仕事で成果を出し続けていると、「転職」という選択肢が出てくるでしょう。『WORK 価値ある人材こそ生き残る』の著者であるmoto(戸塚俊介)さんは、「転職は、すればするほどより多くの経験を積むことになるので、自分の価値を高められる」と言います。連載第3回のこの記事では、よりレベルの高い転職をするために知っておくべきことと、年収交渉の方法をお教えします。
第1回=「努力しているのに会社が評価してくれない」という人の特徴 から読む
第2回=「言うことを聞く人」の価値が低い理由 から読む
今の会社の「出口」を知っておく
社内の人たちがどの企業から転職して来たのか、反対に辞めた先輩たちがどの企業に転職していったのかをぜひ把握してください。わかる範囲でリストアップするとなおいいでしょう。
「○○さんが辞めるらしい」「○○部長が転職活動しているらしい」と聞いたら迷わずごはんに誘いましょう。同じ会社の人の転職活動は、自分のキャリアの可能性の宝庫です。
どんな転職活動をしているかだけでなく、「今は○○業界で、○○ができる人を求めているらしく、うちの会社よりいい年収だ」とか、「○○という会社が新規事業を始めるらしく、うちの競合になりそうだから、話を聞きに行ってみたらうちより成長の可能性が高そうだった」など、市場の状況などがリアルにわかります。情報を蓄積して、「次に自分が行けそうな会社リスト」を作っておきましょう。
これをしておくと、今いるポジションから、他の企業のどのポジションに転職できるのか、何よりも強い目安になります。転職のときには、星の数ほどある求人から転職先を探すことになりますが、このリストが最も強力な武器になるでしょう。

1987年長野県生まれ。新卒で地方ホームセンターに入社後、リクルートやスポットライト(現:楽天ペイメント)など複数社に転職し、営業部長や事業責任者などを務める。会社員として働きながら、自身の転職経験を基にしたウェブメディア『転職アンテナ』を立ち上げ、2021年4月に上場企業であるログリーへ事業を売却。現在はmoto株式会社の代表取締役を務める。著書『転職と副業のかけ算』(扶桑社)はベストセラーになり、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2020」にノミネートされた。Twitterのフォロワーは12.5万人で「本質的なキャリアや働き方が分かる」として、SNS(交流サイト)でカリスマ的な人気を誇る。
もちろん、個人の能力あってのことなので、一概にこの会社に入ったら次はあの会社にいけるということにはなりません。しかし、同じ環境にいた人が「次に行った会社」がわかることで、「次に自分が転職するときの出口」が見えるようになります。
いざ転職しようと思って情報を集めるよりも、前もって集めていたほうが、いい情報を多く持てます。こうして先回りして出口の選択肢を知っておくと、よりよいキャリアを考えることができるようになります。どんなことでもそうですが、出口が書いてある地図を持っている人と持っていない人では歩き方が大きく変わります。
また、働いていくうちに自分の向き不向きや、上司が変わったり、環境が変わったりなど、自分の置かれる状況も変わってくるかもしれません。そのたびに「もしかしたら、ほかの選択肢のほうが自分にとっていいキャリアになる可能性もあるかもしれない」と迂回ルートも視野に入れながら、地図を修正していきましょう。おおよそ、2年から3年後の自分を考えていくと、市場価値の高いポジションを目指せるようになっていくと思います。
年収交渉の方法
年収の交渉は当然してよいものです。年収交渉とは、「自分の時間とスキル(労働力)」を、企業にいくらの年収で提供するかという重要な交渉シーンです。
ただ、最初からするものではありません。なかなか切り出し方も難しいと思います。
私は、転職活動のときは、毎回10~15社くらいを受けます。転職歴が多いので、書類で落とされることも日常茶飯事です。しかし、面接に進むことができれば、基本的に落ちることはなく、自分の希望年収も叶えています。
いちばん交渉しやすいタイミングは、「最も大切な転職の理由は何ですか?」と聞かれたときです。このときに、「年収です」と言い切るようにしています。
「そんなこと言ったら、心証が悪くなるのでは?」と、不安になる人もいると思いますが、そのとき、年収は必要条件であり、十分条件ではないことも同時に伝えると、誤解のないコミュニケーションになります。

