東京の台東区蔵前にある透明書店は、クラウド会計ソフトを展開するfreeeの子会社として2023年4月に始まった本屋さんだ。「スモールビジネスを実体験し、スモールビジネスに携わる人に刺激を与えたい」という狙いのもと、日々の売り上げ数字をネット上で公開、店先にはChatGPTの「くらげ副店長」を配するなど、大きな話題を呼んでいる。同店店長である遠井大輔さんと代表の岩見俊介さんに、1年間の手応えとこれからを伺った。
試行錯誤の日々
遠井さんは公募で店長として採用されたんですね。
はい。もともと知り合いだった内沼晋太郎さん(NUMABOOKS代表、ブック・コーディネーター、透明書店の協力者でもある)のFacebookで、店長を募集していることを知ったのがきっかけです。面接では本について長くしゃべったようで、それがよかったのかどうか分かりませんが、採用されました。
選書はすべて遠井さんが担当されているのですか。
開業時は、私と透明書店創業者の岩見俊介さん、岡田悠さん、NUMABOOKSの方も加わり、チームで本を選んでいきました。それぞれ興味や得意分野が異なるので、いろいろなカラーが出てよかったと思います。現在は私が大半の選書を担当しています。
お店の中を案内していただけますか。
当初はこの店で果たしてどんな本が売れるのか分からなかったので、試行錯誤の毎日でした。今店頭に展開しているのは、上半期(23年4~10月)、下半期(23年11月~24年3月)の売り上げベスト5の本です。当店で開催したイベントに関係した本が上位を占めています。
その隣は開店から数カ月を経て少しずつ充実させてきた棚です。読み物、小説、短歌、俳句、エッセーなどを展開しています。場所柄、スモールビジネスを特に意識せずに、遊びに来るお客様も多いことが分かってきたので、こうした本も増やしています。短歌、俳句は僕も個人的にやっていて、「スモールな」表現という面もあります。
こちらには小出版社や個人出版社のコーナーがありますね。
はい。今は42の棚があります。小さな出版社はたくさんありますので、全部は紹介しきれません。時折入れ替え、位置を変えています。この近所にある「Book & Design」は、デザイン雑誌の編集をしていた方が始めた個人出版社で、 『明朝体の教室』(鳥海修著/Book&Design) をはじめ、造本やデザインにこだわった本を出しています。
小版元や個人出版社が出しているリトルプレスやZINEを増やしつつあります。本の好きなお客様が手作り感を気にいって買っていかれます。こちらは沖縄の与那国島に移住して与那国馬と暮らしていた河田桟さん(現在は久米島に移住)という方のエッセーです。
ここで透明書店代表の岩見さんがいらっしゃった。
透明書店の経営にはどれぐらいの人が関わっているのですか?
