静岡の小さな農業者集団サンファーマーズが開発した高糖度トマト「アメーラ」は、2022年4月には、欧州最大級の国際農業展示会「フルーツロジスティカ」(ドイツ)のイノベーション・アワードで、最高金賞を受賞した。海外でのブランドづくりにおいて、非言語の情報伝達手段である「ロゴ」の役割は極めて大きい。静岡県立大学教授・岩崎邦彦氏の著書 『世界で勝つブランドをつくる』 から一部を抜粋し、世界ブランドをつくるロゴの条件を探る。
世界に通用する「ロゴ」をつくろう
ロゴは、海外の消費者が商品を買うときの目印となる。印象的なロゴがあれば、言葉はいらない。
ここでは、ロゴのポイントについてみていこう。
まず、気をつけるべきは、ブランドアイデンティティが定義されていないにもかかわらず、「まずは、ロゴから作成しよう」といったケースだ。
中小企業の経営相談窓口に、ブランドづくりの相談に行ったら、「ロゴやパッケージのデザインを刷新して、ブランド化しましょう」「まず、ロゴをつくりましょう」と提案されたといった話をよく聞く。「ロゴをつくること」をブランドづくりだと考えている人もいるが、それは勘違いだ。
ロゴは、単なる識別のためのマークではない。ブランドの象徴であり、ブランドのありたい姿や、ブランドの独自性を形にしたものである。
「世界で有名なロゴマーク」を聞いてみた
あなたは、下記の文章の空欄に、どのような言葉を入れるだろうか。
「 」である。
日本とアメリカの消費者に聞いてみた。
回答は、図表に示したとおりだ。驚くことに、上位5ブランド中4ブランドが日米で共通している。アップル、ナイキ、マクドナルド、コカ・コーラだ。ロゴマークには国境がないことが、この結果からもうかがわれるだろう。
ここで「ナイキ」、「アップル」、「マクドナルド」、「コカ・コーラ」のロゴをイメージしてほしい。
おそらく、大部分の人の頭の中には、画像が浮かんできたのではないだろうか。
強い世界ブランドは、「強いロゴ」をもっているということだ。
「ナイキ」のスウッシュ(swoosh)と呼ばれるロゴ。勝利の女神「ニケ」の翼をモチーフにしている。勝利にこだわるスポーツブランドとして、ふさわしいロゴだ。
このロゴは、ポートランド州立大学でグラフィックデザインを学んでいた女子学生キャロライン・デヴィットソンが、創業者フィル・ナイトの依頼によって、わずか35ドルで作成したものである。当時の為替レートで換算すると、ほぼ1万円といったところだ。
「マクドナルド」のMのような形にも見える「ゴールデンアーチ」と呼ばれるロゴもシンプルだ。一見しただけで、記憶に残る。
「アップル」の右上がかじられたリンゴのマークもシンプルで、個性的で、印象深い。
「コカ・コーラ」の赤色のロゴは、知らない人はいないだろう。一目見れば、コカ・コーラとわかる。
いずれのロゴも個性があり、頭にイメージが浮かびやすい。
筆者の講義を受講する大学生にも、「好きなロゴ」と「なぜそのロゴを好きなのか」を聞いてみた。
結果は、図表に示したとおりだ。
好きなロゴは、「ナイキ」と「アップル」が突出している。先にみた日本とアメリカの調査とも一致する結果だ。
そのロゴを好きな理由を聞いたところ、出現頻度が圧倒的に多い単語は「シンプル・わかりやすい」である。以下、「デザイン」、「かわいい」、「かっこいい」、「おしゃれ」と続く。
魅力的な世界ブランドのロゴは、シンプルなデザインで買い手の心に訴えているということだろう。
上位2つの「ナイキ」と「アップル」のロゴについて、なぜそのロゴを好きなのか、具体的なコメントをいくつかピックアップしよう。
「ナイキ」のロゴが好きな理由:
「力強さや躍動感を感じられる」
「シンプルでわかりやすいし、記憶に残りやすい。書いてみてと言われてもすぐに書ける」
「シンプルでカッコいい」
「シンプルでかわいい」
「アップル」のロゴが好きな理由:
「ケータイなどから見えるシルエットがオシャレに見える」
