その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はダニエル・エイメン、チャールズ・フェイ(著)、鹿田昌美(訳)の『 メンタルが強い子に育てる 「自走できる子」になる脳科学と心理学の最新成果 』です。「日本語版に寄せて」をお届けします。

【日本語版に寄せて】

「完璧」を目指すことが、なぜ問題なのか

ダニエル・エイメン(精神科医)
チャールズ・フェイ(心理学博士)

 完全への飽くなき追求―。
 これは、トヨタ自動車〈レクサス〉の最初の広告のキャッチコピーだ。高級車とそれを製造する日本文化をまさに象徴するフレーズと言えるだろう。
 問題はただひとつ。人間の場合、完全はありえないということだ。
 そして、この「完全への飽くなき追求」が、日本の子どもたちの心の健康に深刻な悪影響をもたらしている。実際に、最近のユニセフの調査では、日本の子どもの「精神的幸福度」(生活満足度と自殺率を評価指標とする)は38カ国中37位だ(ユニセフ「レポートカード」2024年)。
 興味深いことに、日本の子どもは同じ調査で、身体的健康において1位である。この矛盾は、身体の健康だけでは全体的な健康につながらないことを強く示している。

 本書で繰り返し述べているように、人間の心と身体は深く結びついていて、どちらかを軽視すると、必ずもう一方に影響が及ぶ。だから、心の健康(メンタルヘルス)に注目することは、子どもに良い食事を与え、運動させることと同じくらい重要なのだ。
 残念なことに、日本のように高い能力を持つ国では、良い成績をとらなければならないという社会的なプレッシャーによって、子どもの不安やうつ病といった心の健康の問題が見過ごされやすい。
 さらに問題を悪化させているのが、世界中の何百万もの子どもたちと同様に、日本の子どもたちも、ソーシャルメディア(SNS)の影響に悩まされていることだ。SNSで常に仲間と――多くは非現実な形で――比較されることで、不安や心配が増える。また、心の病に対する偏見によって、多くの子どもたちは、親や専門家の助けを求めることをためらっている。
 私たち2人の著者には子どもがいるので、その気持ちも大いに共感できる。親として、わが子が苦しむ様子を見守るのはつらいし、先の調査結果を見ても、私たちはつい、どこで失敗してしまったのか、もうできることはないのか、行動を起こすには手遅れではないか、などと考えてしまいがちだ。
 でも、そんなことはない。
 「強く、自信にあふれ、適応力のある子」を育てる親は世界中に存在する。あなたもきっとそうなれる。精神医学や心理学、宗教学の学位などなくても大丈夫だ。必要なのは、いくつかの小さくてシンプルな取り組みを一貫して行うこと、ただそれだけだ。本書はそのためにある。

 この本では、あなたのお子さんの社会的・心理的・精神的・身体的健康を大幅に向上させるのに役立つ実証済みのツールと、具体的で実践しやすい戦略をご紹介する。

 親や教育者は何よりも、「自分の感情に気づき、伝えること」を最優先にすべきだ。まずはそこから始めよう。子どもには、恐れを抱いたり、批判を受けるのではないかと心配したりすることなく、自分の気持ちを素直に表現できる安全な環境が必要だ。
 そのために、学校にメンタルヘルス教育を組み込み、子どもたちの感情的知性とレジリエンス、そして対処メカニズムの成長を助ける必要がある。マインドフルネスや感情コントロール(いずれも本書で解説する)の教育や訓練は、子どもたちが自分の感情と「健全に向き合う」ことに役立ち、それが最終的に、心の健康を高めてくれる。同様に、学業に関するプレッシャーを減らし、子どもを全体的に捉えるようにすれば、オープンなコミュニケーションやバランスの取れたライフスタイルが促され、やがては子どもの精神的負担の軽減にもつながるだろう。
 さらに重要なのは、「親が家庭でできることは何か」ということだ。親に実行できる最も効果的な方法であり、本書の大切なメッセージでもあるのは、わが子に「失敗や間違いをしてもいい」と教えることだ。
 先述のように、完全な人間などいない。しかし、高いパフォーマンスが求められる現代の子どもたちにとって、「自分が基準値に達していない」と感じるのは非常につらいことだ。親からそう見られるとしたらなおのことだ。子どもは、自分が間違えたとしても、この世の終わりが来るわけではないことを理解する必要がある。実は、間違えるのは良いことなのだ。

