激しく変化する国際情勢のなか、世界中が中国の動きに視線を注いでいます。そんな状況で、中国人は何を考え、どう行動しているのか。長年中国で取材を続けてきたジャーナリストの中島恵さんは、著書『いま中国人は中国をこう見る』で市井の人々が自国をどう思っているのかを描き、「中国人の中国観」を浮かび上がらせます。その取材や制作の裏側について、3回にわたり話を伺いました。今回は2回目。(聞き手は、担当編集の雨宮百子)
コロナ禍で現地取材ができない難しさ
担当編集・雨宮百子(以下、雨宮) 普段なら中島さんは頻繁に中国へ行かれると思うのですが、 『いま中国人は中国をこう見る』 を執筆されたのがコロナ禍ということもあり、それができない状況だったのではないでしょうか。取材時に困難だったことや、どのように対応したのかを教えていただけますか。
中島恵(以下、中島) そうですね。通常なら中国に行って、現地で取材相手と歩いたり食事をしたりしながら話すことが多かったのですが、まず中国へは行けなかったので、リモートで話を聞きました。ただ、電話にしろオンラインにしろ、いきなり取材に入ることにすごくやりにくさを感じましたね。突然「このことについて話を聞かせて」と切り出しても、スムーズに答えてくれる人はなかなかいませんでした。
一緒に食事やお茶をしながら、「子どもは何歳になった?」「今度こういうことがあるよ」などの雑談から自然に出てくる話こそ本音なんです。この本ではそのようなリアルな本音を取り上げたいと思っていたので、実際に会って雑談できないことはすごくつらかったですね。
雨宮 私も、コロナ禍では初対面でもオンラインで会うことが多くありました。そうなるとどうしても会話がトピックメインになってしまって、距離があまり縮まらないというか…。文章を編集したり書いたりするなかで、本来だったら一番大事にしたいコミュニケーションの部分が難しくなってしまいますね。自然な会話をするなかで新しい話題がどんどん出てきて、話をより広げていくということが、コロナ禍の取材などでは難しいと私も感じました。
そのような状況でも、いろいろな話を引き出したいとき、相手の緊張をほぐすために、また日常的な話ができるように心がけたことはありますか。
中島 共通の友人や子どもの学校の話題など試運転のような話を30分くらいして、お互いの距離を縮めてから本題に入る感じです。でも、相手は私が場をほぐそうとしていることや、何のために話をしているのかを分かっているので、本題に入ると「待ってました」という感じで答えてくれる人も多かったですね。その点、私は取材先に恵まれていて、信頼関係があるからリモートでも話を聞けたのだと思います。
この本でしか書けなかったこと
雨宮 では、逆に楽しさや面白さを感じた取材や、書いていてワクワクしたことはありますか。
中島 この本は、私の今までの本と違って、かなり政治に踏み込んで書いています。そして、そのことについて書いた部分がこの本の中心になっています。
取材をしていて、この話を引き出せてよかった、と思ったところがあるんです。それは第3章に出てくる、「出身地と、戸籍と進学先の関係」。ある中国人と話していたとき、その人が自分の子どもの小学校受験が最近終わった、と自分から話し出したんですね。私はその中国人と家族、子どものことも以前から知っていたので、「そうなの」と相づちを打つと、彼は自然にスラスラと、その顛末について話し始めました。
出身地と戸籍と進学先の問題は、前提や仕組みについて知らない人には何の話かさっぱり分からないと思います。私は中国の複雑な戸籍制度を知っていたので、彼が話しているとき、彼のケースではどういう状況なのか、ということを客観的に理解したんです。だから途中で「それ、どういう意味?」などと話を中断する必要がなく、どんどん話してくれて。
私としては、彼が私を信頼して話してくれたことがとてもうれしかったんです。このトピックは、この本でなければ書けなかったことだと自画自賛しています。
雨宮 それは背景知識がないと理解できないことなので、さすが中島さんですよね。私も読んでいてすごく面白いエピソードだと思いました。
中国人は中国をどう思っているのか
雨宮 今回のお話をうかがうと、『いま中国人は中国をこう見る』の内容にますます興味を持つ方も多いと思います。
中島 私は今まで、中国人はこう思っている、中国人はこういうふうに生きている、というように、個人に焦点を絞った本を十数冊書いてきました。今回は初めて、中国人が自分の国のことをどう思っているかについて各章に分けて書きました。
例えば、中国人は中国のコロナ政策をどう思っているか、中国人は中国人のマナーについてどう思っているか。それから、中国で話題になっている共同富裕という政策についてどう思っているか。今高まっている中国のナショナリズムはどこから来ているのか、そして中国のZ世代と呼ばれる若者たちの話。また、中国の情報統制についてや、中国人は日本人と同じようにいろいろな情報を見ることができるのかなどの話題を取り上げています。ぜひ、多くの方に本書を手に取っていただきたいですね。
構成/佐々木恵美