『 きみに冷笑は似合わない。 SNSの荒波を乗り越え、AI時代を生きるコツ 』(日本経済新聞出版)の著者・山田尚史氏は、「『このミステリーがすごい!』大賞」大賞を『 ファラオの密室 』(宝島社)で受賞した小説家、東京大学・松尾豊研究室出身のAI研究者、PKSHA Technologyを共同創業したのちマネクッスグループ取締役を務める経営者という三つの顔を持つ。その山田氏が、SNS(交流サイト)上で蔓延(まんえん)する冷笑主義を乗り越え、AI(人工知能)で激変する社会を生き抜くためのアドバイスをするのが本書だ。AIエンジニアで東京都知事選への出馬でも注目された安野貴博氏が、その読みどころを解説する。
今のSNS社会では、他者の目線にさらされ続け、夢や目標を口にしただけで冷笑される――そんな窮屈さを覚える人が多いかもしれない。そんな中で本書は、斜に構えるのはもう終わりにしようと呼びかけている。夢はバカにされるもの、失敗すればたたかれるもの…そんな“冷笑ムード”を払拭し、堂々と自分の夢を追えばいいと背中を押してくれる一冊だ。
本書の筆者・山田尚史は、わたし(安野)の高校、大学、松尾豊研究室の先輩であり、共にAIスタートアップのPKSHA Technologyで働いていたチームメートでもある。さらに最近では、互いに小説家として作品を発表する「作家友達」という側面もある。小説家・AI研究者・経営者という三つの異なる経験を背景に語られる文章、考え方は示唆に富んでおり、いわば「AI時代の生存戦略が全て書かれている」と言いたくなるほど、内容は濃密だ。
大量のビジネス書、啓発書、論文などを参照しながら議論が進むが、決してお硬い抽象論だけが並べられているような本ではない。例えば「自動化された世界で、あなたの仕事はボトルネックを探すこと」という項目では、考え方を紹介すると共に「Factorio」というゲームをやれという超具体的なアドバイスが書かれている。このゲームは工場を建設するゲームで、AI時代の自動化の本質を体感できる、わたしも大いにハマったタイトルである。プレイしていただければいかにこのゲームとこの議論がかみ合っているかを感じていただけるはずである。
そのほか、「SNSで文句を言うより、行動して変える」「相手の頭の中はわからない。だが常に想像し続ける」といったメッセージも、著者の実体験に裏打ちされており説得力がある。研究とビジネスの両立、スタートアップの経験、そして小説家としての創作活動。それらを統合し、一つの思想としてまとめ上げる著者の視点は新しくもあるし、同時にとても王道でもあるように思う。
AIが加速度的に進化し、SNSが日々騒がしい時代を私たちは生きている。今までの指針が通用しなくなるような時代に不安を覚える人にこそ、本書を読んでみてほしい。何より、夢を声高に語れなくなった空気を吹き飛ばしてくれる言葉たちはどこか痛快でもある。

