「哲学や思想について、本を読みながら考えることが多い」と言う食べチョク代表の秋元里奈さん。なぜ今、哲学や思想の本に引かれるのか。秋元さんの人生観を変えた2冊を紹介してもらった。

 少し前は、歴史関連の本にハマっていたのですが、最近は、思想や哲学について書かれている本をよく読んでいます。

『人生の短さについて』 (ルキウス・アンナエウス・セネカ著、光文社古典新訳文庫)は、古代ローマのストア派哲学者による作品で、タイトルの通り、人生がいかに短いかということについて語られています。

「グサッときた」…そんな、思想の本です。
「グサッときた」…そんな、思想の本です。
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 以前からタイトルは知っていたのですが、数カ月前、出張で移動中の機内で、ちょっと時間ができたときに読んでみたら、強く影響を受けたんです。

 ざっくり言うと、かなりストレート。真理をついている。読んでいるとグサっとくる。

この本を読んで、私自身、考え方が変わりましたね。
この本を読んで、私自身、考え方が変わりましたね。
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 まず、印象的だったのは、「人生を短く感じるのは、時間を無駄にしているからだ」という指摘です。

 この2年間、事業が成長するとともに、私自身とても忙しくなり、特に2021年はあっという間の1年でした。もちろん仕事には一生懸命向き合っていますし、決して怠惰に過ごしているわけではないのですが、今の生活に全く無駄がないかというと、そんなことはない。「事業は成長したのに私は何も変わっていないのかもしれない…」そんなふうに考えさせられました。

 例えば、時間が限られているのに、メールの通知が来るたびにチェックしてしまったり、就寝時間が不規則だったり。

 自分の人生の時間を改めて考えてみると、使い方に改善の余地があると自覚していたんです。「お金は奪われるのを嫌がるのに、時間は喜んで差し出す」という一文は、まさに自分のことだなと痛感しましたね。

 もちろん人に差し出す時間の中にはポジティブなものもあります。

創業時のほうがストレスは少なかった

 でも、私は結構、人の目を気にしたり、人に合わせてしまったりするところがあるので、もしかしたら渡さなくてもいい時間まで差し出していたのかもしれない。そう気づけたのは、この本を読んだことの大きな収穫でした。

 また、「多大な苦労をして得たものを保持するためにさらに多大な苦労をしなければならない。絶大な幸せはどんなものでも不安に満ちている」。このフレーズも非常に心に響きました。

 私は常々、「夢中になることが最強だ」と発信していますし、今も夢中になって取り組んでいます。でも、積み上げてきたものに対して「これは苦労して築き上げた」と認識した瞬間から、それらを維持するためには更に苦労が必要になり苦しくなってしまうんだなと、解釈しています。

 現時点では事業にとても楽しく取り組めているけれど、守らなくてはいけないものが増えたという意味では、創業時のほうがずっとストレスは少なかったと思います。もちろん守らなくてはいけないものが増えたことによるやりがいや楽しさもたくさんあるので、状況に応じて自信を見つめ直して、適切にストレスマネジメントをすることが重要です。

精神論を学びたくなった理由

 そもそも経営って、とても達成感を味わいにくいものだと実感しています。

 たとえ今月の目標が達成できたとしても、すぐにリセットされて、次の目標が生まれる。そこから先は新しい目標達成への道がどんどん険しくなっていきますし、常に課題が現れて対処していく、終わりがない。

 その変化に対応して、会社を健全な精神で維持していくためには、自分自身のマインドをもっとうまくコントロールできるほうがいいだろうし、いかに幸福感を得られるかを意識する必要がある。「精神論をきっちり学ぼう」と思ったのはそんな経緯からです。

「自分のマインドの状態を客観的に見る視点を得られる。そんな言葉が詰まっています」
「自分のマインドの状態を客観的に見る視点を得られる。そんな言葉が詰まっています」
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 ただ、2000年も前に書かれた本ですから、全部が全部、納得できるわけではありません。「この時代や境遇だから言えることであって、現代だとどうだろう?」と理想と現実を行ったり来たりしながら読んでいます。

ホラン千秋さんが薦めてくれた絵本

 今は、意思決定の精度を上げるために、知識の幅と深さを見直す時期。組織づくりならノウハウを熟知しているスペシャリストに教えてもらうこともできるけれど、思想は自分で身に付けなくてはいけないものだと思っています。

 自分の気持ちや考え方を他者やメンバーに100%理解してもらうのは難しい。だからこそ、自分で言語化できる教養を身に付けたいと思うんです。

 もう一冊の 『ぼく モグラ キツネ 馬』 (チャーリー・マッケジー著、川村元気訳、飛鳥新社)は、少年とモグラ、キツネ、馬の冒険と心の交流を描いた絵本です。

テレビでも紹介され大反響となった絵本
テレビでも紹介され大反響となった絵本
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 絵本は読む習慣があまりなかったのですが、テレビでご一緒しているホラン千秋さんにおすすめしてもらって読んでみたらとても気に入りました。

「一番の時間の無駄は自分と誰かを比べること」など、文章一つ一つは短いのですが、とても考えさせられます。人生訓や古典的なエッセンスが詰まっていて、ちょっともやもやしているときにパラパラとめくってみると、何かしら引き付けられる部分があるように思います。

『人生の短さについて』はちょっと肩に力を入れて読む感覚がありますが(何せ、がつんとくるので笑)、『ぼく モグラ キツネ 馬』はもう少し気楽に読めます。「そういえば、あのフレーズ、どのページに書いてあっただろう?」と振り返りやすいのも絵本ならでは。

「絵を見ているだけでも楽しめる。フレーズが印象に残りやすいのもいいですね」
「絵を見ているだけでも楽しめる。フレーズが印象に残りやすいのもいいですね」
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 これまであまり絵本は手に取ってこなかったのですが、大人だからこそぐっとくる描写が、この絵本の魅力なのかもしれません。

取材・文/真貝友香 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部) 写真/品田裕美