その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は平沼光さんの『 サーキュラーエコノミーの地政学 』です。
【はじめに】「残念な日本」からの決別を
残念な国、日本
「資源に乏しい我が国は……」
これまで日本人はこのフレーズをなんの疑いもなく、当然の宿命のように受け入れてきてはいなかっただろうか? 「資源に乏しい」ことを決まりきった前提として、日本に足りない資源を、世界中からコストと労力をかけて、かき集めてきたのがこれまでの日本ではないだろうか。
そのため、中東諸国や中国など、いわゆる資源国で紛争や政情不安が起こるたびに資源の調達不安定化に悩まされ、またある時は資源国から資源を外交カードにして不利益な取り引きを迫られるなど、日本は資源の呪縛に振り回される「残念な国」として長年苦渋に耐えてきた。
直近では、ロシアによるウクライナへの侵攻の影響による石油、天然ガスなどの化石燃料の高騰が日本にも大きな混乱をもたらしたことは記憶に新しいところだろう。
石油や天然ガスなどの化石燃料は今や資源としての地位を確固たるものにしているが、初めから確固たる資源として世の中に登場しているわけではない。
石油が今日の用途としての資源価値を持ったのは、1859年8月にアメリカ人のエドウィン・L・ドレークが岩塩掘削技術を用いた機械掘りによる石油の大量採掘の道を拓き、85
年にドイツ人のゴットリープ・ダイムラーとカール・ベンツが相次いでガソリンエンジンを搭載した車両の開発に成功したことから始まっている。
それ以前は、地面に滲み出た石油の一種であるアスファルトを接着剤として使ったり、せいぜい石油を精製したケロシンという灯油をつくったりするくらいしか用途がなく、決して今日のような資源価値はなかったのである。
中国との外交関係が不安定になるたびに注目されるレアアースも、1982年に日本の佐川眞人博士がレアアースを使った強力な磁石であるネオジム磁石を開発し、電気自動車や風力発電のモーターなど、強力な磁石を必要とするあらゆるものに使われるようになったからこそ、なくてはならない資源としての価値を持つようになったのだ。
佐川博士の発明がなければ、レアアースは今日においても、ただの土くれでしかなかっただろう。
このように今日我々が資源と呼んでいるものは、もともとは資源ではなかった。
石油にしろレアアースにしろ、人々がその有用性を見出し、活用するための技術を開発してきたからこそ必要な資源となったのであり、資源は時代によって移り変わるものなのだ。
資源とは何か
資源とは何かについて、例えば文部科学省では、「人間が社会活動を維持向上させる源泉として働きかける対象となりうる事物」と定義しており、非常に漠としたとらえ方をしている。
人間が働きかける対象となる事物が資源であるとすれば、未来の資源を見通すにあたっては、化石燃料など地中に埋まっている埋蔵物が資源という日本人のステレオタイプ的な思考を排し、これまで誰が、何に対して、どのように働きかけて資源を生みだしたのか。そして、次は誰が、何を資源とするため働きかけるかという視点は欠かせない。
近代では、石炭、天然ガス、石油という資源が時代の流れとともに登場してきたが、現代においては、気候変動問題と資源・エネルギー安全保障という世界の潮流を背景にして次の資源を生みだそうとする動きが起きている。それがサーキュラーエコノミー構築の動きだ。
本書の第Ⅰ章にて詳細を説明するが、気候変動問題の原因である温暖化に対処するためには二酸化炭素の排出を大幅に削減しなければならない。
そのためには風力発電、太陽光発電などの再生可能エネルギーと省エネ・高効率機器の導入拡大が欠かせないが、それにはレアアースやリチウムなどのレアメタルをはじめとした鉱物資源が必要になる。
一方、世界の鉱物資源の需要は増加し続け、希少金属を含めた様々な鉱物の累積需要量が2050年までに地下の埋蔵量を超えてしまうことが予測されており、資源の枯渇リスクによる資源の奪い合いや囲い込みといった資源ナショナリズムが激化することが懸念される。
資源の枯渇と資源ナショナリズムの激化を防ぐためには、地下から掘り出す埋蔵資源(バージン資源)に頼らず、廃棄物から資源を回収・再利用するリサイクルが必須となる。
また、廃棄物のリサイクルを進めることは、カーボンニュートラルを目指すうえでも、産業のサプライチェーンにおける原材料の脱炭素化という視点でも重要になる。
こうして、気候変動問題というエコロジーな視点を背景にして、世界では「採掘した資源で製品をつくり、消費し、捨てる」という資源を直線的に消費して使い捨ててきたこれまでの経済モデル(直線経済)から脱却し、資源を廃棄物から回収し、リサイクル資源として循環利用するサーキュラーエコノミー(循環経済)へと移行する動きが加速しているわけだが、各国がサーキュラーエコノミーに取り組むのはエコロジーのためだけではない。
資源と資源国の大転換を引き起こすサーキュラーエコノミー
サーキュラーエコノミーにおける資源とは、埋蔵資源ではなく廃棄物から再生したリサイクル資源が中心となる。
これは、資源の主役がリサイクル資源という新しい資源に入れ替わることを意味する。同時に、これからの資源国とは埋蔵資源に富む国ではなく、リサイクル資源を生みだせる国となる歴史的な転換期を迎えているといえるのだ。
すなわち、非資源国にとってはこれを機会に資源国にのし上がるべく、そして資源国においては、引き続きその座を死守すべくサーキュラーエコノミーの構築に取り組むという国の繁栄をかけた競争なのである。
これまで「資源に乏しい」とされてきた日本であるが、国内では日々大量の廃棄物が生みだされ、蓄積されている。国内の廃棄物を資源として再生利用すれば、日本は資源に乏しい「残念な国」から抜けだし資源国となれるチャンスがめぐってきたといえる。
逆に、日本がサーキュラーエコノミーに対応できずにこのチャンスを逃せば、日本はリサイクル資源にも乏しい「さらに残念な国」になり下がることになる。
筆者がプロジェクトリーダーを務める公益財団法人東京財団の資源エネルギープロジェクトでは、このような視点を持ってサーキュラーエコノミーへの日本の対応策を考察してきた。
本書はその成果の一端をまとめたもので、サーキュラーエコノミー構築の動きについて、欧州、中国、アメリカといった世界の動向を解き明かすとともに、これまで日本はどのように資源に向き合ってきたか、そしてサーキュラーエコノミーに対応し「残念な国」から抜けだすには何が必要なのかを考察するものである。
本書の執筆においては、リサイクル事業者の皆様をはじめ国内外にわたり様々な方々にご協力をいただいた。ここであらためて感謝を申し上げたい。そして、『日経プレミアシリーズ 原発とレアアース』『2040年のエネルギー覇権』『資源争奪の世界史』『異次元エネルギーショック』に続き、本書を執筆する機会を与えてくださった日経BPの堀口祐介氏には、心から感謝を申し上げたい。
2025年12月
平沼 光
【目次】






