2023年1月に発売した『 感情戦略 』(日経BP)。は発売以来、順調に売り上げを伸ばしてきたが、2025年5月のカバー替えを機に再び火がつき、3カ月で1万部を超える重版となっている。本書の担当編集者の日経BP・第1編集部の中野亜海と、販売担当の日経BPマーケティング・木村明子にヒットの経緯と本書の魅力について聞いた。

書店販売担当の日経BPマーケティング・木村明子(左)と編集担当の日経BP・中野亜海(右)
書店販売担当の日経BPマーケティング・木村明子(左)と編集担当の日経BP・中野亜海(右)
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女性読者の反応に着目

中野亜海・日経BOOKSユニット 第1編集部(以下、中野) 『 感情戦略 』(日経BP)はアメリカでベストセラーとなった心理学の本で、感情についての最新知識を得ることで、自身の感情に振り回されない大切さをさまざまな角度から解説しています。内容的に、ビジネス本ながら男性だけではなく女性からも支持をいただけるのではないかと想像していましたが、実際、思っていた以上に女性中心に売れているんですよね。

木村明子・日経BPマーケティング リテール営業ユニット(以下、木村) そうなんです。特に顕著なのが有隣堂アトレ恵比寿店での売れ行きです。もともと2023年1月の発売からこの1店舗だけで500冊以上を販売くださっています。有隣堂アトレ恵比寿店は、駅直結の商業施設内の店舗で、20~40代の女性をターゲットにしています。おしゃれ感度が高く、自己投資や生活を豊かにする本を好む方が多いお店です。本書は発売後1年の紀伊國屋パブラインのデータでも女性読者が44.5%。最も多いのは男性30~49歳で26.9%ですが、同世代の女性が20.1%いらっしゃいました。今回はこの層をメインターゲットにしたいと思いました。

中野 この本では、感情は「振り回されたくないと思っているのに振り回されてしまう」ほど強いものであること、そしてどうすれば感情とうまく付き合えるかを紹介しています。女性に親和性がありそうな内容ではありますが、発売当初はビジネス書の色が強いカッチリした印象のカバーデザインで、決して女性向けに振り切ったわけではありませんでした。もともと日経BPの書籍の読者は男性が多いので、多くの女性に手に取っていただけてとてもうれしかったですね。

 そして、有隣堂アトレ恵比寿店からは、売り場での再展開の機会をいただけて。

木村 2025年1月に、書店様側から「2~3月ぐらいに売り場で新たに仕掛けられるようなビジネス本を紹介いただけないか?」と相談をいただいたのがきっかけでした。『感情戦略』はこの店舗で顕著に売れ続けていたので、「この本を再展開させていただけないか?」と提案しました。その結果、話題書として6~7面の平積みで売り場展開させていただくことができ、2025年1月31日~3月31日の2カ月間で82冊を販売することができました。

中野 既刊本なのに、2カ月間でこの冊数はすごいですよね! 新型コロナウイルス禍のまっただ中の時期は、スキルを身に付けることを目的とした実用書や自己啓発本が人気でしたが、最近では内面に目を向けて、自身の感情と向き合うような本が売れていると感じていました。『感情戦略』はそのニーズにピッタリはまったと感じますね。

新型コロナウイルス禍で変わった読者の意識

木村 新型コロナウイルス禍を経てリアルな生活が戻り、オンラインでもオフラインでも他人とコミュニケーションする機会が増え、感情が乱される場面が増えたのではないでしょうか。忙しい日常に戻り、新たに一からスキルを身につける時間もないし、自分の内面に目を向け自分を大事にしよう…という方向に意識が変わってきたのではないかと思います。

 そして、有隣堂アトレ恵比寿店の勢いを踏まえ、他の書店でも「話題書」として展開させていただいたところ、いずれも良い反応を得ることができました。ただ…最近の書店はおしゃれ路線の売り場づくりをしているところも多く、照明を落とす傾向があるんですよね。雰囲気はとても良いのですが、暗めの店舗の中では旧カバーだとあまり目立たない…。

