リアル店舗での買い物におけるモバイル端末の決済において、2009年に創業されたスクエアは、新しい決済方法を提供しようとしました。iPhoneやiPadといったモバイル端末に読み取り機を差し込み、その端末をクレジットカード決済端末に変身させるものです。その業績を『 マンガ ビジネスモデル全史〔新装合本版〕 』(三谷宏治・著/星井博文・シナリオ/飛高翔・画)から抜粋してお届けします。
スクエアはリアル・ショッピングを変える
為替・決済システムのおそらく最後の戦場がモバイルペイメントです。モバイルペイメントには、2つの大舞台があります。1つはスマートフォン等におけるオンライン・ショッピング決済、そしてもう1つがモバイル端末によるリアル・ショッピング決済です。前者は急速に拡大し、すでにオンライン・ショッピング全体の2割以上に達しています。そちらは、クレジットカードやペイパルでOK。問題は、後者です。
ここでもう1人のシリアル・アントレプレナー、ジャック・ドーシー(Jack Dorsey、1976~)が登場します。彼は2006年にツイッターを開発したのに続いて、09年にはスクエアを創業しました。iPhoneやiPadといったモバイル端末に2cm角の読み取り機を差し込み、アプリをダウンロードして銀行口座情報などを入力すれば、その端末は即座にクレジットカード決済端末に変身します。「いつでもどこでも手軽に決済を」という思想の下、スクエアはいかなる店舗でも、もしくは既存の大型店舗内であっても、もっともスマートな決済方法を提供しようとする試みなのです。
以下の3つのメリットを提供する新しい決済手段で、特に売り手にとっては、多くの可能性を秘めた新しい決済手段といえるでしょう。
(2)売り手にはクレジットカード導入や対応の簡素化と、
(3)低額の決済手数料(3%強)と非常に短い入金サイクル(翌日~1週間)
事後審査中心で小規模加盟店を増やした
北米でスクエアが新参ながら勝ち残ったのは、「審査」のあり方を変えて拡大スピードを上げ、かつ店舗向けソリューションとしての「使い勝手」と「安さ」を追求したからに他なりません。スクエアに加盟するための事前審査は、銀行口座や身分証明書情報などと、電話によるいくつかの質問、それだけです。面接も納税証明もいりません。重視しているのは事前でなく「事後審査」です。通常の健全な決済パターンを個別に把握し、それから外れたらすぐ決済を止める方式です。
急激な加盟者の増加が、スクエアを勝ち組に押し上げました。2010年にサービスを開始してからたった3年で、スクエアは北米で420万加盟者、年間150億ドル以上を取り扱うプレイヤーとなりました。アメリカのスターバックス全店でも導入済みです。しかし競争は熾烈です。各社が誇る、どのポジショニングやケイパビリティが決め手となって、生き残りの1~2社が決まるのでしょうか。
さて、合計5回の本連載では、為替・決済における「ビジネスモデル変革の歴史」を取り上げました。メディチ家の国際公金為替ネットワーク、アメックスらのトラベラーズ・チェック、VISAの汎用クレジットカード、ペイパルの個人間マイクロペイメント、そしてスクエアのモバイル端末決済。これらは一企業の戦略に留まらない、大きなビジネスモデルのイノベーションでした。
シナリオ/星井博文 画/飛高翔 編集協力/トレンド・プロ
シリーズ累計33万部のベストセラー『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』シリーズの新装マンガ版が発売! 14世紀イタリア・メディチ家から21世紀のテック企業まで世界の歴史を変えたビジネスモデルを一気読み。
三谷宏治・著/星井博文・シナリオ/飛高翔・画/日本経済新聞出版/2090円(税込み)