山梨県北杜市大泉町。八ケ岳南麓にある「のほほんBOOKS&COFFEE」は、コピーライターの渡辺潤平さんが2022年に始めた「山暮らしの本屋」。高原のロッジで読んだらよさそうな本や雑誌が、丁寧にセレクトされている。渡辺さんは、週の前半は東京のオフィスでコピーライター、週の後半は山梨で書店店主という2拠点生活を送っている。渡辺さんは、なぜこの場所で書店を始めようと思ったのか。お話を伺った。
近くにお気に入りの本屋がなかった
昨今、各地に独立系書店が誕生しています。その多くは都市部にあって、このような自然の中にある書店はめずらしいように思います。渡辺さんは、なぜここで書店を始めようと思ったのですか? もともと本がお好きだったんですよね。
私の本業はコピーライターで、本は毎日の中に当たり前のように存在しています。7年前、この北杜市大泉町に土地を買い、山の家を建てました。週末はこちらで過ごし、平日は東京へ戻るという生活をするようになりました。
コロナ禍になって、仕事がオンライン中心になったのをきっかけに、2020年、生活の拠点をこちらに移しました。
この場所はとても気に入っていて、居心地はいいのですが、近くにお気に入りの本屋がありませんでした。寄り道をしてコーヒーを飲みながらゆっくり本を読める店もないね、と妻と話していて、だったら自分たちで作ってしまおうかと考えました。実は、家を建てた直後、メインストリートである県道28号沿いの土地を、いつか事業用に使うかもしれないと購入しておいたのです。
この空間で読むのにふさわしい本を
WEBサイトや店舗を拝見すると、まさにプロのお仕事というか、田舎のお店にありそうな手作り感とはずいぶん違うと思いました。
そのところは広告業界で鍛えてもらった部分だし、力を出せるところです。妻も東京では広告のアートディレクターとして働いていました。店のロゴ・看板は彼女がデザインしたものです。
田舎でほっこりするというより、豊かな自然の中で質の高いサービスを提供する店にしたいと思いました。そうした趣向を感じていただけているのか、週末には諏訪や甲府など広域から若い方が大勢いらっしゃいます。
実はこのエリア自体それほど山深くはなくて、都会的なところがあります。移住者も多いですし、おいしい食べ物屋さんがたくさんあります。有名スーパーの「ひまわり市場」や花屋さんの「Flowers for Lena」も人気です。そうした場所を車で回りながら1日を過ごすというルートができており、この店もその1つになっているようです。
どのような方針で本を置いているのですか?
結構偏っていますね。ジャンルを問わず、自然に囲まれた場所で読むのに適した本や、ここで一泊旅行をして、長い夜に読書をする場面をイメージして本を選んでいます。
山で読むのに向いている本ってどういう本なんでしょうか?
山で読書をすると、複雑で濃密な世界観のある本でもずんずんと入っていける気がします。逆に言うと、東京で読んでいてもなかなか集中できないような本でしょうか。
仕入れはどうしていますか?
トーハンさんにお願いしています。もっとも自動配本ではなく、私がすべてセレクトして仕入れています。東京で書店回りをしたり、レビューサイトを探索したりして、店の棚にしっくりきそうな本を選んでいます。
トーハンさんとのつながりはすごく強くなっていて、新規事業開発部門のクリエイティブディレクターとして業務にも関わらせていただいています。駅ビルの中にあるような超大型書店は、これからの時代に合わないかもしれません。例えば、移動販売車によるポップアップストア、キャンプサイトでの本棚、企業内の社員向け本棚など、人と本との新たな接点を作ることによって、本の巡りをもっと良くできないかを議論しています。
お店の中を案内いただけますか?
中央の平台には山暮らしと親和性の高い本を置いています。 『地球再生型生活記 土を作り、いのちを巡らす、パーマカルチャーライフデザイン』(アノニマ・スタジオ) は、この近くに住む四井真治さんの本で、20年間にわたる持続可能な生活の実践例が紹介されています。
『センス・オブ・ワンダー』(レイチェル・カーソン著/森田真生訳とそのつづき/筑摩書房) は、独立研究者の森田真生さんによる新訳で、森田さん自身のエッセーも入っています。私以上にお客さまが本書のことをよく知っていて、仕入れるたびに売れていきます。
小屋についての写真集が結構ありますね。
『Cabin Porn 小屋に暮らす、自然と生きる』(ザック・クライン編集/小原美保訳/グラフィック社) は、小屋についての鉄板本です。世界の愛好家が自力で建てた小屋を集めた写真集で、私もここに移住するときに何度も読みました。本書を眺めながらお酒を飲んだりすると最高だと思います。
こちらは毎月入れ替えている特集棚です。今は映画の原作になった小説をそろえています。パトリシア・ハイスミスの「リプリー」シリーズなどが人気です。
こちらは「動詞型本棚」と呼んでいるのですが、ジャンルではなく、情緒的なキーワードで分類している棚です。「作る」「考える」「生きる」「流離(さすら)う」「惑う」「ととのう」「震える」「眺める」「愛おしむ」「暮らす」「識る」などがあります。あまり厳密な分類はせず、あえてミスマッチなものも混ぜています。
先ほど「複雑で濃密な世界観のある本」のお話をされましたが、こちらの棚にあるものでは、どれがそんな本ですか?
そうですね。例えばフランスの現代作家、ミッシェル・ウェルベックの作品は象徴かもしれません。また中国系アメリカ人のSF作家、テッド・チャンの 『息吹』(大森望訳/ハヤカワ文庫) もお薦めです。これらの本はとりわけ山で読むといいのではないかと思います。
ここは子どもたちが遊んで過ごせるスペースです。子ども服も置いています。私の子どもも本が好きなので、好きな本を毎回選んでもらって並べています。
この 『レストランふろ』(麻生知子著/小学館) は大人が見ても面白いと思います。レストランをお風呂屋さんに見立てています。ラーメンやスパゲティの中に人間が漬かっていて、食材になった気分でキッチンを楽しめます。
中古レコードも置いているのですね。
同世代の音楽関係者に選んでもらっています。この辺りにはスピーカーやレコードを愛好する方がとても多いので。私自身はUKロックが好きでジャズもよく聴きます。チェッカーズやハイ・ファイ・セットなど日本の昔のポップスも、レコードで聞くと味わい深いです。
小さな小屋を建設中
これからやりたいと思っていることはありますか?
このたび、隣接する土地を買い増ししました。駐車場を増やすとともに、小屋を建設中です。週末になると駐車場がいっぱいになってしまい、頭を悩ませていたので。
小屋では、ギャラリーやスクールのような空間を作りたいと考えています。子ども向けの読書会やイラストレーターの作品の展示などを考えています。
好きな本屋さん、影響を受けた本屋さんはありますか?
東京・代官山の蔦屋書店ですね。本を中心にこんなに豊かな空間ができるのかと驚きました。目標でもあり、憧れでもあります。
のほほんBOOKS&COFFEEに来たついでに立ち寄るといいお薦めスポットはありますか?
甲斐大泉駅の近くに「パノラマの湯」という温泉があります。眺めがとてもよくて、オートキャンプもできます。東京から帰ってきて疲れると、私もよく寄っています。
取材・文/桜井保幸 写真/益永淳二
参考サイト のほほん BOOKS&COFFEE 渡辺潤平社【フォトギャラリー】




















