市場価値を上げるためには、何よりも「成果を出すこと」が大切です。『WORK 価値ある人材こそ生き残る』の著者であるmoto(戸塚俊介)さんは、「会社にキャリアを用意してもらうという受け身の姿勢では、自分から仕事で成果を出しにいくことはできない」と言います。連載第2回のこの記事では、仕事で成果を出すためにやるべきことをお教えします。
第1回=「努力しているのに会社が評価してくれない」という人の特徴 から読む
「会社名よりも個人の名前が先に出てくる状態」を目指す
市場価値を上げるには、「会社名よりも個人の名前が先に出てくる状態」を目指してください。会社名ではなく、自分自身が信頼され、それで仕事をしている状態です。
そうなるには、まず自分の仕事の成果が大切ですが、ひとつおすすめの方法があります。それは、「法人格」と「個人格」を使い分けるようにすることです。これをうまく利用すると、個人での信頼を獲得できます。

1987年長野県生まれ。新卒で地方ホームセンターに入社後、リクルートやスポットライト(現:楽天ペイメント)など複数社に転職し、営業部長や事業責任者などを務める。会社員として働きながら、自身の転職経験を基にしたウェブメディア『転職アンテナ』を立ち上げ、2021年4月に上場企業であるログリーへ事業を売却。現在はmoto株式会社の代表取締役を務める。著書『転職と副業のかけ算』(扶桑社)はベストセラーになり、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2020」にノミネートされた。Twitterのフォロワーは12.5万人で「本質的なキャリアや働き方が分かる」として、SNS(交流サイト)でカリスマ的な人気を誇る。
たとえば、会社から「いつものサービスに加えて、クライアントにはこのオプションをすすめてほしい」と指示されたときに、「自分が担当しているクライアントには、このオプションはすすめたくないな……」と思ったとします。
こんなとき、あなたはどうしますか? クライアントには言わずに、しかしすすめたことにして上司に報告するでしょうか。
こうした場面は、個人格と法人格を利用する絶好のチャンスです。
「うちの会社としてこのオプションの加入を増やしたいと思っているのですが、私としては、御社には必要ないと思っています。おそらく御社は〇〇社のオプションを利用しているので、そちらで十分ですよね」
自分の会社のことを考えれば、目の前の売り上げを増やすことが大切です。ですが、何よりも大切なのは、目の前のクライアントの課題の解決です。
クライアントの立場に立って考えたときに「これは本当に必要ない」と思ったのであれば、このコミュニケーションはとても有効です。こうしたやりとりを重ねていくことで、「〇〇さんは弊社のことをちゃんと考えてくれているんだ、〇〇さんなら信頼できる」と感じてくれるはずです。これが、結局自分の会社への信頼にもつながるでしょう。
仕事をするときは、会社だけでなく、あなた自身への信頼もぜひ忘れず積み上げていってください。そうやって「会社名よりも個人の名前が先に出てくる状態」を目指してみてください。
「言うことを聞く人」と「頼りになる人」、どちらの価値が高いか
お客さんの出世は、まわりまわって自分の出世につながります。お客さんが社内で評価されて出世していけば、いつかその人が決裁者になり、大きな仕事をくれるかもしれません。社外の人と仕事をするときには、相手を出世させる気持ちで仕事をしましょう。
どの業界も仕事ができる人は、「お客さんと一緒に考えて、同じ目線で提案ができる頼れる人」です。私はこれを「伴走力」と言っています。
自分のお客さんと一緒に考える姿勢でいましょう。
たとえば、自分がお客さんだったら、めんどくさい仕事を一緒になって親身になって考えてくれる自分より有能な人がいたら、自然と頼るようになりませんか?
「あなたが求めているものって、どんなものですか? こんな提案はどうでしょう?」と言える人は、相手の信頼が得られるはずです。サービスや商品を売買して終わり、という関係で終わらせるのはもったいないです。いつでもあの人に仕事をお願いすれば安心だと思ってもらえる、頼れる人は仕事が絶えません。

