ソニーのデジタルカメラ開発、その山あり谷ありの歴史をキーパーソンが語り尽くす『 ソニー デジカメ戦記 もがいてつかんだ「弱者の戦略」 』。ノンフィクション作家・科学技術ジャーナリストの松浦晋也氏がその読みどころを示します。
ソニーのデジタルカメラ……と書いて口ごもる。恐らくその印象は「いつ頃のデジカメを使ったことがあるか」でかなり違うだろう。今の最新のソニーデジカメを使っている人なら、「動作が機敏ですごくよく写るカメラ」と思うはずだ。なにしろ今、ソニーのデジカメはキヤノン、ニコンの二大巨頭に割って入る世界シェアナンバー2(※)だ。高性能デジカメのブランドとして完全に確立している。(※テクノ・システム・リサーチ調べ)
一方、私はといえば、最後に使ったのは実に23年前に発売された「DSC-P1」なのだ。「そつなく使えるが、独自規格のメモリースティックはなんとかしてくれ」という印象が強く残っている。10年ほど前に、出たばかりのミラーレス一眼カメラ「NEX-7」を仕事用に購入した友人がいた。彼は「軽くて小さいのはいいが、オートフォーカスが遅い!」といつも愚痴っていた。
そう、ソニーのデジカメ事業は、カメラの性能においても、営業成績においても、良いところと悪いところの差が大きく、すさまじいまでの「長く曲がりくねった道」を歩んできた。本書はその中心人物であった石塚茂樹・元ソニー副会長へのインタビューを通じて、ソニーのデジタルカメラ事業が歩んできた道を描き出す。
著者はその道のりを前書きにおいて「やんちゃな少年のようだったソニーが、多くの試練を経て分別の大人になっていく過程」と定義する。が、それは著者なりの要約であって、当の石塚氏は「自由にやるんだけれど、責任は自分で取るんだよね」と言ってのける。これは、「少年のごとく自由に振る舞い、大人のごとく責任を取る」ということではないだろうか。
そして大変重要なこと。この「ソニーのザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」は、日本の「失われた20年/30年」と重なっている。本書は逆風と衰退の時代に生き残った日本のエレクトロニクス事業の事例としても読めるのである。