2026年3月30日、XでGrokを用いた投稿の自動翻訳機能がスタートしました。海外のユーザーと気軽に交流できるようになった一方で、悪意ゼロでも炎上するリスクが増えたとも捉えられます。異なる国や文化のユーザーとコミュニケーションを取る際に気をつけておきたいこととは。「衝突とすれ違い」をテーマにした『 話が長いエンジニア、答えを急ぐ営業 すれ違いを武器に変える「仲介思考」の育て方 』(日経BP)の著者である水谷享平氏に話を伺いました。
言語の壁を越えた時代が始まる
Xの翻訳機能については、非常に面白いなと感じています。まだリリースされて間もない段階ですが、早速ユーザー同士で交流が始まっていますね。
「これが新たな衝突の火種に」と心配される方もいるかもしれませんが、Googleも「ライブ翻訳」でイヤフォン経由での同時通訳が可能になりましたし、YouTubeのクリエイター向けの機能としてチャット欄の自動翻訳も始まっています。今回のXの新機能があってもなくても、間違いなくリアルタイムで翻訳される世界へと進んでいます。
これまで、言語の壁によって分かり合えない部分はたくさんあったと思います。そういう意味では、この翻訳機能は、世の中を変えるきっかけになるかもしれないと私はポジティブに受け止めています。

お互いに解像度が極めて低いことを自覚する
私はGoogleにいたとき「テクニカルアカウントマネージャー」というポジションで、日本の営業と海外のエンジニアを仲介する役割でした。そこで海外の方とのすれ違いをたくさん見てきましたが、注意しておきたい部分もあります。
それは「アメリカ人」のように、相手を国籍でグルーピングして見ないようにすることです。当たり前ですが、相手は一人の人間であり、考え方や感じ方もさまざまです。相手の国や文化に対する解像度が低いと、つい国籍でラベルを付けてしまいがちですが、誰かが何かに対して発言したことは、その人個人の考えであって、その国の人の総意ではありません。
異なる国や文化のユーザーとコミュニケーションを取る際、まずは「お互いに、解像度が極めて低い」状態であることを自覚しておきましょう。特に、Xの「おすすめ」に突然現れる投稿は、思考の背景や立場などの前提がほぼゼロの状態です。発信側に悪意がなくても、国や人によっては許されないようなタブーに触れてしまうことがあるかもしれません。例えば、日本で災害による被害をジョークとして扱われるとたいていの人はいい気はしないでしょう。逆に、顔を黒く塗るという行為が海外では許されないこともあります。そういう意味で、自分が気軽に投稿した内容が「簡単に事故ってしまう」というリスクもあるのです。
また、やり取りのなかで違和感を抱いたときは、反射的に否定や批判をするのではなく、「それは日本人の私からすると不快なんだ」と冷静に伝えることで、相手が単純に「知らなかった」と理解を示してくれることもあります。お互いに対等な関係で伝え合うことで理解を深められるのが理想的ですよね。
大事なのは、「相手も自分も、とにかく解像度が低いのだ」と認識しておくこと。私が今日Xを見ている限りでも、半分冗談のように「日本人って忍者なんでしょ?」というやり取りがされています。そのレベルを前提としていると思うと、何か不快な思いをしても、冷静に対応できるのではないでしょうか。
アウトプットではなく、背景のコンテクストを伝えるのに翻訳を使う
私が『 話が長いエンジニア、答えを急ぐ営業 すれ違いを武器に変える「仲介思考」の育て方 』でエンジニアと営業の対立について書いたこととも共通しますが、どんなシチュエーションでも、どんな相手でも、コミュニケーションの基本は「謙虚さ」と「尊重」です。文化とは、まさにその人をつくるコンテクストの固まりです。自分と違うコンテクストを持っている人への尊重を忘れずにいたいですよね。
即時に自動翻訳された文章では、細かいニュアンスや遠回しな表現はうまく伝わりません。翻訳されたアウトプット同士をぶつけるのではなく、その「背景やコンテクストを伝えるために翻訳機能を使う」ようにすれば、対立は避けられるように思います。言語が通じない、ニュアンスも伝わらない相手のことを尊重するのは難しいかもしれません。しかし、少しでも相手の立場や置かれている環境、その背景をおもんぱかることができれば、お互いの関係性は変わってくると思います。

今回の翻訳機能に限らず、新しく便利なツールは使い方次第で世界が変わります。これまで言語の壁を越えてコンテクストをそろえられるような場がなかったので、私自身はこの自動翻訳機能をとても画期的なものだと捉えています。「フラットで身近だけれど、解像度が極めて低い世界」というイメージでしょうか。エンジニアと営業の間にも前提や専門用語の自動翻訳機能があると、すれ違いが減っていくかもしれませんね(笑)。
取材・文/西 倫英(日経BOOKプラス編集) 写真/小野さやか
Googleで仲介役を務めた著者が、エンジニアと営業のすれ違いを解決する「仲介思考」をまとめた一冊。「謙虚さ」「理解」「発見」という3つのプロセスを経て解決に導く考え方やトレーニング方法も紹介。
価格:2,420円(税込)
発行日:2026年2月25日
著者名:水谷享平 著