「リンゴをかじったようなロゴがかわいいから。お洒落な雰囲気もある」
「派手すぎないシンプルでオシャレなデザイン」
「かわいいし、このマークが付いているとAppleの製品だとひと目でわかる」
良いロゴの条件
ロゴに欠かせない条件は、まずは、ブランドアイデンティティを反映していて、独自性があることである。次に、シンプルであることや、「おしゃれ」「かわいい」「かっこいい」「センスがある」など情緒に訴えることも重要だろう。
遠くから見ても一目で認識できることや、名刺サイズに縮小しても識別できることも大切だ。
時代を超えて通用する飽きないデザインも重要な条件である。流行を追ったデザインや、奇をてらったデザインは、陳腐化しやすく、飽きられやすい。
アメーラのヨーロッパロゴができるまで
日本で利用しているアメーラのロゴは、「アメーラ」というカタカナを個性的なフォントで表示したものであるが、欧米の人が、カタカナをみると、アルファベットや不思議な記号にみえるようだ。
スペインのメンバーにロゴを見てもらったところ、「ア」は「P」、「メ」は「X」にみえることが分かった。「PX-ラ」では、買い手を混乱させてしまうかもしれない。
そこで、ヨーロッパ進出にあたっては、新たにロゴを作成することとした。ヨーロッパのロゴには、アメーラの海外ブランド戦略に整合するよう、下記の要素を考慮して作成している。
・日本発のトマトであることを示唆する
・日本とスペインのコラボレーションを示唆する
・最高品質のトマトを示唆する
・シンプルである
・日本のロゴと共通な色
「太陽」と「頂」を表現
ここでは、ヨーロッパのアメーラのロゴができあがるプロセスと、ロゴに込められた想いをみてみよう。
まず、次の写真を見てほしい。
この写真の赤色の丸は、トマトの赤でもあり、日本国旗の「日の丸」でもある。アメーラが日本発のトマトであることを示す。日本の国旗は、世界一シンブルだ。日の丸は、アメーラのブランド戦略の軸である「引き算の発想」も表現している。
アメーラが生まれた静岡県には、日本一高い富士山がある。富士山の頂は、アメーラが品質の頂点を目指すことを示している。
次に、もう1枚の写真を見てみよう。
中心の赤い太陽は、情熱と太陽の国「スペイン」のアイコンだ。日本人がスペインのトマトと聞いて思い浮かべるイメージは、「真っ赤」「太陽」である。
アメーラを生産するスペインのグラナダ県には、シエラネバダ山脈の3300mを超えるベレッタ山がある。シエラネバダ山脈からの伏流水で、アメーラはつくられている。富士山同様、ベレッタ山の頂は、アメーラが最高品質(頂上)を追求し続けることを表現している。
日本とスペインの連携を示す「赤い丸」から、両国を象徴する山の「頂」を引き算したデザイン。それがアメーラのヨーロッパのロゴだ。
赤の丸から、山頂を切り取ったデザインは、アメーラのブランドづくりの軸である“引き算”の発想も示唆している。
このロゴは白地に赤で、とてもシンプルかつ個性的だ。誰にでも書けるだろう。記憶にも残りやすい。海外の消費者がリピート購入するときの目安になる。
ロゴは、名刺や小さなシールなどにも利用されるが、このデザインであれば、縮小しても識別可能だ。
世界ブランドを生み出す、良いロゴの条件をまとめておこう。
・ブランドアイデンティティを反映している
・シンプル
・情緒に訴える
・独自性がある
・一目でみて分かる
・縮小しても識別できる
・飽きないデザイン
・時代を超えて通用する
静岡の小さな農業者グループがつくる日本発のトマトが、なぜ、トマトの本場スペインで 最も高く売れるようになったのか?
どうすれば日本発のブランドを、世界ブランドに育てられるのか?
ブランドの「軸」づくり、市場調査、イメージの訴求に始まり、ネーミング、ロゴ、パッケージデザインまで、実践プロセスと理論を“掛け算”しながら、その答えを探索し、具体的に提示する。海外市場を目指す企業、必読の書!
岩崎邦彦(著) 日本経済新聞出版 1870円(税込み)