その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は中村直文さんの『 「ヒットの達人」の頭のなか 』です。

【はじめに】

 2016年から2年間、日本経済新聞社が発行する消費・流通の専門紙「日経MJ」の編集長を務めていました。それなりの経験を積み、自信満々で編集長職に臨みました。しかし記者から理解不能な提案が数多く出され、判断に迷うことばかり。

 「SNSのアイドルがいます。ぜひ取り上げたいのです」。何それ? 採用をためらいましたが、熱心にプレゼンテーションを繰り返してきます。どうせ読まれないけど、そこまで言うならば、と承認すると、その記事になんとX(当時はツイッター)で5000以上の「いいね」がつきました。

 しばらくしてからのこと。「映画のシン・ゴジラで1面特集を組みたい」とややマニアックな記者が言ってきます。映画で書くなんて邪道だなぁ。こちらは消極的でしたが、記者は4回も映画を鑑賞。「日経の本社ビルも壊されていますよ」というネタをぶち込んでくるのでとりあえず採用しました。その新聞の発売日。ネットで日経MJが話題になります。確かヤフートピックスでMJが3位に入ったと記憶しています。社内外で話題になり、編集長としては鼻高々。担当記者と見出し・構成をしてくれた整理担当記者、デスクを連れてごちそうしたのは今でもいい思い出です。

 能書きが長くなりましたが、自分の面白いと思うネタと、周囲が評価するネタは違うという当たり前の事実を突きつけられたということです。所詮自分の感覚は過去のもの。ヒットなんてわからない! 逆にますますヒットの極意について知りたくなり、日経MJ編集長の後に、日本経済新聞の編集委員になってもヒットを巡る冒険は続きました。

 ヒットとは消費者心理をつかむことです。マーケティングはその手段であり、思考法です。狭義のマーケとは宣伝や販促ですが、広義としては「問題発見」であり、「問題先取り」です。これはネスカフェアンバサダーやキットカット受験生応援キャンペーンを推進したネスレ日本元社長の高岡浩三氏から学びました。

 ほかにも「不平・不満・不幸」という3つの不の解消、新しい現象を言語に変換する「記号化」、「あるある(共感)」の発見、消費者本能のくすぐり、推しと沼作り……。ヒットは他者に寄り添うアプローチに満ちています。

 この本は2018年に連載を開始し、2026年で9年目に入る日本経済新聞・電子版のコラム「ヒットのクスリ」をベースに作りました。記事は400本近くに上るのでいくつかピックアップし、分類化しました。ヒットへの企業や個人のユニークな取り組みとともに、その商品が世の中に登場した時代の息吹を感じてもらえたら、筆者にとって望外の喜びです。

 いざ、ヒットメーカーの頭の中へ!

【目次】

画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示