2025年2月13日、グロービス経営大学院とフライヤーが共催する「読者が選ぶビジネス書グランプリ2025」の受賞作が発表されました。一般読者からのウェブ投票により、総合グランプリと6つの部門賞、特別賞2点が選ばれました。各受賞作についてフライヤー代表取締役CEOの大賀康史さんに聞きました。前編では総合グランプリと特別賞2点を紹介しましたが、今回の後編では、イノベーション部門賞、経済・マネー部門賞、自己啓発部門賞、リベラルアーツ部門賞、ビジネス実務部門賞を受賞した本を紹介します。また、2025年のビジネス書のトレンドも予想しました。

「読者が選ぶビジネス書グランプリ2025」の受賞作一覧。今回はイノベーション部門賞、経済・マネー部門賞、自己啓発部門賞、リベラルアーツ部門賞、ビジネス実務部門賞を受賞した本を紹介
「読者が選ぶビジネス書グランプリ2025」の受賞作一覧。今回はイノベーション部門賞、経済・マネー部門賞、自己啓発部門賞、リベラルアーツ部門賞、ビジネス実務部門賞を受賞した本を紹介
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 前回は「ビジネス書グランプリ2025」の総合グランプリ/マネジメント部門賞、特別賞についてお話ししました。今回はイノベーション部門賞、経済・マネー部門賞、自己啓発部門賞、リベラルアーツ部門賞、ビジネス実務部門賞の各賞について紹介します。

イノベーション部門賞『 イシューからはじめよ[改訂版] 知的生産の「シンプルな本質」 』(安宅和人著/英治出版)

イノベーション部門賞『イシューからはじめよ[改訂版]』の著者、安宅和人さん。画像クリックでAmazonページへ
イノベーション部門賞『イシューからはじめよ[改訂版]』の著者、安宅和人さん。画像クリックでAmazonページへ

 まず、イノベーション部門賞は『イシューからはじめよ[改訂版]』です。2010年の第1版から読まれ続けてきた本ですが、改訂版となって内容がさらにパワーアップしました。印象的なのは、安宅さんご自身が授賞式でおっしゃっていたことですが、この本は「日本の根性論を駆逐する」ものであるということ。もちろん、汗水たらして頑張るのはいいことなのですが、世の中を大きく変えるように牽引(けんいん)するには「何をイシューとして捉え」「いかにしっかり向き合うか」が大事です。

 また、今やAI(人工知能)と連携すれば解決策が見つかる世の中です。今まで以上に「何をイシューとして捉えるか」が重要で、「もはやイシューを捉えることぐらいしか人間はすることはない」とも安宅さんはおっしゃっていました。そう考えると2024年にこの本の改訂版が出たことに大きな意味があると感じます。

経済・マネー部門賞『 となりの億万長者が17時になったらやっていること 大富豪が教える「一生困らない」お金のしくみ 』(嶋村吉洋著/PHP研究所)

経済・マネー部門賞『となりの億万長者が17時になったらやっていること』の担当編集者、PHP研究所の大隅元さん。画像クリックでAmazonページへ
経済・マネー部門賞『となりの億万長者が17時になったらやっていること』の担当編集者、PHP研究所の大隅元さん。画像クリックでAmazonページへ

 この本はタイトルが秀逸ですよね。確かに「何をやっているんだろう?」と気になります。

 その答えは特別な投資法などではなく、仲間やコミュニティにあります。何か新しい事業を始める際に必要となるのは、自分や自分のサービスを応援してくれる仲間です。そうした周囲の人々から信頼を得ることで、一つ一つの新しいチャレンジの成功率が飛躍的に高まります。本の中では「子犬作戦」と表現されていますが、子犬のように人なつっこく周囲と信頼関係を築き、連携をとることで豊かになれるのです。

 また、「17時になったら」とタイトルにあるように、新しいことを始めるには最初から没入するのではなく、17時以降にできる範囲で仲間づくりを着実に進めるのがポイントです。リスクを取れる人でなくては成功できないというわけではなく、一般的な感覚を持つ人にも役立つ内容だと思います。

