「軽いし、汚れがこびりつかない」とその利便性から、樹脂加工のフライパンを愛用している家庭は多いのでは。でも、小林カツ代さんは、鉄のフライパンを「一家に一つ持って、頻繁に使ってほしい」と言います。その理由は? 新刊『伝説の家庭料理家 小林カツ代のロジック』から抜粋します。

 昭和の台所には、どこの家にもたいていあった鉄のフライパンですが、今では、とんと見かけなくなりました。代わって昭和の終わり頃から一気に家庭の台所に入り込んできたのが樹脂加工のフライパン。

 「私、樹脂加工のフライパンを悪く言うつもりはないの。あれはあれで便利。ソース焼きそばを作るときは私も併用して使っています。でも、鉄のフライパンはどうしても一家に一つ持って、それも頻繁に使ってほしいのです。とにかく料理の味が違う!」

 とはいえ樹脂加工のフライパンは、焦げつかないし、鉄のフライパンより断然、軽い。やはり使い勝手がいい。

 「樹脂加工のフライパンは、油いらずで炒めものができるといいますが、油を使わずに火を通したものを炒めものとはいいません。キャベツでももやしでも、油を使って強火で手早く炒めるからシャキシャキッと色よく仕上がる。油は少~しでいいの。ステーキでも、鶏のソテーでも、鉄のフライパンでごくごく少量の油でおいしく焼けます。貧血気味の人には、鉄分の補給にもなる」

 でも、鉄のフライパンは汚れがこびりつく……。

 「そう! それが料理なの。いらない脂肪やアクがジュージュー出てくるから、焦げて汚れて当たり前。汚れないフライパンや鍋なんて、ほんとはおかしい。樹脂加工のフライパンは本来出るべき脂肪やアクを材料に封じ込めてしまう。だからフライパンが汚れない代わりに、肉を焼くとボテッと油っぽい仕上がりになってしまう。これは悪口でなく、事実ですよ」

樹脂加工のフライパンと違って、鉄製なら強火にかけることも可能(写真:mizina/stock.adobe.com)
樹脂加工のフライパンと違って、鉄製なら強火にかけることも可能(写真:mizina/stock.adobe.com)

 知っておいてほしいのが、樹脂加工のフライパンは強火にかけてはいけないということ。商品の注意書きには必ず書いてあります。

 「レシピに強火とあると、樹脂加工のフライパンでもガンガン火にかける人がいますが、樹脂加工はずっと強火で使っていると、表面の樹脂がどんどんはがれて有害物質が出てきます。ガーッと焼いたり、トロ火にしたりと、臨機応変に火を使うのが料理なのに、そろりそろりと火を使わないといけない道具なんです。そんな料理、私にはできません」

 樹脂加工のフライパンは弱火~中火で使っていても、樹脂が少しずつはがれ、焦げつくようになります。一方、鉄のフライパンは使い込んで油がしっかりなじみ、表面が油膜で覆われると、焦げつかなくなります。

 「だから、鉄のフライパンはよほど汚れない限り洗剤で洗わなくてよい。洗剤で表面の油膜を洗い落としてしまうと、サビやすくなる。使用後はフライパンがあたたかいうちにお湯を流しながらタワシで洗い、火にかけてよく乾かす。それさえ守れば、鉄のフライパンは一生ものになります」

ほうれん草は逆さからゆでる。枝豆は少ない水で蒸しゆでに。塩サバはゆでてもおいしい――家庭料理の常識を覆した、伝説の〝カツ代式〟ロジックを、130点のレシピとともに。

小林カツ代、本田明子著/日本経済新聞出版/1760円(税込み)