その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は木下紫乃さんの『 「会社を辞めて幸せな人」が辞める前に考えていること 』です。
【はじめに】
はじめまして、皆様。そしてお久しぶりの方も元気にしてた?
「スナックひきだし」の紫乃ママこと木下紫乃です。私は2016年に「ヒキダシ」という会社を立ち上げ、細々と我が世代、そう、自分を含むミドルシニア世代の人たちにエールを送りたくて、わちゃわちゃといろいろなことをやっています。週に1日、真っ昼間から東京・赤坂見附にある自分のお店のカウンターに立って、お客さんとわいわい話したり、あるときは企業に出向き、中高年世代の方向けにこれからのキャリアを考える研修の講師をやったりしています。
「スナックママ」と「キャリア研修の講師」。一見なんのつながりもないように見える仕事だけれども、私の中ではしっかりつながっているのよ。どちらも、誰かの人生のこれまでの軌跡を振り返ったり、軌道変更や軌道修正について誰かと話すきっかけをつくったりするナビゲーター役だってこと。
私のお店も開店して早7年。たくさんの素敵な人たちに来ていただいています。
素敵っていうのはね、なにも大きな会社でお偉いさんをやっているとか、どえらいお金持ちになったとか、そういうことじゃないの。障害のある子どものために少々会社で不遇なことがあっても頑張っている50代の方、大きな病気を何度もして、気持ちが折れてしまいそうになりながらも、やっぱり自分のことを諦めずに小さな挑戦をしている40代後半の彼女。会社で居場所がなくなっちゃって転職活動をしているけど、40社に落ち続けてまだ1社も面接に進めない。でもめげずに前向きに挑戦している50代後半の常連さん。50歳でいろいろあってすべてなくしてしまったけれど、裸一貫からまたやり直した70歳のおじさま……。そんな「挫折」や「困難」に直面し、困惑しながらもお店で他のお客さんたちと笑いながら、「もう一度、頑張るわ」と言い残して帰る人たち。
私はそういう素敵な人たちに支えられてお店をやってきました。
正直、私にできることはほとんどないの。ただ耳を傾け、そして一期一会で集った人たちと、それぞれが背負っている荷物を見て「そりゃ大変だったね」「それは許せないね」って一緒に愚痴を言ったり声を掛け合ったりするだけです。
でも、前の著作『昼スナックママが教える 45歳からの「やりたくないこと」をやめる勇気』でも書いたように、誰かの挑戦は他の誰かの背中を押すこともあるんです。挫折や困難はいつか「ネタ」になる。みんなでネタを笑い合いながら、お互いを称え合っている。そんな皆さんを見て、誰よりもお店にいる私がいつも励まされています。
この本では「会社を辞める」「会社を辞めない」という、ミドルシニア世代にとってまあまあに大きなテーマを抱えてお店に来てくれた10人の方と話したエピソードを紹介しました。
結局辞めた7人、辞めなかった3人。
次の道がゆるやかに見えてきて、大好きだった会社を辞めることを決意した人、地方転勤を経て、ギラギラの広告代理店・執行役員から福祉の道に進むと決意した人、「あなたは自分の人生を生きていない」と言われてハッとし、キャリアを会社に預ける人生から卒業した銀行マンたち。一方で、早期退職に応募するか10人に相談した結果、辞めるのを踏みとどまった人、日経新聞の人事欄で学生時代の仲間の名前を見るたびに悶々とするエリートサラリーマン……。でもね、選択に正しい、正しくないなんてないんです。自分の選択を「正解」にしていけるのは自分だけなんですよ。
この本を手に取ったあなたも、一度や二度は会社を辞めたいって思ったことがきっとあるわよね。大企業の社長でさえ「辞めたいと思ったことがある」って言っていたもの。それが自然だと思うの。自分でつくった会社でもなくて、自分が選んだ人とだけ働いているわけでもなくて、仕事の内容だって自分のやりたいことだとは限らないし、自分の意思とは関係なくどんどん変化していく。そんななかにいて一度も辞めたいって思わないって、驚異の鈍感力……失礼、柔軟性の持ち主か、逆に全く仕事に思い入れがないかのどちらかじゃないかしら。
人は会社を「辞めたか」「辞めなかったか」の結果しか聞かない。
でもそこに至るまでにはその人らしい会社への思いがある。その人がどんな人で、何を大事にしていて、どんな仲間とどんなふうに仕事をしてきて、どんなふうに働く喜びを感じてきたのか。
たかが、会社。されど、会社。
人生後半に差し掛かった私たちは、バブル世代、超就職氷河期世代と、時代のはざまで「会社」ってもんに対して悲喜こもごも、並々ならぬ思い入れを持っている世代。Z世代からは馬鹿にされちゃうかもしれないけど、そんな時代を生きてきた私たちと会社とのストーリーを聞いてもらいたいの。
そこには、かつてのあなたがいるかもしれないし、ああ今まさに同じことを考えていたって思える話があるかもしれない。そして、これからの道を自分で選んでいこうとしているあなたの背中を、ちょっとだけ押す話が眠っているかもしれない。
スナックで隣のお客さんとママの話に聞き耳をたてるように気楽に、聞いていってください。さあ、ドアを開けて。
いらっしゃいませ。
「スナックひきだし」紫乃ママこと木下紫乃
【目次】



