パーパスやバリュー、ミッションなどが話題となり、企業も個人も、社会にとってどのような存在であるかが問われている。それらのベースとなるのが「価値観」である。今、なぜグローバルで「価値観」が注目されているのか、外資系企業の人事部長として活躍した梅森浩一氏の著書『 「絶対」価値観。 人事のプロが教える「自分の軸」の見つけ方と使い方 』(日本経済新聞出版)より見ていきたい。
「価値観」について語る米国の著名人
私はこれまでのキャリアのほぼすべてを、欧米の大手多国籍企業の日本法人における人事部門に、そしてその多くは責任者の立場として身を置いてきました。
仕事上の役割でもあったのですが、自然と欧米の、とりわけ米国の人事関連の資料や情報に接する機会が頻繁にありました。
すると、必ずといっていいぐらい米国の著名人が、いわゆる「価値観」について言及していることに気がついたのです。
例えば、つい最近まで在籍していたある大手の米系金融機関では、あるレベル以上の世界中の人事責任者に向けて、CEO並びにCHO(いわゆる頭取と人事部のヘッドとなります)からとある本が送られてきたものです。
「これを読みなさい」と私宛に送られてきたその本は、原題を “Take Charge of You” (Ideapress Publishing, 2022)といい、自分の人生とキャリアをうまく発展させるための、いわゆるセルフ・コーチング関連の本でした。
その本には、共著者としてデヴィッド・ノヴァクさん、ジェイソン・ゴールドスミスさんというお2人のお名前が記されています。
ちなみにノヴァクさんは、ハーバード・ビジネス・レビュー誌で“100 Best Performing CEO in the world”に、さらにフォーチュン誌でも“Top People in Business”に選ばれた著名な経営者です。一方のゴールドスミスさんも、数々のオリンピック選手のコーチングをつとめてきた方です。
それらの実績もあったからでしょう、勤務先の頭取と人事部長から「ためになるからこれを読め」と、わざわざ日本にいる私宛てに本が送られてきたのです。
そんな同書において特筆すべきは、著者たちも35の価値観ワードを列挙して、「この中から最も自分にとって大事な価値観ワードをピックアップしなさい」と述べていた点です。
また、『 スタンフォードのストレスを力に変える教科書 』(神崎朗子訳/だいわ文庫)という邦題タイトルのついた、同大学の心理学者であるケリー・マクゴニガルさんの著作の中でも、価値観について同様の記述があります。
このように、米国では「価値観」についてさまざまな研究がなされ、紹介され続けて今日に至っているのです。
元ハーバード大学教授の「氷山モデル」
みなさんは「氷山モデル」(The Iceberg Model)なるものを目にしたことがありますか?
米国の心理学者であるデビッド・マクレランドさん(元ハーバード大学教授)による概念図です。
それは、海面にぽっかりと浮かぶ氷山の先端部分と、その何倍もの大きさで海面下に沈む目に見えない大きな部分とを対比させたイラストを使って説明されています。
マクレランドさんは、海面に突き出た部分には顕在化した知識やスキル、さらには態度といった概念をあてています。
他方、それらの下の部分には、私たちが持つ潜在的な価値観や動機といった概念を配置しています。顕在しているものといまだ潜在下にあるものとをわかりやすく整理し、かつその存在をアピールしています。
価値観を「見える化」するメリットとは
ちなみにこのマクレランドさん、人事の世界ではよく使われるコンピテンシー、日本語で「行動特性」と呼んでいる理論を提唱されたことでも有名です。
氷山モデルを上手に使って、人が何かをする時は普段それほど意識にのぼってこない(顕在化していない)「価値観」や「動機」などが私たちの行動に影響している、と主張したのです。
まるで海中にあるかのごとく、目にすることはできないものの、自分の心の中には確かに存在している「価値観」を、ハッキリと認識(見える化)することができたとしたら、どんなに役に立つことでしょうか。
それは個人にとっては、自分の能力や適性にあった職業・職種選択を、より具体的にできることを意味します。
一方の企業にとっても、自社の求める職種や役割の持つ価値観に対して、より一層適した人材を的確に、ミスマッチを少なく採用できるメリットが生まれます。
そんなお互いにとってメリットがある採用技法というものが、もし本当にあるとするならば、それをみすみす使わない手はありません。
それがマクレランドさんの提唱した「コンピテンシー理論」をベースにした、面接・採用技法なのです。そしてそれは、すでに新卒・中途を問わず採用において活用されており、社内での幹部社員の役員登用などにも広く使われています。
そこには、あなたの潜在的な価値観が、大事な要素として占めていることを覚えておいて下さい。
前述のとおり、マクレランドさんは普段特に意識していない価値観や動機、役割・使命感といったもの(すなわち潜在的なものです)こそが、仕事ができる社員の持つ「行動特性」に大いに影響している、と主張しているのです。
だとすると、いまだ曖昧なままでハッキリと認識されていないあなたの「価値観」を、この機会にキチンと顕在化、つまり「見える化」することが、目先の就活のみならず、その先の社会人生活において、どれだけそのメリットが大きいか、もうおわかりになられたと思います。
そしてそのことこそが、あなたにとって大切な自分の価値観、すなわち「絶対価値観」を見える化する最大のメリットであり、目的なのです。
梅森浩一著/日本経済新聞出版/1760円(税込)