いくら有望な市場でも、どれだけ優秀な人材を集めても、リーダー次第で組織は停滞してしまう。では、良いリーダー、悪いリーダーとはどんな人なのか。さらに、単なる良いリーダーと、「偉大な組織」をつくる「偉大なリーダー」とは何が違うのか。世界で1000万部を超える『ビジョナリー・カンパニー』シリーズの著者、ジム・コリンズ氏がスタートアップや中小企業向けに記した『ビジョナリー・カンパニー ZERO』から、一部抜粋して紹介する。

 有能なリーダーは集中する。優先課題を最小限に絞り、脇目もふらずに専念する。すべてをやれる人間はいない。偉大な企業を目指す組織も同じことだ。

一度にひとつずつ

 優先事項の短いリストを作成しよう。「短い」というところがミソだ。優先事項は一時期にひとつに絞るのが有効というリーダーもいる。ひとつに決めたら、片が付くまでそれに集中するのだ。どうしても複数になる場合でも、3つを超えないようにしよう。それ以上になるのは優先順位を決められないことを認めるのに等しい。

 これを実践していたのが、シカゴマラソンを主催するスポーツイベント会社のエグゼクティブ・ディレクター、ボブ・ブライトだ。ブライトのトップ在任中に、シカゴマラソンは地域的な二流イベントから、世界記録が生まれる一流の国際イベントに成長した。成功の秘訣を問われたブライトの答えはシンプルだった。「ライフルをオートマチック・モードにしないことだ」

 詳しい説明を求めると、ブライトはベトナム戦争に海兵隊員として9年間従軍した経験を語ってくれた。その間、多くの戦闘に参加した。おとり部隊を率いて、敵陣に攻め込んだこともある。そこで人生でもっとも大切な教訓のひとつを学んだという。

 味方が数人しかおらず、周りを敵に囲まれたときにはこう言うんだ。「おまえはここからここまで、おまえはここからここまでをカバーしろ。銃はオートマチック・モードにするな。一度に一発ずつ撃て。パニックになるな」

 同じことがビジネスにも言える。これは本当に重要なことだ。一度にひとつに集中すること。そうしなければ、さまざまな問題を抱えることになる。


 戦場で部隊を率いることと企業経営を同列に論じるつもりはない。それでも一度にひとつのことに集中し、パニックにならないという基本は、生き馬の目を抜くベンチャー企業経営にも応用できる。これは「やることリスト」にひとつの項目しか書けないということだろうか。答えはイエスであり、ノーでもある。企業経営者として「やるべきこと」がひとつだけということは実質的にあり得ない。しかし時間の大部分は最優先事項につぎ込み、それが完了するまでは集中すべきだ。

押し寄せる課題にパニックにならず、優先課題を見極め、集中して解決に当たることが重要(写真:chaponta/Shutterstock.com)
押し寄せる課題にパニックにならず、優先課題を見極め、集中して解決に当たることが重要(写真:chaponta/Shutterstock.com)

仕事ではなく時間を管理する

 あなたの会社でもっとも不足している資源は、あなたの時間だ。ほかの資源はたいていどうにかして調達したり内製したりできるが、あなたの時間を調達あるいは内製することはできない。1日24時間しかないのだ。

 アッチテイ・エンターテインメント・インターナショナル社長のケネス・アッチテイは、時間管理と仕事の管理には重要な違いがあると説く。仕事は無限で、時間は有限だ。時間があればあるだけ仕事は増えていく。このため生産的になるほど、仕事ではなく時間を管理しなければならない。

もっとも重要な問いは「私は何をすべきか」ではなく「私はどのように時間を使うべきか」だ。

 順番がおかしいと思うかもしれない。だがよく考えれば、理にかなっている。あなたが組織のリーダーなら、やらなければならない仕事の量は無限に増えていく。すべてをやることは純粋に不可能だ。アッチテイは著書『Writerʼs Time(物書きの時間)』で、それを見事に説明している。