なにより、自分が大切にしていることを企業に伝えるのは、自分の「交渉ポイント」を教えることになるのです。
企業側が「この人はどうしたらうちに入社してくれるだろう?」ととる気になってくれたときに、年収を重視していることを事前に伝えておけば、交渉の成立条件が「年収」になります。自分が大切にしている転職条件を「年収だ」と明確に伝えることで、交渉できる余地を作っておくのです。
もちろん、あくまで必要条件なので、自分が大切にしているほかのポイントも合わせて伝えるといいです。私の場合は、残業の有無、休暇日数などの福利厚生のほかに、自分に与えられる裁量権、自分に期待されている成果、組織構成などを確認しています。高い年収をもらうための交渉をしても、結果を出せる環境でなければ、期待に応えることができないからです。
転職で年収を上げたいなら、「最後の決め手は年収です」と宣言して問題ありません。「私は今、年収を800万円もらっていますが、1000万円じゃないと行かないです」とはっきり伝えるほうが、ふわふわしている人よりも心証はいいと思います。
また、転職先の給与体系を知っておくことも大切です。これは転職エージェントに聞いておきましょう。給与体系を知っておくことで、自分のオファー年収がどの位置なのかを把握できます。
会社によっては年齢ごとに上限が決められている場合もありますが、その場合でも給与体系の上限まで交渉の余地はあります。そして、面接ではその範囲の希望年収を提示してください。こういう会社だと、給与体系を超えた年収を提示してしまうと、向こうが採用を諦めてしまう可能性があります。
給与体系を知れば、将来の年収もざっくり見えてきます。「30歳で年収1000万円を稼ぎたい」と考えて入社しても、「社長の年収が900万円」であれば、また転職するしかありません。自分が将来欲しい金額をもらっている社員がいるか、という点についても確認しておくといいです。
とはいえ、これらは「企業が自分を欲しい状態」だからできることです。
面接の最初のほうは、自分はどんなことをしてきたのか、とか、この採用で求めていることは何か、今後はどのように事業を進めていこうとしているのかなど、お互いに何を望んでいるかを話しましょう。
企業が自分を必要としている状態になれば、ある程度こちらの要望は飲んでもらえるはずなので、手応えを感じたら少し強気の年収を伝えてもいいと思います。
私は「入社時期の相談」や「入社前にメンバーに会わせてほしい」など、こちらの要望に応えてくれている状態だと、「自分を欲しいと思っているフラグ」だと思っています。ですので、こうしたケースでは強気の年収を提示しています。
また、『WORK 価値ある人材こそ生き残る』の中でも紹介した「軸ずらし転職」で、志望度の低い他業界で高めの年収オファーをもらっておいて、それを比較対象として出して年収交渉をするのもいいでしょう。
あくまで年収が最後の決め手であることを伝えると、このやりとりで気まずい雰囲気になったことはありません。

(構成:梶塚美帆)
[日経ビジネス電子版 2022年1月12日付の記事を転載]
仕事に探される人になろう!
本当に「安定」した働き方とはなんでしょうか?
それは、「仕事に探される人」になることです。どの会社にいようとも、あるいはフリーでも、市場価値の高い、本当に仕事ができる人間になることが、結局いちばん安心です。
では、そうなるにはどうしたらいいのでしょうか。
それは、「自分だけの経験」を重ねることです。目の前の仕事に一生懸命になりましょう。それを一つひとつ重ねることで、確固とした自分だけの価値ができていくはずです。
★給料はもらうものではなく、稼ぐもの
★会社名は錯覚資産
★誰もやりたがらない仕事はチャンス
★「意志」のない受け身の人間は、いつまでも仕事ができない
など、自分の価値を高める70の考え方をお伝えします。