その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はマッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパン 人材・組織・パフォーマンスグループ(訳)の 『マッキンゼー 勝ち続ける組織の10の法則』 です。
【監訳者まえがき】
日本企業組織モデルの機能不全が議論されて久しい。止まらないグローバル競争力の低下、業界という枠を超えた産業構造変化、コロナ禍を経て「待った無し」の状況として、多くのマネジメントが課題意識を持ち、これまでに無く大胆な手を打たれようとしている。
背景には、社員を大切にし、長期に人を育てると信じてきた仕組みが、実態として、能力開発に対する投資の少なさ、挑戦しない・出来ないカルチャーなど、社員の能力を最大限に生かす組織となっていない現実が存在する。弊社がWar for Talentと言い始めたのが1997年だが、まさに人材の能力を最大限に引き出せる企業のみが資本市場からも、労働市場からも選ばれ、競争優位となっている。
一方で、業種を問わず一握りの優良企業は日本社会システムの中においても、高いレベルの組織づくりに成功し、勝ち続けている。いずれの日本企業においても、経営陣は社員の幸せ、成長を真の喜びと感じる方々である。では、この差はどこから来るのか? 私は、組織設計に関する知恵の深さの違いと考えている。そもそも複数企業を通じてキャリア形成を行う欧米マネジメントに比べ、生え抜きが中心の日本企業では、その実体験として経験出来る組織設計の幅にハンデキャップが存在する。
前記の「勝ち続ける」企業においては、間違いなく人材を成長させる組織づくりがマネジメントの最大の仕事と定義され、ハード・ソフトな仕組みの両面でその時々の事業環境にあった仕組みの導入を行っている。組織の仕組みという、他社からは見えにくいこの巧拙が、企業の力の差として表れていると痛感する。これは企業の在り方に関わる話であり、一朝一夕に変えられるものでは無い。しかし、マネジメントが強い変革決意のもと、適切なアプローチを導入することで、数年という比較的短期間でこういった組織づくりを通じて大きな企業変革に成功したケースを見てきている。業績と組織健康度、その一体での変革が成功の鍵である。
この本は2016年に英語版として出版されたものである。日進月歩で進むビジネスの世界において、必ずしも最新書とは言えないが、組織という時代を超えるテーマを扱っている点からも、また日本企業が組織変革を「待った無し」と感じている現在において有用と考える。日本の特殊性議論になりがちな組織論において、グローバル企業が組織づくりという観点で、何に苦労し、何が争点なのか、日本の特殊性を乗り越えんとするこのステージにおいて参考になるのではないかと思う。今まさに企業変革・組織変革を進められようとしている日本企業のお役に立てれば幸いである。
マッキンゼー・アンド・カンパニー
シニアパートナー 井伊宏光
人材・組織・パフォーマンスグループ
2022年11月
【目次】
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