新しいサービスやイノベーションは失敗から生まれる――。創業から11年、1400万ユーザーを抱え、フィンテックで大きな存在感を持つマネーフォワードも、数々の失敗や困難を経験した。意気揚々と開発した新サービスは関係者しかユーザーがつかない、接続していたサービスから接続拒否される、大規模停電でユーザーの一部データが消えそうになるといった危機もあった。だが、胃がキリキリと痛み、眠れない日々を乗り越え、ユーザーに向き合ったから、大きく成長できた。マネーフォワードの辻庸介CEOが体験した失敗の数々を記した著書『 失敗を語ろう。「わからないことだらけ」を突き進んだ僕らが学んだこと 』から一部抜粋・再編集して掲載する。今回は、失敗に直面したときのリーダーのあり方について。

 僕は社長らしい社長じゃない。皆の上に立って、強い言葉で号令をかけ、パワーで引っ張れるタイプでもない。

 そんな何者でもない弱い僕でも、「お金の課題を解決したい」という思いを持って起業し、これまでになかったプロダクトを生み出してきた。その過程で僕らは、スタートアップを立ち上げ、時につまずき、転び、会社がつぶれるんじゃないかという失敗を数多く経験した。

 サービスが接続先からBAN(接続拒否)されたり、データセンター一帯の大停電で大事なユーザー(お客様)のデータが吹っ飛びそうになったり、共に社会を変えていく仲間だと思っていた競合スタートアップに訴えられたり、60人の社員を迎えて立ち上げようとしたサービスは参入を無期限の延期にせざるを得なかったり、改善のつもりでリニューアルしたサービスをたった1日で撤回したりもした。

社長発案のプロダクトで早々に撤退

 事業開発に関して、僕たちの典型的な失敗例を話しておこう。どちらも社長の僕が発案して始めた新サービス「Money Ask」と「mirai talk」の失敗経験だ。

 「『マネーフォワード ME』のユーザーが、お金についての悩みを、いつでもチャットで相談できるサービスがあったらいいんじゃないか?」

 Money Askはそんな発案から始まった。いかにも良さそうではないだろうか。ユーザーのニーズは大きいし、うまくいくのでは? と僕も期待していた。

 サービスリリースとともに、ファイナンシャルプランナー(FP)の方々にオフィスまで来てもらい、ユーザーから寄せられるチャットによる相談に答えてもらう体制を整えた。

 しかし、実際にやってみると、ニーズとのズレが徐々にあらわになったのだ。そもそも、お金の相談は簡単に言語化できるものではない。

 「どこか痛いところはないですか?」
 「肩こりがひどいです」

 そんなふうに身体症状を問診するのと違って、お金の悩みは表面には見えづらく、問題も非常に複雑だ。本当の悩みは何なのかを自分自身もきちんと分かっていないことも多く、人に説明するのはなおさら難しい。丁寧にヒアリングするコミュニケーションを要するのに、チャットという形式では不十分だった。

 僕らはいつも、「プロダクトマーケットフィットに到達できるかどうか」を考えている。いわゆる「PMF」と呼ばれるものだが、「顧客を満足させる最適なプロダクトを、最適な市場に提供している状態」を意味する。プロダクト開発は、ユーザーのペイン(課題・痛み)の発見から始まる。そのペインを解消できる価値を提供したいという思いがなければ、ユーザーに届くサービスにはならない。

 ところが僕らがつくったサービスは、見事なまでにPMFに到達しなかった。ということで撤退。しかし、この話にはまだ続きがある。

リベンジのつもりが、マネタイズできずに断念

 諦めの悪い僕は、「チャットがダメなら、対面形式で徹底的に相談に乗る方法でやってみよう」と方向転換。次なる店舗型サービス「mirai talk」を始めた。「マネーフォワード ME」でお金の現状把握が簡単にできるようになったユーザーに、次はお金の改善ができるソリューションを、何としても提供したかった。

 Money Askの反省から、今度は丁寧なコミュニケーションにこだわった。「お金のライザップ」と銘打って、ユーザーの悩みにとことん向き合うカウンセリングを提供した。東京・新宿にオープンした店舗に経験豊富なFPが常駐し、ユーザーの相談を受ける。深刻なお金の悩みには、借金や離婚など人生の深い問題が絡むことも少なくなかった。

 誰にも言えなかった悩みを打ち明けながらお金の不安を解消していけるサービスに、涙を流して喜んでくれるユーザーもいて、顧客満足度は社内史上最高のスコアに。半年で30万円ほどという高価格のサービスであるにもかかわらず、高い支持が実現した。

 今回は、PMFは完全にクリアできたと言っていいだろう。

 だがこのサービスは、次なる壁、マネタイズでつまずいた。質の高い人材を確保するための人件費や店舗運営の維持費がかさみ、ビジネスとして継続するのが難しいという最終判断になったのだ。

 相談者に対して、高い手数料がもらえる金融商品を売って手数料を取るような稼ぎ方をすれば簡単だったのかもしれないが、僕たちの美学として、それはしたくなかった。ユーザーにとってあまり好ましくない特定の商品を売ることがゴールになると、ユーザーサイドに立つことはできないと判断したためだ。

 愛用してくれているユーザーも定着しかけたところでのクローズは非常に悔しかったが、仕方のない決断だった。社員にも「申し訳ない」と謝った。

謝る勇気、やめる勇気が次につながる

 僕は当初、謝ることが怖かった。経営者としての未熟さを、組織の内側に露呈するのが怖かった。「情けない社長だ」と言われるんじゃないかと、不安だった。

 特に創業して数年の間は、過剰に強がろうとしていた。もともと失敗は恐れないタイプだったけれど、僕を信じて転職してくれた社員たちを思うと、情けない社長になってはいけないと構えてしまっていた。

 けれど今は少し考えが変わった。まだ結果が出ていない時期であっても、間違ったら正直に謝るほうがいい。

 なぜなら仲間たちも、うすうす気づいているはずだから。「きっと難しいだろうな」「社長はいつ判断するのかな」と、口には出さなくても、“やめる勇気”の発動を予感している。やめるという判断は、本当に難しい。今まで頑張ってくれた仲間たちの努力、ユーザーからの期待を考えると、やめるという判断は先延ばししたくなる。

 だからこそリーダーが、「やめよう」という判断をし、みんなに自分の意思決定の未熟さを、経営者としての未熟さを謝らなければならない。そしていざ、その勇気が発動されたときに、「ごめんなさい」と言えるかどうか。それによって、その後の信頼関係や心の距離は変わってくるように思う。

 いいときも悪いときも正直であることが大事なのだ。

辻庸介氏(写真:竹井俊晴)
辻庸介氏(写真:竹井俊晴)

日経ビジネス電子版 2021年6月25日付の記事を転載]

多くの危機を乗り越えてきた起業家からのアドバイス

 誰も使ってくれないプロダクト、接続先からのアクセス拒否、訴訟や規制との摩擦、サービス全停止の危機、仲間とのすれ違い、ユーザーからの大反発……胃がキリキリする“黒歴史”が、起業家をタフに変え、強いチームと成功を生み出しました。本書では、マネーフォワードCEOの辻庸介さんが、スタートアップから今に至るまでのマネーフォワードの試行錯誤を、「本当に、ここまで書いていいんですか?」というところまで語ります。課題解決に向けた必死の取り組み、困難を経て生まれる組織としての一体感、そして失敗にひもづいた多くの学びは、起業したい人はもちろん、日々の仕事や生活で困難や課題に直面している方のヒントとなるはずです。