その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はA.T. カーニー(編)の『 A.T. カーニー 業界別 経営アジェンダ 2024 』です。
【はじめに】
激変する経営環境
2022年2月24日早朝、ロシアが突如としてウクライナに侵攻を開始しました。確かに、その前年の11月ごろには、ロシアがウクライナ南部のクリミア半島や同国東部の国境付近に軍隊を集め始め、米国などいくつかの国からはウクライナ侵攻の懸念が発信されていました。しかし、2021年の11月以前、または2022年の2月下旬時点においてでさえ、ウクライナ侵攻それ自体やそれに伴う穀物価格・エネルギー価格の上昇などを予測し、十分な対応をとれていた企業(経営コンサルタントも)は多くはないと思います。
その理由としては、事業がグローバル化しサプライチェーンもグローバル全体に広がった結果、あらゆる事業活動が世界とつながる中で、自社が主に事業を展開する産業・地域におけるトレンドだけではなく、ある産業・地域における出来事が、バタフライ・エフェクトのように、他の産業・地域に大きな影響を及ぼすようになってきており、あらゆる産業・地域の動向を注視しなければならないことがあります。それに加えて、注視すべき対象も、国家のマクロ政策や消費者動向だけでなく、破壊的なテクノロジーの登場やそれらを背景とした新たな競合プレイヤなど、経営者が注視しないといけないトレンドが、かつてと比べものにならないほど増えていることがあるように感じます。例えば、ここ数年だけでも、ほんの一例を挙げただけでも、ゲノム、生成AI、ロボティクス、サステナビリティ、インフレーション、少子高齢化、人材不足など経営者が注視すべきトレンドを挙げればきりがない状態です。
このように、現代の経営者にとって、幅広い産業を俯瞰し、そこで起こっているトレンドから自社への影響を考察する必要性が高まっています。一方で、自社が事業展開している領域ならいざ知らず、それ以外の領域も含めて、現在何が起こっているのかを横断的に把握するのは、非常に難しいのではないかと思います。そこで、幅広い産業の経営に触れている戦略コンサルティングファームとして、日々のコンサルティングワークの中で感じている最新の潮流や変化を業界網羅的に提供することが、そのような経営者の悩みの解決に貢献できるのではないかと考えたことが本書を執筆することを思いついたきっかけです。
A.T. カーニーとは
A.T.カーニーは、1926年に米国シカゴに創立され、約100年の歴史を持つ世界で最も歴史がある戦略コンサルティングファームの一つです。グローバルでは5300名のコンサルタントを抱え、フォーチュングローバル500のうち、4分の3以上を顧客としているグローバルでも有数のコンサルティングファームです。また、A.T. カーニーは、日本においては、1972年に東京に拠点を設けて活動を始め、50年超の歴史を有しています。我々は、様々な製造業やサービス業、金融業など幅広い産業に対し、経営戦略、オペレーション最適化、各種機能戦略の策定支援等のサービスを提供し、日々、日本の経営陣が抱える最先端の課題を解決すべく取り組んでいます。
A.T. カーニーは、グローバルでは、ダボス会議での戦略パートナーを務めるなど様々な国際機関や国際会議の有力なパートナーとして、各種アイデアを発信するとともに、その実現を支援してきました。また、日本オフィスにおいては、内閣府や経済産業省、金融庁などにおいて各種政府委員を務めたり、経営者が集まり、最新のアジェンダを討議する場を定期的に開催するなどしてきました。成長産業カンファレンス(FUSE)の後援などによるスタートアップと大企業の橋渡しを担ってきました。また、グローバルの40カ国・地域以上に拠点を有するグローバルファームとして、社内にGlobal Business Policy Council(GBPC)という社内シンクタンクを有し、各国の政府関係者や経営陣と共同してマクロトレンドの分析や今後の展望を研究してきました。
A.T. カーニーの日本オフィスは、「日本を変える。世界が変わる」という考えのもと、「2050年までに、世界中の経営のロールモデルとなる日本を代表する大企業20社、世界に新たな価値を創造する日本発ベンチャー企業200社を生み出す」ご支援をしたいと考えております。そのため、このような国内外での活動を通じ蓄積された最新の知見を、書籍やホワイトペーパーという形で還流できればと考えております。
本書の位置付けと狙い
本書は、日々日本企業の経営課題に向き合っているA.T. カーニーのシニアパートナー、パートナー、プリンシパル、マネージャーが共同で書いたものです。各プラクティス(産業軸や業界横断テーマ軸で括った社内の組織)において、日本を代表する企業と毎年、膨大な数のプロジェクトに従事する中で、大きな潮目の変化や新たな脅威などを感じることが多くあります。
本書は、可能な限り幅広い産業・業界横断テーマをカバーし、そこで起こっている最新のトレンドを俯瞰することに重きを置いています。対象とするテーマを絞り、そのテーマに関し可能な限り多面的に検討する形も考えましたが、激変する経営環境においては、特定テーマの深掘りよりも産業・業界横断テーマを俯瞰して幅広い視座を提供することによって、読者の皆様にとって得られるものが多いのではないかと考え、このような形式をとることになりました。その結果として、当初の狙いは実現される一方で、一業種・一業界横断テーマ当たりに割ける文字数には限りがあり、概要・方向性の提示に留まり、詳細な具体を共有するところまで踏み込み切れなかった感も否めません。そのような点に関しては、各プラクティスが発信しているホワイトペーパーなどで補完いただいたり、各章の著者に直接相談いただければ幸いです。このような本書の特徴に基づき、読者の皆様におかれましては、興味がある産業・業界横断テーマに関して、空き時間にクイックに読んでトレンドにキャッチアップする形で活用いただくのもよいですし、複数業界を連続して読むことで、それらに通底するメガトレンドやうねりを感じてもらう等、読者の皆様の置かれた状況に応じて柔軟に利用できる書籍になったのではないかと考えています。
最後になりましたが、本書の出版にあたっては、数多くの方々にご尽力いただきました。各章の著者である、A.T. カーニーの各プラクティスのシニアパートナーからマネージャーまでの各位のみならず、その裏側では各プラクティスメンバーには、ブレストや各種プロジェクトの経験のインプットをしてもらいました。また、Global Researchチームの今村さん、工藤さん、竹田さんには各種調査を手伝っていただきました。加えて各シニアメンバーの秘書の方々(貝塚さん、天田さん、小林玲奈さん、小林恵さん、新井さん、梶さん、菅さん、青山さん、香川さん、春日さん)にも、本書作成のための時間確保や予定調整などに尽力いただきました。マーケティングチームの久々江さんには、企画段階から各種支援をいただいております。このように各章の著者以外の方々の献身的なサポートが無ければ、上梓することはできなかったものであり、この場を借りて感謝をしたいと思います。
また、本書の企画・構想からお付き合いをいただいた日本経済新聞出版の永野裕章様には根気強く辛抱いただくとともにお力添えをいただきました。その他、本書の出版を支援してくれたすべての方に御礼申し上げます。
A.T. カーニー シニアパートナー
久野雅志
2023年11月
【目次】

