仕事をやりきる力がある人とそうでない人の違いは、「自責思考」があるかどうか。他人任せにせずに自分が「ラストマン」であると捉え、最善を尽くすことが重要です。望ましくない状況に陥ったときに、「他責」に逃げない姿勢を持つ方法について解説します。書籍『 6スキル トップコンサルタントの新時代の思考法 』(佐渡誠、鈴木拓著/日本経済新聞出版)から抜粋。

「自責思考」を発揮できない人の思考回路

 仕事をやりきる力がある人とそうでない人の違いは、ひとえに「自責思考」があるか、あるいは望ましくない状況に陥ったときに「他責」に逃げない姿勢を持っているかどうかが大きく影響していると考えています。

 特に、途中で諦めて「まあこれでいいか」というように考えてしまうのは、「どうせプロジェクトの責任はマネージャーや上司にあるんだ」「自分が担当している仕事の責任範囲はここまでだからこれくらいでいいよね」という自己納得的な発想にあります。よくいわれる「当事者意識やオーナーシップを持つ」という話と同じようなものに聞こえるかもしれませんが、「当事者意識を持つ」とはつまり「自責思考」を発揮することだと筆者は考えています。

 それでは「自責思考」を発揮するとはどのようなことを指すのか、見てみたいと思います。まずは「自責思考」を発揮できない「傍観者効果」を生んでしまう2つのポイントとその発言例から考えてみましょう。

(1)どうせ誰かがやってくれるだろう(責任の分散)
「今回の新規事業が失敗したのは事前の調査不足が原因だ。自分は上司に言われた通りに調べてみただけだから、それをうまく戦略や計画に取り入れられなかった上司の責任だな」

(2)みんながやらないなら自分もやらなくていい(多元的無知)
「このままプロジェクトを進めていくと遅延リスクがあるな。だけど自分はプロジェクト管理者ではないし、誰も何も言わないし、どちらにしろプロジェクト管理者の責任だから誰かが気づくまでは自分のことをやっておこう。……結局遅延が起きたか。対応作業に追われてもともとの自分の仕事もままならないなあ、まったく」

自責思考に基づく自分自身への問いかけ

 それでは次に、これらの意見をどのようにすれば「自責思考」に変えられるのかを見てみたいと思います。前述の意見に対する自分自身の心の声で問いかけてみます。

(1)どうせ誰かがやってくれるだろう(責任の分散)
 「確かにプロジェクトの全体責任は上司にあるけど、調査タスクを任されていたのは自分だよな。調査して表面上はファクトやポイントを伝えてはいたけど、もっと踏み込んで今回の新規事業に影響のありそうな示唆や発見を伝えられれば、この新規事業の成功率はもっと高まったんじゃないかな。なぜ失敗したかを振り返りながら自分の調査の仕方や見るべき情報の深さを見直した方がいいな」

(2)みんながやらないなら自分もやらなくてよい(多元的無知)
 「チームメンバーが気づかないことにこそ価値があるのだとすると、気づいた時点でチームに発信すべきだった。仮に自分が言ったせいでチームの仕事が増えてしまったとしても、後から追加作業が発生するよりも正しい姿だと思うな。プロジェクトが遅延してプロジェクト全体の評価が下がるのは避けるべきことだし、皆が気づかないことを自分がいち早く気づけたことは自分の自信にもなるな」

 これらの具体例から分かることは、チームや上司の期待を正しく理解して与えられたタスクを確実に遂行することは仕事をする上で最低限のことですが、「言われたこと“だけ”をやる」という姿勢では、本当の意味で自身の成長やより良い正解に近づくケースは少ないということです。「あとはマネージャーの言うことをそのまま取り入れるようにしよう」「前回もこれくらいの出来で大丈夫だったから今回も同じような感じでいいか」という意識では、いつまでたっても視座が上がらない「作業者」状態という状況を招きかねません。

「言われたこと“だけ”をやる」という姿勢では、本当の意味で自身の成長やより良い正解に近づくケースは少ない(写真/Shutterstock)
「言われたこと“だけ”をやる」という姿勢では、本当の意味で自身の成長やより良い正解に近づくケースは少ない(写真/Shutterstock)
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 「自責思考」に基づくこうした自分自身への問いかけを行うことで、「自分ならどう考えるか」「自分ならどう行動するか」という主体的な問題に置き換わり、自ら考える機会を与え、上司から言われたことに留まらない思考の幅や視座を高めることにつながります。組織・仕組みに対して、ただ愚痴を言っていたことや諦めていたことも解決できるきっかけになるのです。

 こうした「自責思考」を繰り返すことで、自分がチームを推進するドライバーになることができますし、自分がチームを率いることになった際に持つべき責任感や姿勢において、大きなギャップを感じることなくスムーズに移行することができます。

自分が「ラストマン」という意識を持つ

 これらの考え方について、元日立製作所代表執行役会長の川村隆氏は「ラストマン」という言葉を使っていますが、「自分がこの仕事のラストマン、つまり自分がこの仕事の責任を取るのだと思って仕事に臨む」という姿勢・意識を持つことの重要性を説いています。自分がこの仕事の責任者だと思い込んでみると、前述のような人任せの態度や自分の周りで起きた出来事を放っておいてしまうということをせず、何か自分に起こせるアクションはないかと自分で考えて行動ができるようになるということです。

 一方で「自責思考」には注意も必要で、「自責」にとらわれすぎてしまい、自分を追い込んでしまうというケースも存在します。これは責任感や周囲からの期待に応えようとする気持ちが強いあまり、「自分がやらねば」という強迫観念から来ることが多いと思います。

 「自責思考」を正しく発揮するためには、「最初から最後まで自分一人だけでやり抜く」ということではなく、「ゴールに向けて自分は今何をすべきか」「言われていること以外にも自分に何か考えられることや起こせるアクションはないか」という問いかけを習慣化することが重要です。

 そのアクションの中には、当然周りの人を頼るというオプションもあってしかるべきです。また、「できない自分を責め立てる」のではなく、「どうすればより良い方向に転ばせることができるか」という改善・改良の方向に思考を向けることも重要です。少しずつでも目の前の仕事をこなせるようになってきたら、今の自分のレベルに安住せず、仕事の視野を広げたり、視座を高めたりするための「自責思考」を取り入れながら、仕事に臨む姿勢をアップデートしていけるとよいと思います。

多くのビジネスプロッフェショナルを育ててきたトップコンサルタントが、新時代のプロフェッショナルスキルを伝授。なぜ価値創造ができなくなっているか、どのようにすれば新しい価値を生み出すことができるのかを解説します。

佐渡誠、鈴木拓著/日本経済新聞出版/1760円(税込み)