 あなたの仕事がうまくいけば、仕事はさらに増える。つまり「仕事を完了する」という概念そのものが甚だしい自己矛盾であり、誤った思考や習慣を助長してノイローゼを引き起こす危険がある。


 やるべきことをすべてやるのに十分な時間がない、と感じたことがないだろうか。ここではっきり言っておこう。やるべきことをすべてやるのに十分な時間がある人はひとりもいない(これからそうなる見込みもひとつもない)。私たちはこれからもずっと、日々やりかけの仕事を抱えたまま床に就くのだ。生産的な人生を送っている人は、やりかけの仕事を抱えたまま死ぬだろう。それでも(ここが重要なところだが)有効に使える時間は、本当はもっとたくさんあるのだ。時間を賢く管理すれば、毎日にまだ活用されていない生産的時間がたっぷりあることを「発見」するだろう。

 その第一歩は、あなたが実際何に時間を使っているか調べることだ。定期的にスケジュールをチェックし、どこに時間を割いているか分析しよう。最優先事項にきちんと時間を使っているだろうか。重要ではない活動に気を取られ、そちらに時間を取られていないだろうか。あなたのビジョンを強化するような活動、あるいは戦略の推進に直結する活動に主に時間を使っているだろうか。そうでなければ、十分集中していないことになる。

 自分を何かに強制的に集中させたいとき、効果的な手段がある。働く時間を減らすのだ。マリオット・コーポレーション創業者のJ・ウィラード・マリオットが、たった1店舗のレストランを大企業に成長させる際に役に立った哲学がある。「懸命に働け。1分1秒を無駄にするな。そして働く時間を減らせ。勤務時間の半分を無駄にしている者もいるのだから」

 ウィンストン・チャーチルは史上まれに見る多産な人生を送ったとされる。絵を描き、レンガを積み、動物を育て、社交にいそしんだ。一方、仕事中(たいてい仕事を始めるのは午後11時以降だった)はもっとも重要なことだけに集中した。

やはり重要なのは決断力

 優先事項を決めるには、本当に重要なことは何かという困難な選択と向き合わなければならない。集中できない人が多い理由のひとつは、決断できない人が多いからだ。優先事項のリストからどの項目を削るか、決めることに二の足を踏む。しかしリストから積極的に項目を削る姿勢が必要だ。

 あるCEOは優先事項を選択できず、側近をやきもきさせていた。CEOはすべてをやりたがった。残念ながら、結局なにひとつうまくいかなかった。部下には20個もの「優先事項」を与えたが、実現するわけがない。あるマネージャーは、至極まっとうな不満を語った。

 20もの優先事項に「集中せよ」と言われた。だがそんなことは不可能だ。そこでCEOのところへ行って「このなかで一番重要なのはどれですか、すべてに取り組むことはできないので」と伝えると、黙り込んでしまった。困難な選択がどうにもできなかったからだ。


 このCEOはどうしてもリストから項目を「削る」ことができなかった。それには決断が求められたからだ。しかし、それこそ会社が必要としていたものだった。当然というべきか、この会社は先のインタビューからほどなくして重大な危機に直面した。

(訳=土方奈美)

日経ビジネス電子版 2021年9月28日付の記事を転載]

ネットフリックス創業者兼共同CEOも絶賛!

 経営書の名著『ビジョナリー・カンパニー』シリーズの著者、ジム・コリンズ氏がスタンフォード大学経営大学院で教えていた1992年に記した名著があった。『Beyond Entrepreneurship』だ。日本語への翻訳・出版はされずにいたが、ネットフリックス創業者兼共同CEOのリード・ヘイスティングス氏が起業家に「86ページ分を丸暗記しろ」と言い、自身も毎年読み返していた本だった。
 そして今回、最新情報などを大幅に加筆して改訂したのが『ビジョナリー・カンパニー ZERO』だ。パーパス、ミッション、ビジョンの重要性、戦略の立て方、戦術の遂行の方法などを体系的に解説している。