ビジネスパーソンがオープンソース・ソフトウェア(OSS)を活用して企業競争力を高め、着実に成果を出す――そのために必要な全知識をやさしく伝えるのが新刊『 OSSビジネス活用の教科書 「守り」と「攻め」の実践的オープンソース戦略 』(中村雄一、桑田昌行、渡邊歩、福安徳晃 著、日経BP)だ。本書の意義と読みどころを、パナソニック オートモーティブシステムズ代表取締役副社長執行役員の水山 正重氏が解説する。
現在、製品やサービスを実現するソフトウェアの総量の大半をオープンソース・ソフトウェア(OSS)が占めているといわれている。それゆえOSS活用や企業戦略への織り込みの巧拙が、企業の競争力を左右する重要な要因の一つになっていると言っても過言ではない。しかしながら、日本企業でそれをグローバルに競争力のあるレベルで実行できているのはごく少数にとどまる。そもそも経営層がその重要性の認識自体をリアルには持てていない企業が、評者が知る限りでは支配的なのが現状だ。
本書は、一言で言えば、こういった企業に対して、これ一冊で、基本から始まり包括的でかつリアリスティックな処方を、しかも技術的専門知識のないビジネスパーソンに対しても、やさしく与えてくれる待望の書である。
OSSは、それが持つポテンシャルを――単に無料で使えるソフトウェアとしてだけではなく、世界の開発コミュニティの力の活用や、自らの開発成果の共有を通じた戦略的エコシステムの構築、人財の育成などを含めて――最大限に引き出して活用することで、大きな果実を手にすることができる。だがそこには内部開発にはない種類の不確実性――例えば統制できない他者の関わり――をはじめとする各種のリスクが存在する。日本企業にありがちとされるリスク回避志向が、OSSに対する消極性を助長しているのかもしれない。しかしながらそれでは、リスクを取りリスクをマネージしてより高い経営成果を生み出そうとしている世界の競争相手に対して、はなから勝負にならない。
本書は、まずOSSを「使う」という基本的な段階から、開発に協力して一定の影響力を持つ段階、さらには開発をリードして他者を巻き込み自社戦略の実現に結び付けるより高度な段階まで、さまざまな段階でのガイダンスとなってくれる情報が網羅されている。各段階の活動におけるリスクから、各種ライセンス条件の注意点、製品のソフトウェア部品表SBOM(エスボム)や企業内司令塔組織OSPOなどについての基本知識の解説、より高い段階の取り組みやそれによって得られるベネフィットや取り組み手法の具体的な事例解説、単なる「べき論」にとどまらない、経営層の理解度や開発部門のOSS活動に対する熟練度に応じた打開策や取り組みの優先順位付けまで、非常に実践的でリアリスティックな内容が含まれている。
特定OSS分野のリーディングや戦略的エコシステム構築に十年以上携わってきた評者にとっても、多くの貴重な気付きを得られるものであった。これは、筆者らが、その領域の第一人者としての使命感とビジョンを持って、(社内での抵抗なども含め)さまざまな課題を自らの手によって克服してきたからこそ書けるものであろう。各企業でOSSに取り組む技術者やビジネスパーソンにとっては、それゆえに他では得難い海図であり羅針盤となっている。
