スマホ以来の革命として、GAFAをはじめ世界が注目するボイステック。2021年6月22日に発売された 『ボイステック革命』 の著者で、音声プラットフォームVoicyのCEOである緒方憲太郎さんに、本作りの裏話と読みどころを聞いた。今回は2回目。(聞き手は、『ボイステック革命』編集担当の雨宮百子)
分かりやすく書いて音声をプラス
雨宮百子・『ボイステック革命』編集担当(以下、雨宮) 初めて書籍を作られてみて、いかがでしたか。
緒方憲太郎(以下、緒方) 自分の頭の中をちゃんと整理整頓するのが難しかったのですが、書籍にすることでずいぶん整理されましたね。そこがとても良かったと思っています。
僕は常に音声業界やベンチャーなどの世界の最先端で走りながら考えているので、普段、付き合う人は話す相手も、そういう分野に詳しい人が多いんですよね。だからこそ、自分が深めて面白いと思う内容をそのまま本に書いてしまうと、音声について初めて知る読者の皆さんからすると、飛躍してしまって……、初めての方でも分かるようにまとめるのは意外と難しいことなんだと思いました。
もっと言いたいことがある気もしました。例えば、こうすればYouTubeより面白くすることができる、みたいな話も入れたかったのですが……エビデンスがはっきりしていないことは書けないですよね。でも、話したいことは山ほどある(笑)。
なんだか悔しいので、声のVoicyチャンネルと連動した「あとがき」でしゃべろうと思って。この本で物足りない人たちには、「あとがき」で僕の声をどんどん足していくつもりですよ。
雨宮 私が本を作るなかで面白いと思ったのは、緖方さんが何かひらめかれた瞬間に「ちょっといい?」と言って立ち上がり、ホワイトボードにさらさらっと書き出すこと。分からないこともあったのですが、それをまた議論しながら、分かるようにかみ砕いていった過程が結構あって。あの作業は一番ワクワクしました。本に入れている図表も、そのホワイトボードから出てきたものがいっぱいありますよね。
緒方 そうですね、僕は考えていることを図で表現するのが好きなので、結果的に図が増えましたね。
ワクワクする未来を伝えたかった
雨宮 緖方さんは、なぜこの本を書きたいと思われたのでしょうか。
緒方 1つは、海外では「音声業界が盛り上がってくるぞ」と話題になっているのに、日本ではあまり浸透していないから。これで、アメリカや中国がどんどん伸びていくのに、日本が後れを取るのは嫌だなと思ったんです。スマホの次は音声がくるんだよ、と、海外で騒がれていることをもっと広く世の中に伝えたかったというのがまずありますね。
日本の若い子たちの就職希望ランキングを見ると、ランキング上位にある企業が、必ずしも次の時代をつくるような会社というわけではないですよね。スタートアップの社長たちが、「僕たちはこういう未来を見ているんだ」と、もっと伝えていくべきだと思っていました。
雨宮 すごくいいですね。確かに、そのワクワク感については本を作る過程でもおっしゃっていましたね。
緒方 未来をつくるって、もちろんエビデンスがないことや可能性が低いこともあって難しいと思うけれど、優秀な人たちがこうして新しいことにたくさんお金を投資していることは、すごく大事だと思うんです。そのなかの1つを立証できたらいいな、そして、それに気付いてもらえたらいいなと思って。あと数年後に答え合わせになるでしょうけど。
雨宮 動画と書籍、音声、それぞれメリットとデメリットや使い分けを教えていただけますか。
メディアそれぞれのよさがある
緒方 まず動画は、周辺情報をたくさん伝えられるという強みがあり、アテンションを引きやすい。刺激的に興味を持たせて、一目ですぐ分かるものは、動画が圧倒的に強いと思います。むしろ動画って、余計な情報もたくさん入ってきてしまう。だから、伝えたいことを絞るには、音声や文字のほうが労力も少ないのかなと思います。
今回、特に本をまとめる過程で思ったのは、書籍ってきちんとした文法力が必要だということ。でも、ちゃんと形に残っていくところが文字のいいところだと思います。
音声は一気に拡散することがなく、聞いた瞬間に華やかなことも特別ないんですが、発信者がとにかくラクなんですよ。聞いている人と発信者が同じ時間を消費するので、しっかり理解してもらえて、発信者の感情が届きやすい。僕は、自分の思いや人間性を出すときはだいたい声、逆に、感情を入れず要件だけを届けるときは文字で表現するようにしています。動画には、ほぼ出ないですね。
雨宮 確かに、私たちは本を作るなかで、メッセンジャーなどでよくやり取りしていましたが、テキストではなく、話したほうが早いという瞬間がいくつかありましたね。
緒方 声を聞いていると、今、相手がどう思っているのかが結構分かるんですけど、文字だと、相手の感情が分かりづらいんですよね。例えば「OKです」と書いてあっても、ノリノリのOKなのか、時間がなくてOKと言っているのか、まあ仕方ないよのOKなのかが分かりづらい。
雨宮 そういう意味では、今回、QRコードを書籍の中に組み込んで、実際に緖方さんのメッセージが聞けるのは、すごく面白い取り組みだと思っています。
緒方 音声の会社なのに、本を出すのか(文字だけなのか)と言われちゃうかもしれないので、工夫したいと思ったんです。Voicyの会社のミッションは「音声で社会をリデザインする」。書籍の世界も、音声が加わることで、魅力がより輝くと思いました。だから、「あとがき」も語りかけるような声にしています。買った方には、ぜひ聞いてみてほしいです。
構成/佐々木恵美