NHKで放映された『プロフェッショナル 仕事の流儀』で大反響を呼んだ「伝説のバンカー」こと大櫃(おおひつ)直人氏の初の著書『 「伝説のバンカー」と呼ばれた男 スタートアップを圧倒的に成長させる仕事術 』が発売されました。ベンチャーキャピタリスト(VC)として、大櫃氏と同様にスタートアップ支援に関わってきた佐藤真希子氏は、本書をどう読んだのでしょうか。「本書に勇気づけられた」という、その思いを語ります。
メガバンクの常識を次々と打ち破ってきた大櫃さんの生き様は、どこか謎に包まれていた。スタートアップ業界の人なら誰もがそう思うはずだ。
大櫃さんは毎日朝から分刻みのスケジュールをこなし、常に現場主義。会議室へギリギリで駆け込んできたかと思えば、冒頭の数分で事業の本質を理解し、的確なアドバイスを与える。時には厳しい指摘もいとわないが、最後は必ず「一緒に頑張りましょうね」とポジティブな言葉をかけてくれる。そしてミーティングが終わると速やかに部下へ指示を出し、次の経営者のもとへ向かうため車に乗って走り去っていくのだ。
本書は、そんな「伝説のバンカー」の生い立ちから泥臭い人間味、破天荒な情熱、どん底を経験した失敗談からプライベートまで、そして日本の未来を創るための覚悟が凝縮された魂の一冊であり、大櫃さんの熱い思いが詰まった内容となっている。
大櫃さんとの出会いは2013年、彼がみずほ銀行渋谷中央支店に着任された頃だった。当時はメガバンクでスタートアップが口座すら作れない時代。そんな中、大櫃さんは「サトマキさんが支援する会社は全力で応援する」と、口座開設や事業の相談に真摯に乗ってくださっていた。
本書に登場するソラコムの玉川さんをご紹介した際もそうだった。創業直後、ソラコムの事業を聞いた私は「すべてのモノが通信を使った分だけ支払えるようになれば、世界が革新的に進化する」と確信した。一方で、通信端末の製造に5億円が必要だと知り、直感的に大櫃さんしか頼れる人はいないと、その場で連絡を入れた。興奮気味に話す私に、大櫃さんは「わかりました。すぐに伺います」と応え、すべてのスケジュールを調整して翌日には訪問し、その場で融資を進めてくださった。あの圧倒的なスピードと行動力、決断力は、私にとって今でも忘れられない思い出だ。
大櫃さんはいつも鋭い眼光で、経営者に対して歯に衣着せぬ指摘をしてこられた。日本一、いや世界一、経営者とリアルに会っているビジネスパーソンは大櫃さん以外にいないのではないか。そう思うほどの徹底した現場主義から得た「気配値」で人の本質を見抜き、時には起業家の慢心に喝を入れ、時には「おせっかいおばちゃん」になりきって必要な人や企業をつなぎまくる。厳しい言葉の根底には、いつも起業家への深い尊敬とあふれるような愛があった。
今回、本書のページをめくって何より胸に刺さったのは、これまで聞いたこともなかった過去の失敗や苦労、そして普段超絶ストイックな大櫃さんのプライベートな一面に触れられたことだ。分刻みで現場を駆け巡るすさまじい原動力の裏側で、妻を「同志」と呼び、夫婦の関係性について語る姿には「伝説のバンカー」だけではない深い人間味が垣間見え、とても納得すると同時に温かい気持ちになった。
ベンチャーキャピタリスト(VC)として20年間スタートアップを支援してきた私は、大櫃さんには遠く及ばないものの、人と人を結びつけることが自分の強みだと思っている。本書を読み、「挑戦者のおせっかいなオカン」として生きたいと願う私自身、大櫃さんから「もっと頑張れ」と背中を押された気がした。
自分の人生をどう切り開くかもがいている多くのビジネスパーソンにとって、勇気づけられ、胸の奥に熱い火が燃え上がるような一冊だ。ぜひ手に取ってほしい。
