その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は山崎良兵さんの『 天才読書 世界一の富を築いたマスク、ベゾス、ゲイツが選ぶ100冊(日経ビジネス人文庫) 』。「文庫化に寄せて」をお届けします。

【文庫化に寄せて】

 はじめまして。山崎良兵と申します。

 本書は2022年に刊行した『天才読書 世界一の富を築いたマスク、ベゾス、ゲイツが選ぶ100冊』を再編集し、文庫化したものです。イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツの3人に直接取材できる幸運に恵まれた本好きとして、どうしても世に出したいと思って書いた、初めての著書です。この本には思いのほか大きな反響があり、刊行後、さまざまな新しい体験をしました。

 例えば、日本テレビの「世界一受けたい授業」に先生役として出演し、天才イノベーターと読書の関係について話したり、NHKの教養番組「漫画家イエナガの複雑社会を超定義」でコメンテーターを務め、イーロン・マスクについて解説したりするという展開は、想像もつかなかったことでした。

 こうした折に、繰り返し質問を受けたことがあります。それは、読書の意味と人生に与える影響について、です。

 そこで私は、読書について書かれた本を改めて読むことにしました。A・ショウペンハウエルの『読書について*1』、モーティマー・J・アドラーらの『本を読む本*2』といった古典から、メアリアン・ウルフの『プルーストとイカ──読書は脳をどのように変えるのか?*3』、松岡正剛さんの『多読術*4』、瀧本哲史さんの『読書は格闘技*5』、齋藤孝さんの『読書のチカラ*6』、堀内勉さんの『人生を変える読書 人類三千年の叡智を力に変える*7』など近年の話題書まで、再読を含めて30冊以上読みました。

 そのうえで私なりに考えた読書の意味を、文庫化にあたって、ここに短くまとめたいと思います。

著者との対話を通じて得られる「メタ思考」

 まず読書はその本を書いた著者との対話です。

 「良き書物を読むことは、過去の最も優れた人達と会話をかわすようなものである」。17世紀のフランスの哲学者で「我思うゆえに我あり」という名言で知られる『方法序説』の著者、ルネ・デカルトはこう述べました。

 時空を超えて、はるか昔の時代を生きた人が何に関心を持ち、何を感じ、何を考えたのかを、読書を通じて知ることができるのは素晴らしいことです。例えば、ソクラテス、プラトン、キケロ、セネカ、孔子、司馬遷といった2000年以上前の人であっても、本を読むことで対話できます。「作品は著者の精神のエキスである」とショウペンハウエルが『読書について』で指摘したように、本を読むと書き手の人間性や思想、魂の叫びが伝わってきます。

 私自身も、仕事や人間関係で落ち込んだり、悩んだりしたときに、彼らの言葉に勇気をもらったり、救われたと感じたりしたことがたびたびありました。2000年以上前を生きた偉人も、同じ人間です。喜んだり、悲しんだり、悩んだり、感動したりしています。ソクラテスやセネカのように市民や皇帝の怒りを買い、死に追いやられた人もいます。絶望の中で彼らが何を思い、何を語ったのかに触れると、生きるためのさまざまなヒントを得られます。

 読書は、自分自身を理解する力にもなります。「汝(なんじ)自身を知れ」という、ギリシャのデルフォイにあるアポロン神殿に刻まれていたとされる有名な格言があります。この言葉は古代から現代まで多くの知識人の心を強く捉えてきました。しかし自分一人では自分自身を理解できないので、他者と対話することが欠かせません。その一番手軽な手段は読書です。アポイント不要で持ち歩けて、いつでも開いたり閉じたりできるからです。

 読書を続けると「心の中に、鬱蒼(うっそう)と繁った他者の森ができる」と『読書のチカラ』で齋藤孝さんは指摘しています。多くの本を読んでさまざまな著者=他者の考えに触れると、自分が何に関心があって、何が好きなのかが、次第に見えてきます。自分を知る近道は読書にあると言っていいでしょう。

