働き方改革で「長時間労働はよくない」という意識が浸透し、生成AIなど仕事に便利な道具が普及したものの、思うように残業時間が減らせないことが問題となっている。トヨタの現場で培われた「極限までムダを削る」思考法で仕事の「時短」を実現する『 トヨタの時短術(日経ビジネス人文庫) 』から一部を抜粋してお届けする。その第4回。

ミスややり直しを防ぐ仕組み

 リーダーや管理職の立場にいる人のなかには、「自分の仕事が速くなっても、部下の仕事が速くならなかったら、結局残業は減らないだろう」と感じている人もいるでしょう。

 たしかに、どれだけ個人の生産性を上げても、チーム全体の生産性が上がらなければ、組織としての成果は出しづらいものです。そこで、トヨタの考え方や仕組みを使って、「チームとして成果を出すための方法」について解説していきます。

 まず参考にしていただきたいのは、もともとトヨタの現場における品質管理の仕組みである「自工程完結」です。一つの工程をいくつもの項目に分解することで、不良が出た際「どこに原因があるのか」がすぐにわかるようにします。これにより問題が起こりづらくなるうえ、各工程の担当者一人ひとりが自分の工程で起こった問題を把握できるようにもなります。

 さらに、現在この自工程完結の仕組みは、製造現場だけでなくトヨタのオフィス部門などにも取り入れられています。そのため、活用のされ方や仕組みに対する捉え方は部門によってさまざま。社内に広がるにつれ、多様性を持ちつつあります。私は、オフィス部門における自工程完結を次のように定義しています。

 トヨタにおける“仕事の質を向上させるための考え方”の一つで、「いい仕事をするためには、どうすればいいのか」ということを科学的に洗い出すことで、「ミスややり直しをなくす」ことを狙ったアプローチ全般。

 製造現場における不良品という概念を、仕事上の「ミス」や「やり直し」に置き換えて考えているわけです。

 ちょっとわかりにくいと思いますので、上司が部下に指示を出すというシチュエーションで考えてみましょう。

 上司が部下に対して仕事の指示を出す際、「この報告書を書いて」とか「これコピーして」など、断片的な作業内容だけを伝えることが多いものです。上司としては、「やってほしいこと」の要点だけをうまく伝えているつもりなのかもしれません。もしくは、忙しいから「指示に要する時間」をできるだけ短くしたいのかもしれません。

 しかし、このやり方は、「自工程完結」で考えるとNG。このような指示のしかただと、結果的に余計に時間がかかってしまうことのほうが多いからです。

(イラスト=poosan/stock.adobe.com)
(イラスト=poosan/stock.adobe.com)

流れを分解してやり直しが起きやすい原因を特定

 これは、なぜなのでしょうか? 上司が部下に仕事の指示を出し、部下がその仕事を完了させるまでの一連の流れを分解し、ミスややり直しが発生する理由を分析すると、その原因は「指示の出し方」にあることが多いのです。

 自工程完結の考え方にのっとって、仕事の指示を出す場合には、必ず「背景」を一緒に伝えるべきでしょう。

 「背景」というのはおもに三つで、「その仕事の目的」「その仕事の重要性」「その人に頼む理由」です。

 たとえば、上司が部下に報告書を書くよう指示する場合、まず「今から書いてもらう報告書をもとに、来期の戦略を決定していく」というように、その報告書の目的を話します。そのうえで、「この報告書の内容によって、来期の戦略が変わってくるから、できるかぎり正確な情報を書いてほしい」と重要性を伝えます。

 さらに、「これは、現場のことを誰よりもよく知っている君に任せたいんだ」と、頼む理由も伝えます。

 このように、仕事の背景を伝えることで、上司と部下の間の行き違いがなくなりミスややり直しが減るうえ、指示を受けた人の心象がまるで変わってくるのです。

 この3点をしっかり伝えながら指示すると、行き違いによるムダな時間が減ると同時に、部下は「重要な仕事を任された」「自分は信頼されている」と感じてモチベーションが上がります。モチベーションが上がれば仕事のスピードも速くなりますから、結果的に時短にもつながるわけです。

 この考え方は、部下の側も意識すべきです。仕事を引き受ける際、この3点を確認してから着手すべきだということです。

 指示を出した上司と、指示を受けた部下の間にギャップが生じると、おたがいの時間と労力がムダになってしまいます。逆に、このギャップを埋めることができれば、最小の時間と労力で、最大の成果を生み出すことができるのです。

 指示を受けたときに、わからないことがあれば、自分のなかで勝手に解釈してしまうのではなく、遠慮なく上司に質問しましょう。

日経ビジネス電子版 2026年4月16日付の記事を転載]

書類作成、会議、片付け、問題解決……トヨタの現場で鍛え上げられた思考法で、極限までムダを省く! 生成AIやリモート会議など便利な道具が使えるようになっても、相変わらず仕事がなかなか終わらず、勤務時間は長いまま。そんな人こそ取り入れたい、“カイゼン”に基づいた、「定時に帰るためのノウハウ」を一冊に。

原マサヒコ(著)/日経BP/1100円(税込み)