激しく変化する国際情勢のなか、世界中が中国の動きに視線を注いでいます。そんな状況で、中国人は何を考え、どう行動しているのか。長年中国で取材を続けてきたジャーナリストの中島恵さんは、著書『いま中国人は中国をこう見る』で市井の人々が自国をどう思っているのかを描き、「中国人の中国観」を浮かび上がらせます。その取材や制作の裏側について、3回にわたり話を伺いました。今回は1回目。(聞き手は、担当編集の雨宮百子)

中国人同士のエネルギッシュな批判合戦

担当編集・雨宮百子(以下、雨宮) 中島さんは長く中国に関わってこられて、その間多くの取材をされていますよね。

中島恵(以下、中島) はい、大学時代からずっと中国に関わり、三十数年がたちます。その間は中国の社会情勢や時事問題などを取材して、本を出版してきました。今回の 『いま中国人は中国をこう見る』 は、中国人の中国観について取材をして書きました。

SNS上での意見の相違で友人をブロックすることは誰でもあるにしろ、中国人同士ではだいぶアグレッシブな様子
SNS上での意見の相違で友人をブロックすることは誰でもあるにしろ、中国人同士ではだいぶアグレッシブな様子
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雨宮 ウクライナとロシアとの問題を考えるなかで、中国にも注目が集まっている気がします。中島さんはそのあたりをどのように考えますか。

中島 以前、地方新聞の記者の方から電話があり、中国の人はロシア・ウクライナ問題をどう思っているのか意見を聞きたいと言われましたが、私はその点についてあまり取材をしていないので分かりません、と答えました。

 ただ先日、日本に住んでいる60代くらいの中国人女性と話したとき、「中国のWeChat(微信/ウィーチャット)というSNSでよくやり取りをしているけど、中国国内に住んでいる人たちはロシアを支持する人がけっこういる」と話していました。一方、日本やアメリカなど海外に住んでいる中国人は逆にロシアを批判する人が多いといいます。そんな状況もあってWeChatのなかで中国人同士のケンカが起こり、「もう友達じゃない」とブロックするようなことがあちこちで起きているという話を聞き、さもありなんと思いましたね。

雨宮 中島さんが著書でもおっしゃっているように、中国は多民族で、いろいろな人がいろいろなところに住んでいるので、やはり多様な意見が出てきますよね。WeChatのなかでもそのような意見のぶつかり合いが起きているというのは、中国らしいという感じがします。

中島 日本人の場合、ディスカッション自体にエネルギーを使うので自分の意見を言わなかったり、SNSでの発言に対して何か言われて傷つくのがイヤだと考えたり…ということで、議論の途中で離脱することもけっこうあると思います。でも、中国人の間ではロシアについて擁護派と非難派で批判合戦が繰り広げられていると聞き、エネルギッシュだなと思いました。

雨宮 日本では、そのようなエネルギーを感じる瞬間はあまりないかもしれませんね。中島さんの著書を読んでいると、中国の方のエネルギッシュさに私も驚かされます。実際に中国人の友人と話していても、スケールが違うし、同世代なのに湧き出てくるエネルギーやパワーがなぜこんなに違うんだろうとよく考えてしまいます。

厳しい政策でコロナの話題が再燃

雨宮 日本では、新型コロナウイルスの感染拡大にともなう行動制限等は緩和されてきました。中国は今、どのような様子なのでしょうか。(編注:本対談は2022年3月22日に実施)

中島 実は中国では新型コロナの感染拡大で大変なことになり、ウクライナ情勢よりも新型コロナの方が大きな話題になっています。広東省の深圳で1週間の厳しいロックダウンになり(22年3月14~20日)、吉林省の長春や山東省の青島、上海も非常に厳しい外出制限が行われています。

 私のまわりは特に上海の人が多くて、上海の友人たちは「うちのマンションは感染者がいなかったので今日制限解除になった」と言ってみんな大喜びしたり、毎日その話題で持ちきり。ウクライナ問題の話もしているのですが、新型コロナの話が今一番ホットですね。

マンションごとに違うコロナ対応

中島 中国ではゼロコロナ政策で、マンションごとに管理の仕方が違うそうです。「うちのマンションは明日から36時間出られない」「うちは48時間出られない」とか。私の友人は「1日3食子どものご飯を作って大変だった」などと話していますね。

雨宮 マンションによって管理の仕方が違うのは大変ですね。学校へ行くなど何か予定があっても、全部それに合わせなきゃいけないということですよね。

中島 そうなんです。中国は地区によってもマンションによっても違います。上海でも、状況を尋ねると「うちは大丈夫」「うちは3人感染者が出たからあと10日間ダメ」という感じでそれぞれ違うんですよね。

雨宮 日本では感染者数の変動はあまり話題に上らなくなった印象ですが、中国は再びざわついているわけですか。

中島 そうなんです。感染者数は日本に比べて桁違いに少ないのに、いろいろと制限があって大変そうです。

雨宮 中国らしいというか、徹底していてさすがだなという気がしますね。

構成/佐々木恵美

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