2022年11月に開催されたCOP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)では、気候変動のこれまでにない厳しい状況が明らかになりました。しかし各国は依然として化石燃料に依存し、抜本的な対策は進んでいません。この大きく複雑な問題を、市民や企業としてどう理解し、解決していけるのでしょうか。 『THE CARBON ALMANAC (カーボン・アルマナック) 気候変動パーフェクト・ガイド 世界40カ国300人以上が作り上げた資料集』 が説くのは、「まず、事実を知ること」。気候変動についてのあらゆる「ファクト」を網羅した本書を、ベストセラー『人新世の「資本論」』著者の斎藤幸平さんが読み解きます。

 「気候変動が深刻だ。」そのことを新聞やテレビの報道で聞いたことがあっても、どれくらい深刻なのか、深刻だとして何をすべきなのかわからず、そのままになっている人も多いかもしれない。

 たしかに、ネットで検索すると、「気候変動など起きていない」「再エネは不安定」「電気自動車は不便」「グレタ・トゥーンベリは中国の味方」というような否定的な意見がすぐに目につく。すると、自分は騙されているのかと不安になるだろう。

 それに、気候変動は、自然科学だけでなく、経済や農業、安全保障にもかかわる問題だ。どうやってそれぞれの分野で正しい情報を手に入れて、適切な選択をできるというのだろうか。正直に言えば、これは、私だっていつも直面している問題だ。論文は膨大にあり、専門家でも一つの答えがないことはある。

 けれども、全部がそういうわけではもちろんない。世の中には、多くの疑うことのできないファクトが存在する。気候変動は人為的に引き起こされているし、再エネは飛躍的に安くなっている。グレタだけでなく、多くの若者たちが、この問題に本当に怒り、立ち上がっている。

 本書はそうしたファクトを一冊に凝縮したものだ。これは本当に、ありがたい。まずはこの本を読んで、ファクトをしっかりと押さえ、そのうえで、何をなすべきか、一人一人が考え、ともに行動しよう。それが未来を切り開くことになるはずだ。

 とはいえ、この本には「すべての」ファクトが書いてあるわけではない。一つの明らかなファクトが欠けている。つまり、アメリカの本らしく、「資本主義」という言葉は本書では注意深く削られている。だから付け加えよう。考えるべきは、システムと構造の問題であり、資本主義はその中心に据えられなければならないのだ、と。

<評者> 斎藤 幸平(さいとう・こうへい) 東京大学大学院総合文化研究科准教授
1987年生まれ。独ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marx's Ecosocialism(邦訳『大洪水の前に』)で権威あるドイッチャー記念賞を日本人初、歴代最年少で受賞。同書は世界7カ国で翻訳刊行されている。2022年11月『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』刊行、45万部を超えるベストセラー『人新世の「資本論」』で新書大賞2021を受賞。