 本書で詳しく説明していくように、人は間違えることで、問題解決スキルが発達する。子どもがこのことを理解し、効果的・実践的なミスへの対処スキルを習得できれば、不安と絶望は希望と楽観に変わる。それによって、失敗は物事の最終形ではないと思えるからだ。失敗は、さらなる知識を武器に、もう一度挑戦するための有益なチャンスなのだ。そして、私たち親に手伝えるのはまさにこの点だ。一歩引いて、わが子の間違いを許そう。わが子への愛情と信頼をしっかりと伝えながら、失敗から得られる教訓を探し出す手助けをすることが何より重要だ。
 子どもに高い期待を寄せてもいいが、研究データが示すように、愛情とサポートというしっかりした基盤がなければ、それは役に立つどころか有害ですらある。
 本書では、子どもが自力で問題解決することの大切さを説き、親が子どもの代わりに問題を解決したり、すぐに結論や罰を与えたりするのではなく、子どもが自分で困難な状況を乗り越えられるように導くための提案を行う。自制心を育み、自己責任を教える親の子育ては、放任主義や懲罰的な(またはその両方の)親の子育てよりも、はるかに効果的だ。

 「メンタルが強い子に育てる」とは、「あなたがつくり出した厳しい状況から、私が救い出してあげる」と伝えることでも、「私に助けを求めないで。この状況に陥ったのはあなたのせいなのだから、自分で抜け出せるでしょう」と伝えることでもない。そうではなく、「私はあなたを愛し、信頼している。あなたなら解決できると信じている。何が起こっても、私は必ずあなたのそばにいる」と伝えるということだ。子どもにとって、これほど力強いメッセージはない。
 とはいえ、規律とルールの遵守も、子どものメンタルヘルスの向上に重要な役割を果たす。家庭で適切なルールや制限を設けることで規律と安全性が確保され、子どもへの期待のかけ方も明確になる。これらはすべて、子どもが安心を覚え、自分が理解されていると感じるために必要なことだ。そして、どのようなルールを設けるにしても、「共感」と「柔軟性」を忘れないこと。厳しすぎたり、子どもの感情を考慮していないルールは、ストレスや恨みの感情につながり、子どもの心に良い影響を与えない。
 だからこそ、本書では子どもに自制心と責任の大切さを教え、なぜルールが必要なのかを理解してもらうことに重点を置いている。私たちのルールは懲罰を意図したものではなく、むしろ子どもを愛しているからこそ設けられた、子どもを守るためのガードレールだ。愛情を込めて「ノー」と言えば、次のようなメッセージを伝えることができる。
 「私はあなたを見守っているし、とても大切に思っている。あなたの価値を認めているからこそ、あなたが将来、幸せで健康な人間になれるように、多少の反発は覚悟している」

 日本の子どもたちは、世界中の子どもたちと同様に、優れた身体的健康と学力の維持だけでなく、親からの深い愛情や、互いに支え合う関係も必要としている。自分の失敗や挫折に対処するスキル、潜在能力を最大限に引き出すための指導とアドバイス、そして、自由にミスをしてそこから学べる安全な環境も必要だ。本書では、そのすべてのノウハウに加え、それ以外の有効なヒントもお伝えする。
 子育ては難しい。SNSが主導するハイペースな現代社会ではなおのことだ。スマートフォンやゲームなど、さまざまなモノがあふれるこの世界で、親が子どもに与えられる最高に素晴らしく、価値あるプレゼントは、健康な脳と心だ。愛情と共感と理解を通じ、わが子のメンタルの強さを育もう。それは、お子さんが将来的に成功し、生涯にわたって良好なメンタルを保つための備えをするということでもある。

【目次】

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