標を追求するという考え方は、いまではすっかり根づいている。目標を明確にするスタートアップや、Bコープはもはや革命的ではなく、ごく一般的な存在となっている。仕事の社会的意義を明確にする「パーパス」という認識も、いまでは浸透していると言えるだろう。
世界がますます速いスピードで変化を続けるなか、気を散らせるものが溢(あふ)れている複雑な世界で意思決定をおこなう際には、企業や個人が自分のWHYに集中し、それを指針として活用することがいっそう重要になっている。そのなかで、これまで直面したことがないほどの難題に見舞われたとき、私たちはよりよいリーダーが導いてくれることを切望する。私たちを鼓舞(インスパイア)してくれるリーダーを求めるのだ。ここ数十年、世界では理想主義がどんどん衰退している。ジョン・F・ケネディやロナルド・レーガンとは異なり、いまのリーダーたちはもはや「世界平和」を目標にして行動を起こそうなどと訴えかけることはない。しかし、なにかを発明したい、探究したい、世界を前進させたいと私たちを突き動かすものは理想主義にほかならず、その旅の途中ですばらしいインスピレーションを感じたり、充足感を覚えたりするのだ。
私は本書が世界に、そしてもっと重要なことに人々の人生に大きなインパクトを与えてきたことを心から誇りに思うと同時に、謙虚な気持ちにもなっている。この改訂版を出版しようと決心したのは、私たちがきっかけとなって生まれたこのムーブメント――みなさんと私が築きあげてきたもの――の足跡を残したいと考えたからだ。本書ではごく単純な修正を加えた箇所もあるし、最新のものに変更した実例もあるが、本書の核をなすメッセージと教訓はまったく変わらない。
あなたが今回初めて『WHYから始めよ!』を読んでくださっているのであれば、ようこそ。今回の読書が、新たな視点で世界を眺めるきっかけになることを願っている。そして、今回が二度目、あるいは三度目の読書になるというみなさん、おかえりなさい。周囲の人たちをインスパイアするというこのムーブメントの一翼を担ってくださっていることに感謝する。
WHYから始めることを学ぶ組織や人たちが増えれば増えるほど、朝、目覚めたときからインスピレーションを感じ、どこにいても自分は安全だと思い、仕事にやりがいを感じられる人が増えるだろう。それこそが、このアイデアを広めていきたいと願う最大の理由だ。インスパイアしつづけよう!
2025年1月
サイモン・シネック
【目次】


