先が読めない世の中を生き延びるには、「声がかかる」ことが不可欠だ。そのために求められるのが、「周囲から必要とされる力」だといえるだろう。 『なぜか声がかかる人の習慣』 は、その力を習得するための方法を伝授する1冊だ。今回は、著者の高橋浩一さんに「声がかかる人」の共通項についてお話を聞いた。(聞き手は、日経BP編集者の雨宮百子)
これからの時代に求められる「声がかかる力」とは
雨宮百子・日経BP編集者(以下、雨宮) この本は、「働き方の選択肢を自分で増やせるようになる」というテーマで書かれたのですよね。
高橋浩一(以下、高橋) コロナ禍の影響もあり、「会社に頼れなくなったときのためにも個人を売り込んでいこう」という声を聞くようになりました。そうした声を上げる皆さんが口にする悩みは、「会社が嫌いなわけではないけれど、ずっと勤め続けるという確信が持てない」「将来に向けて何をすればいいのか分からない」といった漠然としたものでした。
このような人へのアドバイスでよく聞くのは、「自分のタグを付けましょう」というようなことだったり、「こんなふうに生きていこう」「こんなふうに働いていこう」と日ごろから発信しているインフルエンサーの言葉のなかには、「付き合う人を選びなさい」「人に合わせるばかりでなく、自分のペースを貫きなさい」といったものもあったりします。
これらはもちろんまっとうなアドバイスではあるのですが、一般的なビジネスパーソンが実践するには、難しい部分もあるかもしれません。僕は、もっと大切な前提があると考えているんです。それが、目の前の仕事で成果を出すということ。これこそが営業になり、「声がかかる力」につながっていくと思うのです。
雨宮 本書の中で高橋さんは、これからの時代を生きるすべての人に営業力が必要だと主張されていますが、そのような背景があったのですね。
高橋 営業というと、ノルマを背負ってお客さまに頭を下げにいくもの、といった印象を持つ方が多いかもしれません。しかし、僕がこの本で伝えたいことは少し違います。ここでいう「営業力」とは、人の心を動かす力、目の前の人に動いてもらう力のこと。世の中のあらゆる人が、日々当たり前のように使っている力のことです。
雨宮 コロナ禍になってリモートワークが増える中、「声がかかる存在」であるためには営業力が必要だと痛感します。「声がかかる人」には、どのような共通項があると思われますか?
高橋 一言で言えば、自分の強みの生かし方が分かっているという点でしょうか。自分の「こういう部分が相手に(世の中に)響く」というのが、ある程度分かったうえで活動をしていると思います。
自分の強みを知るために「人に聞く」
雨宮 そうした強みを理解するうえで、本書ではフィードバックの重要性を強調されていますね。
高橋 フィードバックというと、会社の人事評価のようなものを想像されるかもしれません。しかし、僕が考えるのはもっとカジュアルなものです。例えば、誰かに褒められたときに「何が良かったのですか」と聞いてみる。たったそれだけのことなんです。ただ、それができる人というのが、なかなかいないんですよね。
雨宮 確かに、ちょっと気恥ずかしくて聞きにくいですね。
高橋 ちょっと照れ臭かったり戸惑ったりして、気軽に聞けない人も多いはず。しかし、そうした問いのフィードバックをもらうことで、自分のどういった部分が人の心を動かすのかを意識できるようになります。小さなことでも構わないので「こういうことをやれば喜んでもらえる」と、確信が持てるようになってくると、仕事の中でも生活の中でも楽しいことが増えてきます。
そして、そうした小さな実績の積み重ねの上に大きく心が動くという出来事があるのです。ただ、多くの人は、自分がそのような小さなことで人の心を動かしているということを、あまり意識していません。
心に残るフィードバック例
雨宮 高橋さんにとって、これまでに心に残るフィードバックがあれば教えてください。
高橋 以前、お客さまに「ノートの写真を撮らせてください」と言われたことがありました。そのときのフィードバックですね。
ある日たまたま、何人ものお客様に「ノートの写真を撮っていいですか」と言われたのです。そこで、よくよくお客さまにお話を聞いてみると、営業の人の多くは商品説明には一生懸命だけど、こちらの話をよく聞いて整理してくれる人はなかなかいないのだと。
そのとき「あぁ、お客さまが求めているのはそういうことだったのか」とハッとしたのです。それなら僕は、商品説明ではなく、お客さまの話の整理に尽力したほうが売上もあがるのではないかと気がつきました。
雨宮 なるほど。その体験がきっかけになって、フィードバックの重要性を認識されたのですね。
高橋 このとき、「自分の強みは、相手に聞いたほうが得なのだな」ということが分かりました。それからは、例えば、お客様に資料を見せて説明したときに反応が良ければ「今日の説明は良かったですか? 何ページ目が良かったですか?」などと聞くようになりました。
そうすれば「13ページ目が良かったですよ」などと教えてくれますから、その後は他のお客様にも、この13ページ目を強調して説明すればいい。これはもう、絶対に聞いたほうが得ですよ。
雨宮 私も恥ずかしがらず、フィードバックを求めていこうと思います。
高橋 聞くことに対する恥ずかしさもあると思いますので、本書では、あまり恥ずかしさを感じない聞き方も紹介しています。それから、誰にでも聞くというのではなく、聞きやすい人に聞くというのもポイントですね。
構成/谷和美