自己啓発部門賞『 あっという間に人は死ぬから 「時間を食べつくすモンスター」の正体と倒し方 』(佐藤舞[サトマイ]著/KADOKAWA)

自己啓発部門賞『あっという間に人は死ぬから』の著者、佐藤舞さん。画像クリックでAmazonページへ
自己啓発部門賞『あっという間に人は死ぬから』の著者、佐藤舞さん。画像クリックでAmazonページへ

 こちらはタイトルから時間術の本かと思いますが、そうではありません。人は不安から逃れるために無駄なことをしてしまいます。例えば、ひとときの安心を得るためにスマホをいじってしまう。著者でデータ活用コンサルタントの佐藤さんはそうしているうちに「あっという間に人は死ぬから」、まずは「そうした代替の行動を認識しよう」と言っています。

 また、人間には向き合わなくてはいけない3つの問題があります。それは「死」「孤独」「責任」。誰もが逃げたくなり、その結果として無為な行動をしてしまうけれども、自分の価値観にそってしっかり歩んでいくことが大事です。「この本を読んで会社を辞めた」という感想も寄せられているという1冊です。

リベラルアーツ部門賞『 なぜ働いていると本が読めなくなるのか 』(三宅香帆著/集英社新書)

リベラルアーツ部門賞『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の担当編集者、集英社の吉田隆之介さん
リベラルアーツ部門賞『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の担当編集者、集英社の吉田隆之介さん

 リベラルアーツ部門賞は2024年に大変な話題を呼んだ『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』。この本では明治時代から現代に至るまでのヒット作、エリート層や一般層がどのような本を読んでいたかに触れ、日本人と読書の歴史をひもといています。そして、しっかり読書や趣味の時間を取るためには全身全霊ではなく、「半身」で働くことが必要だとも説いています。

 この本がベストセラーになっているのは、「昔はあんなに本を読んでいたのに読めなくなった」という本好きに支持されているのだと思います。とにかくタイパ(タイムパフォーマンス)重視で隙間時間を活用しようという現代で、じっくり時間をかけて読書をすることへの郷愁もあるのかもしれません。私もとても楽しく読めました。

ビジネス実務部門賞『 いつも幸せな人は、2時間の使い方の天才 』(今井孝著/すばる舎)

ビジネス実務部門賞『いつも幸せな人は、2時間の使い方の天才』の著者、今井孝さん。画像クリックでAmazonページへ
ビジネス実務部門賞『いつも幸せな人は、2時間の使い方の天才』の著者、今井孝さん。画像クリックでAmazonページへ

 こちらはまさにタイトル通りの内容ですが、経営コンサルタントの今井孝さんが、時間術ではなく「過ごし方」に重点を置いて解説しています。私たちは幸せな人、充実した人生というのは「24時間、満たされ続けている」と思いがちです。しかし、この本を読むと、1日の中で2時間の幸せな時間を過ごせれば幸福度が上がると分かります。映画を見たり、スポーツをしたり、自分が好きなこと、満たされることに対して時間を取ることが幸せには必要なのです。

 そのためには「『やらなくてもいいこと』をやめて、素敵な時間を増やす」「『何が自分を満たしてくれるのか』を知る」といったヒントが示されています。現代人にとって、キャリアは向き合わなくてはいけないものですが、幸せとも向き合う必要があります。個人の幸せを追求するという意味で、やはり今年らしい受賞作だと思います。

2025年のビジネス書のトレンドは?

 では、2025年のビジネス書のトレンドはどうなるのか少し考えてみました。2024年が難しい1年でしたので「さらに難しい」というのが正直なところです。ただ、2024年の動きの延長として、これまでの世界に対する揺り戻しが起きると思います。アメリカのトランプ大統領の再選、極右政党が躍進したドイツの総選挙など、そうした兆しが見られます。ポピュリズムや社会の分断に関する本が注目されるかもしれません。

 また2025年はAIエージェント元年と言われていますので、テクノロジー関連の本も出てくるでしょう。AIがあっという間にリサーチ業務をこなしてしまうとなると、理想とする働き方や組織論にも変化が見られるかもしれません。

 全体的に何かこれまでの価値観を疑うような、根底から見直すような本が登場するかもしれませんね。

取材・文/三浦香代子