中野 そこで、今のニーズに合わせ、かつ売り場でも映えるようにカバーを替えようという話になったんです。

 コロナ前は、売れるビジネス本は明朝体のタイトルでカッチリした印象の表紙が多かったのですが、コロナ後はゆるく柔らかいものが受けるようになっていました。多くの女性にご支持いただいている現状も踏まえ、当初はピンク色で柔らかいテイストの表紙にしたいと考え、デザイナーさんにさまざまな案を出していただきましたが、最終的には薄暗くてもハッキリと見える黄色と青のパキっとした色味がいいという結果になりました。

左が2023年刊行時のカバーデザイン。右が現在のもの。色調やテキストの配置も一新した/画像クリックでAmazonページへ
左が2023年刊行時のカバーデザイン。右が現在のもの。色調やテキストの配置も一新した/画像クリックでAmazonページへ

木村 中野さんと一緒にタイトル以外の文言も、すべて見直しました。旧カバーではオビ裏面に入っていた「感情を知れば自分だけの人生を生きられる」を前面に持ってきたことで、インパクトある表紙になりました。感情に左右されないことの大切さが、一目で伝わるのではないかと思います。

 また、本書はアメリカでとても高い評価を得ている本なので、「アメリカで大人気」である点も強く押し出しました。

中野 アメリカではTikTokで、自分が読んだ本を紹介する「BookTok」がブームになっているのですが、この本も、100万ビューとか、10万回再生されている動画がかなり多く投稿されているほどです。実際アメリカでは、BookTok発でかなりの部数が動いたので、日本でもそのような動きが出ればいいなとの思いも込めて、表紙に加えました。

「読めば話したくなる」内容

中野 おかげさまで、カバー替え後の売れ行きは好調です。5月19日にカバー替えしましたが、その後3カ月で約1万部の重版がかかっています。この夏に3回ほど新聞広告を打ったほか、9月からはJR東日本(首都圏全線 千葉以東を除く)のドア横での交通広告も展開しているので、まだまだ伸びるのではないかと期待しています。

木村 カバー替えの効果が顕著に表れていて、とてもうれしいです。コロナ禍以降、書店における滞留時間が短くなっているので、一目で伝わるものでないとなかなか選んでもらいにくいんですよね。その点、新しいカバーは目立つし、伝わりやすい文言なので、手に取ってもらいやすい。

書店でも、平積みや柱などの目立つ場所に置かれて展開されている
書店でも、平積みや柱などの目立つ場所に置かれて展開されている
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中野 もちろん、そもそも本書の内容が、日常生活にすぐに生かしやすいという魅力もあると思います。人間は心地いい方向、楽で快適な方向に行こうとするので、「感情の赴くままに行動」していては現状を変えることはできない。感情は非常に強いので、すぐにそれに従いたくなるけれど、感情に流されずに自分の人生にとってどの選択肢を選べばいいのかしっかり考えることが大切…など、誰の心にも刺さることが書いてあります。何気なく手に取りパラパラとめくってみたのがきっかけで購入したという人も多いのではないでしょうか。

木村 「憤りを抱くのは、本当は相手に失望しているとき」「SNSにいい自分をのせるのは、心がからっぽだから」など、さまざまな視点から細かい具体例が書かれているので、何かしら自分にハマるページがあるんですよね。男女問わず、感想をインスタなどで発信してくれるケースも増えています。

中野 現在、日本版のこの本もAmazonに多くコメントがついているので、きっと「読んだら話したくなる本」なのだと思います。アメリカみたいに、SNS発でさらなるムーブメントが起きてくれたらうれしいですね。

取材・文/伊藤理子、構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集)、写真/吉澤咲子

感情戦略
本書では、感情がどれほど人間を操るのかを説明しています。私たちは、安心感を得たり、過去に受けた傷を見ないようにしたり、はたまた自分が今味わっているつらい感情を見ないためなら、何でもします。本書を読んで、感情についての最新知識を身に付けましょう。

ブリアンナ・ウィースト(著)、松丸さとみ(訳)日経BP、1760円(税込み)