『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞(現:大宅壮一ノンフィクション賞)を受賞。『魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史』など、タブーをものともしない取材で社会問題に切り込む大宅賞受賞作家の森功さんに、ノンフィクションの面白さに出合える本を聞きました。第2回は、多くの人が見ているはずのものに注目した3冊です。
ノンフィクション作家
私が『地面師』の取材を始めたのは2005年ごろ、『 地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団 』の第4章で書いた渋谷区富ヶ谷事件がきっかけです。被害に遭った中堅不動産会社の幹部が、たまたま知り合いで相談を受け、なぜ不動産のプロたちが地面師にだまされるのか気になったのです。
史上空前の55億円の被害に遭った積水ハウス事件、アパホテルが騙された溜池駐車場事件など、地面師事件は、首謀者のほかに書類などを偽造する道具屋、なりすまし人材を手配する手配師、実行部隊、と役割ごとに複数人が関与し手口は複雑です。しかし、なぜこんなことになっているんだという疑問を掘り下げていくことが取材者の基本ですし、解き明かしていくことで事件の構図が見えてくることもあります。
おそらく皆さんが目にしている土地のなかにも、なぜこんなところが空き地のまま放置されているんだと感じるような、まさに地面師たちが目をつけるような土地はあるはずです。実際、都内のあちこちにあります。今回は、多くの人が見ているはずのものから、事実を解き明かしていく、その手腕が見事なノンフィクションを紹介します。
公開されている情報を追う
『実録・自民裏金取材 「赤旗」が暴いた闇』しんぶん赤旗日曜版編集部著、新日本出版社
自民党が政治資金収支報告書に記載せずに裏金を捻出していた裏金問題では、旧安倍派の国会議員や会計責任者が逮捕・起訴されましたが、同じ手法が自民党東京都議会議員の間でも行われていたことが明らかになりました。
この裏金づくりを最初にスクープしたしんぶん赤旗日曜版編集部が、目の前にある資料への小さな疑問から、粘り強い調査でいかにスクープに至ったかを記録したノンフィクションです。
きっかけは、記者が見たコロナ禍の自民党議員の政治資金パーティーへの違和感。飲食を伴わない“パーティー”で会費2万円。コロナ禍の人数制限があるなかで、(会費を払う人の)不参加を前提にした荒稼ぎをしているのではないかと、公開されている膨大な政治資金報告書を調べていった。
日曜版の実働部隊は多くなく、裏金取材に当たったのは2人ですが、丹念に政治資金収支報告書を調べ、パーティー券を購入している団体側の支出記載と照合することで、派閥側の収入の不記載を見つけていった。その後も取材を展開し記事化できるようなネタにたどり着いていくわけですが、いわゆるオープンソースから見つけ出せるスクープの典型です。
共産党機関紙といいながら、しんぶん赤旗日曜版の山本豊彦編集長は自民党にも、検察や官僚にもパイプがあり、丁寧に人脈づくりをしています。かつても赤旗はゼネコン汚職、「桜を見る会」の私物化など、特ダネをいくつも抜いているように、地道な取材活動を続けています。今回の政治と金の問題でしっかりした記事を書けたのは、「これ、変だぞ」という違和感と問題意識をないがしろにせず取材する、日頃から鍛えた足腰のたまものだと非常に強く感じますし、むしろそれができないのは新聞や週刊誌のだらしなさであり、私自身への自戒を込めて、学ばなければいけないと思います。
内部資料と当事者の忘備録から浮かび上がる
『創価学会秘録 池田大作と謀略と裏切りの半世紀』 高橋篤史著、宝島社
資料を丹念に掘り起こしてまとめ上げた、読み応えのあるノンフィクションです。ベースになっているのは、限られた関係者しか目にすることがなかった創価学会の内部資料である1951~83(昭和26~58)年の「総合経過年表」190枚余りと、宗門(日蓮正宗)の高僧が書き残した備忘録(河辺メモ)180枚。当時の聖教新聞など公の資料や裁判記録なども分析して、創価学会とはいったい何なのか、池田大作とはいったい何者だったのか、その問いに応え全体像を浮かび上がらせています。
創価学会は、信徒団体が宗門戦争で何度も対立してきました。最終的には日蓮正宗の総本山・大石寺の日顕上人と袂(たもと)を分かつことになるのですが、当初、池田大作は決定的に決裂をしないように調整しようとしていたようです。創価学会側の弁護士として交渉していた山崎正友が、宗門と通じて水面下で動き始め、池田も持て余してしまう。最終的には山崎が暗躍した結果、創価学会と宗門の対立が決定的になっていきます。本書ではこのほか、創価学会をめぐる様々な事件が克明に書かれています。
学会が行った新宗教団体連合会の出版妨害工作と懐柔策では、日本大学で会頭を務める古田重二良が登場。保守寄りのフィクサーであり立正佼成会などとパイプを持つ古田が仲介して、学会と版元、著者の和解が交わされています。
「共創協定」は、創価学会が激しい非難合戦で対立を続けてきた共産党との間に、敵視政策を撤廃するなどの協定を結んだものですが、これに公明党の当時の竹入義勝委員長や矢野絢也書記長が反発。それがのちの池田による激しい竹入批判、矢野攻撃となっています。
最晩年の池田は、山崎や行動を共にしていた元教学部長の原島嵩、公明党の竹入や矢野らを悪しざまにののしり、後継者を育てないまま表舞台から消えた。『創価学会秘史』の著書もある著者が、創価学会の歴史を振り返りながら、今の衰退している実態まで迫っています。
湛山の思想をひもときながら戦後政党史を斬る
『石橋湛山を語る いまよみがえる保守本流の真髄』 田中秀征、佐高信著、集英社新書
3冊目は、これまで紹介してきたものとは異なる対談本です。
石橋湛山は、戦前はジャーナリストとして日本の植民地政策に反対し、領土を広げて多民族を支配、管理する、軍事大国になるリスクより、領土小国・貿易大国のほうがはるかに賢明であると「小日本主義」を訴え、GHQにも屈さず不遇にも政権は短命に終わりましたが、戦後は政治家として首相にもなった人物。
その湛山の孫弟子を自認する元衆議院議員の田中秀征さんと、湛山の著作もある佐高信さんの対談は、湛山の論や思想に触れながら、戦後自民党の変遷、戦争責任と歴史認識の意識、世襲制によって人材が枯渇していくことへの警鐘、裏金スキャンダルなど、保守党の政治史を解き明かしています。
副題に「いまよみがえる保守本流の真髄」とあり、岸信介に始まる「自民党本流」と、湛山から発する池田勇人、田中角栄、宮澤喜一らに連なる「保守本流」とに分けて語られていますが、私は「保守本流」というよりむしろ「保守中道」という言い方のほうがしっくりきます。
今の政界では、石破茂首相が湛山に心酔し、所信表明演説では石橋湛山内閣の施政方針演説の言葉を引いていましたが、石破首相が湛山の衣鉢を継ぐ政治家になれるかどうかは別にして、湛山が登場した当時と状況としてはよく似ている。保守の中道が求められていると思います。ドイツもフランスも、右傾化と左傾化の両極端をなるべく排除して、連立で何とかやっていこうとしている。イタリアは極右が与党ですが、それでも政治は極右にはならない。そこには一定の良識が働いているのでしょう。
福田・安倍派以降の右傾化の流れに危機感を覚えている両人の対談は、的を射て鋭く、多くの政治家を近くで見てきた両人ならではのエピソードも数多く、縦横無尽に語られています。
取材・文/中城邦子 構成/市川史樹(日経BOOKプラス) 写真/吉澤咲子



