暗号資産「イーサリアム」を弱冠19歳にして創案したヴィタリック・ブテリン氏自身が、イーサリアムの狙いと成り立ち、有用性と可能性を記した 『イーサリアム 若き天才が示す暗号資産の真実と未来』 。ヴィタリックの活動を間近に見てきてその功績と人柄をよく知るイーサリアム財団エグゼクティブ ・ディレクターの宮口あや氏が本書を読み解きます。
ヴィタリックはイーサリアムの創案者として知られているが、彼の真の功績はそのアイデアを最初から「みんなのもの」にし、課題をも公に投げかけることによってさまざまな分野の専門家がコミュニティーに参加したことだと思う。
2022年9月、イーサリアムは数千のアプリケーションが稼働している状態で、中枢の仕組みを「プルーフ・オブ・ワーク」から「プルーフ・オブ・ステーク」(注:マイニングを必要としない参加者間の合意形成の方法の一つ)へと改善し、消費電力の99%以上の削減を達成した。この技術的偉業をコミュニティー皆で実現することができたのも、その重要さをイーサリアムの開発初期からヴィタリックが呼びかけてきた結果である。
そんなヴィタリックへのコミュニティーからの熱い支持は、彼が書く文章によって支えられている。人の意見にも耳を傾け、興味のあることはオープンにコミュニティーへと投げる。本書『イーサリアム 若き天才が示す暗号資産の真実と未来』 の中で私への感謝の念を添えてくれている「一番重要な希少リソースは正当性」も、私たちの何気ない会話から始まったものだ。難しい技術の仕組みを説明する文章にも彼の好奇心と正義感が垣間見られ、開発者だけでなく社会課題に興味のあるすべての人を魅了するだろう。
さらに本書では、彼の文章を通じて、イーサリアムがどう始まり、どれほど進化してきたかが分かるのも面白い。イーサリアムの開発は「複雑だから数カ月かかる」と当初言ったヴィタリックの大誤算も…。最初から完璧ではなかったアイデアを皆に投げかけたからこそイーサリアムがここまで成長したこと、そしてその背景には彼のオープンな姿勢が常にあったことが読み取れる1冊である。