働き方改革で「長時間労働はよくない」という意識が浸透し、生成AIなど仕事に便利な道具が普及したものの、思うように残業時間が減らせないことが問題となっている。トヨタの現場で培われた「極限までムダを削る」思考法で仕事の「時短」を実現する『 トヨタの時短術(日経ビジネス人文庫) 』から一部を抜粋してお届けする。
「傾聴」が人間関係を作る
ベストセラー『嫌われる勇気』(岸見一郎/古賀史健著、ダイヤモンド社)などで有名な、心理学者のアルフレッド・アドラーは、こんなことをいっています。
「結局のところ、我々には対人関係以外の問題はないように見える」
仕事をしていると、さまざまな問題が発生し、そのたびに時間をとられてしまうわけですが、その問題の根源はほとんどが対人関係だというのです。もちろんこれは、仕事だけではなく、人生全般にいえることです。
トヨタの現場では、昔から「人間関係の構築」にとても力を入れていました。アドラーが指摘するように、人間関係による課題を非常に大きなものと捉えていたのだと思います。
仕事は、「人と人」とのかかわりのなかで進んでいきますから、しっかりとした人間関係を構築できなければ、「より速く」「よりよいサービスを提供する」ということは難しくなってしまうのです。
では、トヨタでは、どのようにして人間関係を構築していたのでしょうか。トヨタには、昔から「人間関係は口より耳で作れ」という言葉がありました。
口より耳を使う、つまり「話をよく聞け」ということですね。人の話を真摯に聞くことを「傾聴する」といいますが、まさにそのとおり。トヨタでは、相手の言葉に身体を傾けて聞くことが重要視されているのです。
「人に話をすること」と「人の話を聞くこと」。どちらが難しいかといえば「聞くこと」だと思います。
人に話をするという行為は、自分の頭のなかにあるものを言葉に変換して外に出せばいいだけです。しかし、聞くという行為では、自分にとってはじめて耳にする情報を受け取ることも多いわけです。ですから、頭のなかでは準備ができていないことが多いといえます。
さらに、誰しも「思い込み」や「偏見」といったものを持っているため、より素直に聞くことを難しくしています。それは、自分の価値観と相手の価値観が違うことがほとんどだからです。

「タテ・ヨコ・ナナメ」の関係づくり
トヨタの現場では、リーダーとメンバーによる1対1のミーティングが頻繁に行われていました。1回の所要時間は10~20分と短いのですが、最低でも月に数回、多い場合は月に数十回にも上りました。
そのミーティングでは、おもに業務計画に対する現時点での進捗や見込みはどうか、何か悩んでいることはないか、といったことを聞かれました。まさに部下の話を上司が「傾聴」してくれるわけです。そのなかで、たとえば「仕事が遅れている」とわかった場合には、一緒になって対策を練ってくれます。
また、業務の優先順位を整理し直して、緊急性が低いものを後回しにするなど、業務改善のアイデアを出し合うということもありました。
このように比較的短い時間でも、高い頻度でミーティングを重ねれば、問題をいち早く発見し、対策を立てることができるようになります。その積み重ねが結果的に時短につながるのです。
また、トヨタには「タテ・ヨコ・ナナメの人間関係を築け」という言葉があり、「人間関係の新陳代謝を図ること」が重要視されています。
これは、常に同じ人とばかりコミュニケーションをとるのではなく、社内の上司や先輩など、いわゆる「タテ」の関係はもちろん、同期や同僚、違う業界の同年代といった「横」のつながり、さらに業界や年齢、性別などバックグラウンドがまるで違う人とも関係を深め、「ナナメ」の人間関係も作っていきなさい、ということです。
たとえば、仕事のやり方に関して、思いもよらない視点からのヒントが得られることもあるでしょうし、価値観の違いに衝撃を受けるかもしれません。
自分の知らない世界を見ている人たちと接することは、正直いって腰が引けるものです。しかし、それを乗り越えて新たな人間関係を構築することで、自分自身の人間的な幅も広がり、仕事の質やスピードの向上にも活きてくるものなのです。
[日経ビジネス電子版 2026年4月21日付の記事を転載]
原マサヒコ(著)/日経BP/1100円(税込み)