 さらに読書は思考力を鍛えてくれます。読書を通じて著者と対話していると、頭の中にさまざまな考えが湧き上がってきます。「それは違うんじゃないか」といった否定的なものから、「これはすごいアイデアだ。考えたこともなかった」「私がずっと言いたかったことを、これ以上ないほど完璧に表現している」といったポジティブな発見まで得られます。

 「読書は最強の思考装置だ」。一橋大学特任教授の楠木建さんは『戦略読書日記 本質を抉りだす思考のセンス*8』でこう述べています。優れた読書家は、本の内容をそのまま無批判に受け入れたりはしません。さまざまな本に書かれている情報や意見に触れて思考し、何を取り入れて何を捨てるかを選択しています。このようにして自分なりのものの見方や意見が磨かれていきます。読書を続けることは、思考力を高めることに直結します。

 人間の脳がほかの動物とは違う進化を遂げたのは、文字を持つようになったからだという研究もあります。文字を読むことにより、「私たちの脳の構造そのものが組み直されて、考え方に広がりが生まれ、それが人類の知能の進化を一変させた」。『プルーストとイカ』を著した認知神経科学者のメアリアン・ウルフはこう指摘します。文字を読んで想像力を働かせて思考し、過去を踏まえて前進を続ける唯一の動物が、人間です。

 何より読書は、著者との対話を介して私たちの「知識の幅」を広げてくれます。「本というのは、長い時間をかけて世界のすべてを呑(の)み尽くしてきたメディアです」。松岡正剛さんは『多読術』でこう指摘しています。その心は、ギリシャ神話から、哲学、歴史、詩、経済学、建築、音楽、映画、ラーメン、サッカーまで、「本の中に入らなかったものはほとんどない」ということです。

 自分の認識できる世界が広がると、頭の中にすでに存在する「点」と「点」のような異なるアイデア同士がつながり、新しい発想が生まれる瞬間が訪れます。

 とりわけイノベーションを起こすうえで、知識の幅は力になります。オーストリア・ハンガリー帝国出身の経済学者ヨーゼフ・シュンペーターが語ったように、異なるアイデア同士を組み合わせる「新結合」により、イノベーションは起きるからです。組み合わせる材料となるたくさんのアイデアを読書によって得ていることが、マスク、ベゾス、ゲイツが実現したイノベーションの源泉になっています。

 『本を読む本』では「シントピカル読書」という同じテーマで複数の本を読んで比較・考察することを勧めています。まさにマスクやゲイツはさまざまな分野でこのようなスタイルの読書を実践しています。

 読書を通じて幅広い知識を得て、思考力が高まると、空を飛ぶワシのように、より高い次元からものごとを俯瞰できるようになります。「メタ思考」とも呼ばれるこのような能力を、優れたイノベーターは持っています。読んだ本の内容が自分の中にすでにある知識と結びついて血肉化され、自在に活用できる領域に達しているのです。

 ドイツの哲学者、ニーチェは『ツァラトゥストラ*9』で次のような言葉を述べました。「いっさいの書かれたもののうち、わたしはただ、血をもって書かれたもののみを愛する。血をもって書け。そうすれば君は知るであろう、血が精神であることを」

 天才読書で取り上げた100冊には、著者の「血をもって」書かれ、イノベーターの血肉となった名著、良書がそろっています。この100冊の中から、みなさまの価値観や人生観を変えるような出会いが生まれることを心より願います。

2024年11月  山崎 良兵

*1 岩波書店刊、『読書について 他二編』に収録、斎藤忍随訳
*2 講談社刊、チャールズ・V・ドーレンと共著、外山滋比古、槇未知子訳
*3 インターシフト刊、小松淳子訳  *4 筑摩書房刊
*5 集英社刊  *6 大和書房刊  *7 Gakken刊
*8 プレジデント社刊  *9 中央公論新社刊、手塚富雄訳

【目次】

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