しかし、この関係の「作り方」には気をつけなければならないポイントがあります。ただの「言うことを聞いてくれる人」になってしまうのは避けましょう。あくまでも、「頼りになる人」にならないと意味がありません。
これは実際に私がリクルートで失敗した話です。
担当しているお客さんの要望を聞くことが大事だ! と考えた私は、とにかく要望をできる限り聞いていました。しかし、こうなるとお客さんの「相談相手」ではなく「御用聞き」になってしまったのです。
お客さんにとって私は「無料でなんでもやってくれる人」になってしまい、それ以上の信頼関係にはなりませんでした。
では、これを脱するにはどうすればいいでしょうか。
それは、「明日の役員会で〇〇のデータを使いたいんだけど、すぐ送ってもらえる?」という連絡をもらったとしたら、「はい、やります!」とただデータを渡すのではなく、「そのデータを使って、最終的にどんな承認をとろうとしているんですか?」と、その人が達成したい目的を聞くことです。「それなら、データを見るよりこうしたほうが良くないですか?」と相手にはなかった視点を提供しましょう。こうすることで、ただの仕事をやってくれる人から、頼れる人間になります。
この例は、私が実際にやったことですが、「おかげで無事に承認が取れました! 私が依頼したデータだけでは通らなかったと思います」などと、信頼関係を築くことができました。
これは社内でも同様です。上司がどんな目的で仕事をしているのかを把握し、その先まで考えてアウトプットできると、頼れる部下になることでしょう。「ただの言うことを聞く部下」と「頼れる部下」どちらの評価が高いかはわかると思います。
課題解決を提案すれば、より多くの予算を獲得できる
「顧客にとっての課題は何か?」
「それを解決するためには何が必要か?」
「そのために必要なお金はいくらか?」
「そのお金をうちに出してもらうためには、どんな提案が良いのか?」
これらは、顧客と向き合うために考えるべきことです。予算があると、予算に合わせた行動をしてしまいます。予算と向き合うのではなく、顧客と向き合いましょう。そうすることで、仕事の成果はもちろん、あなただけのオリジナリティが出てきます。
たとえば、私が人材広告の仕事をしていたときに、クライアントが抱える課題によっては、ただの採用だけではなく、会社全体のブランディングを考えた提案に拡大したことがあります。そうすると、普段仕事をしている人事部の採用予算だけでなく、別部署である広報の予算も取れます。そのときは、入社後の研修予算まで食い込んで提案し、入社後の活躍まで見込んだプランニングを作りました。当然、提案金額は無謀な額です。クライアントの役員会で使うための資料も私が作り、先方の社内に根回しもしました。
ちなみにこれは、それまで私もやったことがない仕事でしたが、大きな予算を動かすことの楽しさも知りました。
顧客に必要性を感じてもらえれば、予算なんてどうにでもなるのです。お金をもらうことだけ考えるのではなく、お金を出すことの意味や必要性を提案することが、お客さんの課題を解決し、またあなただけの新しい仕事を生みます。
顧客に合わせて自分にできることをするのではなく、自分ができないことも含めた提案をして、相手に貢献することが、積み重なって自分の価は大きくなっていきます。わからないことだらけで苦労するでしょうが、そうした経験を数多く重ねていくことで、自分の価値は大きくなっていきます。

(構成:梶塚美帆)
[日経ビジネス電子版 2022年1月11日付の記事を転載]
仕事に探される人になろう!
本当に「安定」した働き方とはなんでしょうか?
それは、「仕事に探される人」になることです。どの会社にいようとも、あるいはフリーでも、市場価値の高い、本当に仕事ができる人間になることが、結局いちばん安心です。
では、そうなるにはどうしたらいいのでしょうか。
それは、「自分だけの経験」を重ねることです。目の前の仕事に一生懸命になりましょう。それを一つひとつ重ねることで、確固とした自分だけの価値ができていくはずです。
★給料はもらうものではなく、稼ぐもの
★会社名は錯覚資産
★誰もやりたがらない仕事はチャンス
★「意志」のない受け身の人間は、いつまでも仕事ができない
など、自分の価値を高める70の考え方をお伝えします。