透明書店のプロジェクトは当初、私と岡田悠の2人が共同創業者として始めました。岡田は現在育児休業中のため、今の代表は私1人です。日々店頭に立って、選書や仕入れを行うのが、店長として公募採用した遠井大輔さん。さらにイベントの企画などでfreee社内のブランドチームのメンバー何人かにも手伝ってもらっています。
私は、ブランドチームの一員として「スモールビジネスをやってみる」プロジェクトが始まるタイミングでfreeeに入社しました。freeeの会計ソフトの主なユーザーは中小企業です。リアルな場で小さなビジネスを体験することで、ユーザーの気持ちや悩みを知り、次の開発につなげたいという狙いがあります。
入社される前は何をしていましたか。
入社前はアパレルのストライプインターナショナルにいて、ライフスタイルホテルの企画やプロデュースをしていました。リアルな場所での体験を通したブランドづくりという点では、今の仕事と共通します。個人的にも書店に興味があって、前社では取次の日販とコラボイベントを仕掛けたこともありました。
実際に書店を経営してみていかがでしたか。
大変面白い一方で、意外に煩雑な事務作業が多いと感じています。自分たちがやりたいことと、売るためにやらなくてはならないことをどう擦り合わせていくかが課題です。当初作った自分たちの世界観を大切にしていく一方で、町にある普通の本屋さんという面もあるので、どんな本を置くべきか上手にチューニングしていきたいと思います。
それと当初から書籍販売だけで経営を成り立たせるのは難しいことが分かっていましたから、飲食や物販、スペースレンタルなど、さまざまな事業を考えていました。しかし、いざ始めてみると、古物商の免許取得にしても飲食の許可にしても、思った以上に手続きに時間を要することが分かりました。
人気のくらげ副店長
店頭にChatGPTを搭載した「くらげ副店長」を配して、話題を呼んでいます。
これはChatGPTをfreeeのAIラボというチームがカスタマイズして作ったものです。予想以上に、毎日お客様に触っていただいています。お客様が「こんな本ない?」と質問すると、くらげ副店長は「こんなのあるよ」と答えるのですが、結局は人間の店長が棚から見つけてくるのが、なんとも面白いと思います。
毎週のようにお店でイベントをされています。イベントを頻繁に企画できるのは、freee社内チームの支えも大きいですよね。
そうですね。イベントはそれ自体大きな収益源ですし、関連書籍も売れますので重要です。また社内に「くらげ会」というバックオフィスのチームがありまして、仮想経理部、仮想労務部として、普段の業務とは違うところでスモールビジネスを体験してもらっています。メンバーは3カ月から半年ぐらいで交代し、得られた知見を広く社内で共有しています。また、透明書店は新卒内定者の訪問先にもなっていまして、会社に愛着をもってもらうきっかけになればとも思います。
当面の目標は単月黒字
日々、売上を公開されています。どんな状況ですか。
このグラフはnoteで公開している23年2月までの売上高です。3月の売り上げは約135万円でした。家賃や光熱費、店長の人件費や書籍代など、約170万円の経費がかかったので、約35万円の赤字。開業時に1年以内に単月黒字を達成する目標を掲げましたが、達成できませんでした。2年目こそ、書籍販売を中心に、さまざまな展開によって、まずは単月黒字を実現したいと思います。
これからやっていきたいこと、目指したいことは何ですか?
収益策の1つとして棚貸し事業を始めます。コンセプトは「独立したい系書店」で、店の改装費をクラウドファンディングで募集しました。棚主一人ひとりにAIくらげがつき、くらげは棚主の代わりに商品をレコメンドしたり、本を補充する際のアドバイスをしたりします。
また棚主にはくらげに向かってやっていきたい棚のイメージを話してもらいます。それを記事にして要約し、インターネットのnoteなどで発信します。自分で自分のことをPRするのはなかなか難しいですから、その部分をうまくAIでサポートできればと思っています。
いずれは透明書店を「スモールビジネスの聖地」にしていきたいです。何かすてきなことを始めようという人は皆、透明書店を知っているくらいの存在になりたい。ビジネスインキュベーターというと大層な感じがしますが、実際に当店のイベント参加者の中には、京都で新たにシェア型書店を始めることにした、という方もいらっしゃいました。
スモールビジネスを始めようとしている人の悩み事がここに集まってくる。その答えを持っていそうな先進的な方々を呼んでイベントをする。そしてその人たちが参考にした本を店に並べるというような循環ができたらと思っています。
お店に来たついでに、立ち寄るといいお薦めのスポットはありますか?
この一筋先に「TOKYO PiXEL. shop&gallery」というアートギャラリーがあり、若手クリエーターの企画展などを催しています。蔵前マップというイラストマップも作っていて当店も掲載してもらっています。飲食では「セレンディッブ」というスリランカ料理店がお薦めです。シェフは時折現地に修業に出掛けているようで、本場の味を楽しめます。
取材・文/桜井保幸 写真/尾関裕治
参考サイト 透明書店 蔵前の本屋【フォトギャラリー】





















