その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は今井誠さんの『 あの会社はなぜ、経済学を使うのか? 先進企業5社の事例でわかる 「ビジネスの確実性と再現性を上げる」方法 』です。

【はじめに】

研究者たちの知恵を、ビジネスで強欲に使いこなす

 本書は、企業がビジネスに経済学を活用することを目的としています。実際にビジネスに活用している5社に取材を行い、
・どういうきっかけで、経済学の活用を始めたのか
・どのように、どんな場面で活用しているのか
・活用して、どう変わったか
 などを聞き取り、まとめました。5社の活用の仕方は様々。感じているメリットも様々です。また、経済学者が社内にいる企業、いない企業など、社員の専門性の度合いも様々です。
 本書で紹介している先進事例は、経済学をビジネスに役立てようと考えている方はもちろん、そもそも経済学はビジネスに役立つのかどうか懐疑的な方にも、参考にしていただけるのではないかと思います。

「ビジネスに経済学を活用する」ということ

 本書に限らず最近、経済学をどのようにビジネスで活用するかというテーマの書籍が、多く出版されています。
 「経済学を用いると、データ分析が容易になる」「スケーリング(ビジネスのスケールを拡大すること)のためには経済学が有用」「経済理論をビジネスに当てはめる」など、そうした書籍は、様々な観点から、ビジネスと経済学を掛け合わせています。

 それらの書籍が主張するように、ビジネスに経済学を取り入れることには、様々なメリットがあります
 そもそも経済学とは、私たちが生きる「現実社会」を、より客観的に分析し、体系化したものです。ビジネスで得られる経験や体験、業界ならではの慣習や慣例、方法論などと相性がいい。
 ビジネスの現場で起こっていることに、経済学の理論を掛け合わせたり、その手法を取り入れたりすれば、そのビジネスは、確実性(うまくいくかどうか)、再現性(状況にどの程度左右されるか)、普遍性(属人的な仕事から脱却し、あらゆる場面で運用できるか)など、様々な面が改善されるでしょう。

 経済学の活用がますます進むことは、みなさんのビジネスを前進させ、抱えている 課題の解決につながるはずです。

経済学者には見えて、実務家には見えない「つながり」

 しかし一方で、「理論と実際は違う」「自分の仕事に、実際にどう活用したらいいかがわからない」といった声もよく聞きます。
 「そもそも、経済理論と結びつくようなビジネスをしていないから、自分には使えない」
 という声です。
 なぜ、せっかく「ビジネスに、経済学を活用しよう」と思って書籍を手に取ったのに、実際に行動を変えるには至らないのか。

 私はその理由の1つは、「そうした書籍の著者の多くが経済学者だから」ということではないかと考えています。
 そうした書籍では、経済学をすでにビジネスで活用していることが前提で書かれています。そもそも、経済学とビジネスが「つながって見えている」ような状態です。しかし、多くの現場では、ビジネスと経済学は関連づけられてすらいないはずです。
 経済学を知らない側(現場のビジネスパーソン)は、そもそも経済学の研究が、何を掘り下げていて、理論と研究がどうつながっているのかがわかりません。経済学が解決可能な課題を見分けられなければ、深掘りすること、そして理論につなげていくことは不可能でしょう。
 日々の業務の中で課題が見つかったとしても、そのような状況では経済学で解決しようにも無理があります。誰かに相談することも難しいのではないでしょうか。

 私は、経済学者ではありません。けれども、いくつかの企業を立ち上げていくうち、経済学者が考えている経済学とビジネスの「つながり」を感じるきっかけがありました。

 私自身の就職活動は、当時の日本では当たり前だった「終身雇用」を意識したものでした。しかし、ちょうど私が社会人になる頃、ある大手金融機関が経営破綻。終身雇用の慣行にも陰りが見え始めていました。
 また、世の中ではベンチャー企業が少しずつ増え、上場を果たす企業まで出てきたこともあり、私自身のキャリアとして、ベンチャーへの転職やスタートアップの創業への関心が高まっていきました。
 そうした経緯もあって、いくつかのベンチャー企業やスタートアップの創業に関わることになるのですが、その中で、企業成長の課題にぶつかりました。面白いアイデアがあり、具現化する力があり、活気とやる気もある。なのに、なぜかスケールしない。そんな状況でした。
 日夜、ベンチャー企業の事業成長を考えていた私は、そのときふと、中高の同級生が大学で経済学を教えていることを思い出しました。
 「彼の研究は、もしかして自分の抱えている課題に、ヒントをくれるかもしれない」
 そんな予感を覚え、私の関わっているビジネスの話を彼にしました。私にとっても、ビジネスの課題に対して経済学の視点で改善に取り組む、初めての経験でした。
 そして、そこでいくつかの衝撃を受けました。同じ事象を見ているはずなのに着眼点がまったく違う。「業界慣行だから」「過去、こうしてきたから」と伝えても、それはどういうことかと返される。
 自分がいかに勘と経験中心の偏った視点で仕事に取り組んできたのかを実感することとなりました。

 私自身の体験を、多くの人に知ってもらいたい。体験から得た、経済学のビジネス活用のために必要な準備・心構えを共有したい。その想いをもって、「経済学×ビジネス」のワークショップを定期的に開催することとなりました。このワークショップは評判を呼び、多くの方にご参加いただきました。
 こうした体験があったからこそ、「ビジネスに経済学を活用していく」というスタートアップの創業につながり、今、この本を執筆するに至っているのです。

 繰り返しになりますが、私は経済学者ではありません。でも、経済学とビジネスが「つながっている」ことを知っています。現場がどうすれば、経済学や経済学者にアクセスできるのか。ビジネス課題に対して、また経済理論に対してどう向き合っていけばいいのか。経済学者ではないからこそお伝えできることは、きっと多いはずです。

経済学をビジネスにもっともっと活用していこう

 経済学スタートアップを創業したことで、様々な企業と接する機会も増えてきました。接していると、多くの企業が経済学で解決できそうな課題を抱えていることに気づきます。
 しかし、大半の企業は、「経済学」が視野に入っていません。経済学の入門書はたくさん出版されているのに、「ビジネスと関連づけて考えよう」という動きは進んでいないのが現状です。

 経済学というツールは、企業成長にたいへん大きな効果を与えてくれます。しかし、一般にはまだまだその活用方法が知られていません。
 企業やビジネスパーソンは、何をきっかけにビジネスと経済学のつながりを知り、効果を体験するのか?
 日本の経済学活用先端企業は、どのようなアドバンテージを得ているのか?
 本書を通してこうした疑問を解消し、新たな一歩を踏み出していただくことを願うばかりです。
 多くの企業には、データが集まり、そのデータ分析を基に新たな戦略を練るチャンスがある。これからの企業成長のツールとなる経済学とビジネスパーソンの関係性を一度考える機会となれば幸いです。

【目次】

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