激しく変化する国際情勢のなか、世界中が中国の動きに視線を注いでいます。そんな状況で、中国人は何を考え、どう行動しているのか。長年中国で取材を続けてきたジャーナリストの中島恵さんは、著書『いま中国人は中国をこう見る』で市井の人々が自国をどう思っているのかを描き、「中国人の中国観」を浮かび上がらせます。その取材や制作の裏側について、3回にわたり話を伺いました。今回は3回目。(聞き手は、担当編集の雨宮百子)

中国のZ世代にはこんなことが人気

担当編集・雨宮百子(以下、雨宮) 今回は、著書 『いま中国人は中国をこう見る』 から、中国のZ世代や若者のナショナリズムについてお話を聞かせてください。中島さんは、中国のZ世代にどのような印象を持っていますか。

中島恵(以下、中島) 中国のZ世代は、日本のZ世代と同じく生まれたときからネットがある環境で育っているので、すごく古いこともよく知っています。中国に限らず、世界のZ世代には共通項が多く、似ているといわれていますね。

リアルタイムの流行に限らず、何十年も前の話題にもフラットに接する若者たちの博識さには、著者も驚かされたという
リアルタイムの流行に限らず、何十年も前の話題にもフラットに接する若者たちの博識さには、著者も驚かされたという
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中島 例えば、日本の若者が昭和の流行や雰囲気に興味を持つように、中国の若者の間でも日本の昭和レトロみたいなものがすごくはやっています。最近では中森明菜さんが話題になり、壊れそうではかない美しさが若者の間で人気があるようです。また、小さいときから何でもある生活をしてきているので、何となくのんびりしていて、多くの人がイメージする中国人のガツガツしたようなところが全然ない。そういうところは、Z世代の世界共通の特徴かもしれません。

 一方で、競争社会に疲れて何もやる気が起きなくなってしまう人がいたり、若者のなかには宿題が多すぎてそのつらさに病んでしまう人がいたりと、中国ならではの問題も起こっています。

雨宮 なるほど。他に、中国の若者の間で話題になっていることはありますか。

中島 ネット上では、特に日本のアイドルの情報が中国にもほぼ同時に流れています。例えばAKB48の派生ユニットの曲なども人気ですし、また昭和の雰囲気が漂うアイドルの衣装や曲が中国のSNSでたくさん流れたり、日本の昭和30年代に流行した歌声喫茶が中国ではやったり、そういうビックリするような現象も起きています。

 また、日本では大正時代を舞台とする『鬼滅の刃』がはやりましたが、中国でも『鬼滅の刃』がはやって、昔のことを知らないのに懐かしむという中国の若者がすごく増えているんですね。

雨宮 それはすごく面白いですね。

中島 私は昭和をリアルに生きてきた世代なので分かるのですが、中国の若者が日本のその時代の話をしているのを聞くと、不思議な気持ちになります。

Z世代で高まるナショナリズム

雨宮 ナショナリズムについて、彼らはどのような考えを持っているのでしょう。

中島 最近、中国の若者のなかでナショナリズムがとても高まっているといわれていて、それはやはり自信からきていると思います。中国は経済的にとても発展していて、そのことに自信を持っているんですね。若者もその影響を受けて自信を持っているけれど、なかなか世界では認められない。そのことに対するジレンマからか、例えばアメリカや日本を見下すようなこともあります。

雨宮 実際に取材をされていて、若者が自分の国に誇りや自信を持っていると中島さんも感じますか。

中島 直接、若者からはあまりそういった話は聞いていません。でも、中国の30~40代の人たちが若者のそういったナショナリズムをちょっと危険だと感じたり、行き過ぎではないかと思ったり、そういう客観的な意見は結構聞きましたね。

雨宮 日本では、若者のナショナリズムについてそこまで感じることはあまりないですね。

中島 そうですね。ナショナリズムって、国全体が関わるようなこと、例えばオリンピック、あるいは戦争などのときに出てくるものではないかと思います。中国では2021年が中国共産党創立100周年で、そういった報道が増えたことも影響していると思います。

雨宮 ナショナリズムや日本のレトロな文化への興味などのお話を聞いていると、中国のZ世代には今までの世代とは違ったものが見えてきているのではないかと感じますね。

なかなか報道されない中国人の思い

雨宮 では最後に、この本をどのような方に読んでいただきたいかお聞かせください。

中島 中国のなかにいる人たち、一人ひとりが何を考えているのかということは、ニュースではないので、海外の大手メディアではほとんど報道されず、他の国の人たちはうかがい知ることができません。大手メディアが報道するのは、国の政治や経済、外交、指導者の話がメインなんです。

 でも、その国を形作っているのは一人ひとりの国民です。中国の人たちが何を考えているのか、そして自分の国のリーダーについてどう思っているのか、また、中国で毎日生活していてどんなところが以前と変わって、あるいは変わっていないのかということは、他国の人たちにはなかなか伝わらない現状があります。

 世界が非常に不安定な状況のなかで、さらに中国の問題はクローズアップされていくでしょう。中国国内に住んでいる人々に関心のある方にぜひ読んでいただければと思います。

構成/佐々木恵美

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