働き方改革で「長時間労働はよくない」という意識が浸透し、生成AIなど仕事に便利な道具が普及したものの、思うように残業時間が減らせないことが問題となっている。トヨタの現場で培われた「極限までムダを削る」思考法で仕事の「時短」を実現する『 トヨタの時短術(日経ビジネス人文庫) 』から一部を抜粋してお届けする。その第1回。
時間のムダを極限まで減らす
私に「時短」の考え方のベースを叩き込んでくれたのは、最初に入社したトヨタの販売店である神奈川トヨタ自動車でした。そして、今でもそのときの考え方を元にしながら仕事を続けています。
ご存じの方も多いと思いますが、トヨタには昔から、作業のムダを極限まで削り、生産性を高めていくという文化があります。勤務中の歩く速さひとつにも意識を向けるくらいムダを嫌うのです。これを突き詰めて考えると、時間のムダをなくすこと、つまり「時短」につながると私は考えています。
私は、トヨタの販売店を退職したあと、IT企業に転職し、いわゆるホワイトカラーの職場を経験したのち、自分で会社を立ち上げました。現在は、さまざまな企業に講演で訪れ、数多くの残業に悩むビジネスパーソンと接し、その方々にトヨタの時短術をお伝えしてきました。
時短のためには、現状のやり方を疑い、「やり方を変える」ことでムダを削るだけでなく、いっそのことその仕事を「やめてみる」という選択もあります。必要性の低い仕事はとりあえずやめてみて、もし成果が変わらないようならそんな仕事はスッパリとなくしてしまえばいいのです。
生産性を高めるためには、「成果に影響を及ぼす仕事」にフォーカスしなければなりません。「今までやってきたから」と惰性でやり続けるのではなく、成果に影響しない仕事は徹底的に切り捨てていきましょう。
トヨタの現場でも、「必要のない仕事をやめる」という選択が下される場面に何度も遭遇しました。例えば、私はメカニックだったので、定期的に技術講習を受講していました。その講習では、昔から終了後にレポートを書いて提出するという慣習がありました。
しかし、あるとき、先輩のひとりが「このレポートは、本当に意味があるのか」と口にしはじめ、社内で議論になったことがあります。そこで、そのレポートがどのように活用されているのかを追跡調査したところ、じつは上司も多忙であまり読んでおらず、ファイリングされて終わっていたことが分かりました。
結局、この慣習はほどなくして撤廃されました。その代わりとして、教わった作業や技術を先輩の前で実際に披露する「報告会」が開かれることになったのです。
時間をかけて紙に書き起こすよりも、手を動かしてアウトプットするこのやり方は、実に理にかなっていて、技術の浸透が速くなっていきました。
こういった例は、製造現場だけでなく、ホワイトカラーの職場でも散見されます。よくあるのが、報告書や日報などの書類です。もちろん、それを書くことで本当に成果が挙がるのなら続けるべきですが、大半は上司がレビューをするだけのために書類を書かせているなど、上司の自己満足のためだけに行われていることが多いのです。もしそうだとしたら、こんなにムダなことはありませんよね。そのような状況が続いているなら、やめることを提案すべきです。

「価値がないとわかっている仕事」を手放す
あなたの本来の仕事は、書類を書くことだけではないはずです。日々の出来事から課題を見つけ、その解決策を考えることで、成果につなげられるかどうかが大事なのではないでしょうか。
このように、これまで何げなくやってきた習慣で「必要だろう」「重要だろう」と思い込んでいることでも、かけた時間やコストほどには成果が得られないことも十分にあります。思い込みや自己満足で仕事をするのではなく、成果をしっかり見るようにしましょう。
自己満足といえば、ビジネスパーソンのなかには厄介な考え方も蔓延しているように思います。「価値がないことはわかっているけれど、その仕事を取られると自分の存在意義が問われてしまいかねないから」と必死でムダな仕事にしがみついている人もいるのではないでしょうか? こんな自己満足的な動きは本当にムダでしかありません。
こういった考え方は、会社のためにもなりませんし、その人自身のためにもなりません。自らの保身と自己満足のためだけに会社に不利益をもたらしているのです。
このような動きがあるようなら、上司に掛け合うなり、経営層に提案するなりして、意識を変えてもらうための動きをすべきでしょう。
[日経ビジネス電子版 2026年4月7日付の記事を転載]
原マサヒコ(著)/日経BP/1100円(税込み)
