『総合商社図鑑』『証券会社図鑑』など、会社の事業や仕事についてイラストと図解で解説する「会社図鑑シリーズ」創刊から11年を迎えました。最新刊は、石油プラントやエネルギープラントの設備を制御する会社を取り上げた『プラント制御会社図鑑』。小中学生のキャリア教育や大学生の就活、会社での新人教育など、幅広い層の読者に読まれているシリーズです。この人気シリーズを生み出すイラストレーターと編集者がどのように取材し、本を編集・制作をしているか。その舞台裏を担当編集者が紹介します。

2012年にスタートした人気シリーズ「会社図鑑シリーズ」
2012年にスタートした人気シリーズ「会社図鑑シリーズ」
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 「0.5秒で会社の事業内容が分かる」「子どもが読んでも面白い、大人が読んでも面白い」――。こんなコンセプトで紙面を作ったのが「会社図鑑シリーズ」です。

「会社図鑑シリーズ」を企画したきっかけは、総合商社に関するこうした疑問からでした。

「総合商社という業種は誰も知っているけれど、総合商社がどのような事業をしているかは意外に知られていない。子どもから大人まで、事業内容を分かりやすく説明する本はできないか」

「それならば、イラストレーションと図解で解説する絵本のような本を作ってみたらどうか」――。

 こうして生まれたのが『総合商社図鑑』です。

イラストレーターは理系の絵本作家を起用

 『総合商社図鑑』の紙面では、太陽熱発電プラント、アブラヤシ農園、自動車販売店など、総合商社が実際に手掛けている事業を描いた大きなイラストを掲載しています。イラストは、「0.5秒で会社の事業内容が分かる」をコンセプトに、ダイナミックな構図と色づかいによって、読者である子どもたちに強い印象として記憶に残る内容にしました。

『総合商社図鑑』からアブラヤシ農園を描いたイラストのページ
『総合商社図鑑』からアブラヤシ農園を描いたイラストのページ
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 さらに、次のページでは図表と文章で解説する図解が続きます。内容は専門的ですが、難しい内容をできるかぎり易しい言葉で説明することを心掛けて、子どもが読んでも大人が読んでも理解できる図解にしました。

『総合商社図鑑』からアブラヤシ農園を図解したページ
『総合商社図鑑』からアブラヤシ農園を図解したページ
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 イラストレーターは、自らストーリーを考えてイラストを描くのが得意な絵本作家を起用。建造物や機械の内部構造を描くことが多いので、建築事務所で働いていた青山邦彦氏、精密機器メーカーに勤務経験のあるいわた慎二郎氏といった理系の絵本作家に執筆を依頼しました。

 紙面を構成するにあたり、会社が手掛ける事業の現場を取材したいのは当然のことです。しかし、安全面や機密保護を理由に事業の現場に立ち入るのは簡単なことではありません。編集者とイラストレーターは、粘り強く取材を申し込んで、事業の担当者に話を聞き、許される限り現場を見学するなどの取材を徹底しています。

 これまでに発行した会社図鑑シリーズは、『コンサルティング会社図鑑』『証券会社図鑑』『総合リース会社図鑑』といった具合に、子どものみならず社会人でも説明が難しい産業・業種の会社が中心になっています。

 『証券会社図鑑』では、証券会社といってまず思いつく株式や債券などの証券の委託売買(ブローカー)業務について説明しています。さらにIPO(新規株式公開)やM&A(合併と買収)支援、投資信託・投資顧問業務など、広い範囲の業務について解説しています。

 子どもたちもよく知っている『航空会社図鑑』でも、誰もが思い描くパイロットやキャビンアテンダント(CA)はもちろん取り上げています。そのほか、コンピューターを使って航空機の運航管理をするディスパッチャー(運航管理者)、旅客機の座席や機内食を開発する商品企画・マーケティング担当者など、航空会社のイメージからすぐには思いつかない職種を積極的に取り上げています。

「会社図鑑シリーズ」は、公立図書館や小中学校の図書館の蔵書として購入していただき、子どもたちに閲覧されています。小学校でキャリアデザイン教育が重要視されるようになった昨今、最適な教材として読まれているようです。

未来の夢を描く『プラント制御会社図鑑』

 2023年2月に発行した最新刊『プラント制御会社図鑑』は、これまで以上に「分かりにくい」難解な業種を取り上げています。

 本書は、まず、プラントは本来「植物」という意味であるにもかかわらず、なぜ石油化学や発電所の設備や機械が「プラント」と呼ばれるのかということの説明から始まります。次に、プラントにある設備や機械を計測して制御するのは、どのようなことなのかを図解しています。

 さらに石油化学プラント、発電プラント、製薬プラントなど、代表的なプラントの概要をイラストで解説しています。見ることができないプラントの中や制御の役割も、イラストによって一目でイメージできます。

 とはいえ、セキュリティー上の問題から、現実にあるプラントをそのまま忠実に描くことはできませんでした。石油化学プラントにしても、取材をベースに絵本作家には、機械の配置について架空の構図を考え、世界のどこにもないプラントを描いてもらいました。

『プラント制御会社図鑑』から石油化学プラントの大きなイラストのページ
『プラント制御会社図鑑』から石油化学プラントの大きなイラストのページ
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 それだけではありません。石油化学プラントでは、蒸留塔という機械が中心になります。原油に含まれる成分を沸点の違いで選び出す機械なのですが、『プラント制御会社図鑑』では技術書さながらの解説を加えました。

『プラント制御会社図鑑』から蒸留塔を説明したページ
『プラント制御会社図鑑』から蒸留塔を説明したページ
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 プラント制御は難解ではありますが、人類にとって未来の夢を描く分野ともいえます。『プラント制御会社図鑑』では、人工知能(AI)を使った「プラントの自律化」、プラント制御技術を応用した「バイオサイエンス&テクノロジー」、月面のプラントを制御する「宇宙事業」といった具合に、プラント制御の未来もイラストと図解でふんだんに解説しています。

『プラント制御会社図鑑』から宇宙事業を説明したページ
『プラント制御会社図鑑』から宇宙事業を説明したページ
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「会社図鑑シリーズ」は、子どもたちだけでなく、就職活動をしている学生が参考にしたり、会社に入社したばかりの社員の教育に使われたりもしています。

 それぞれの業界の社員にとっては改めて自社(業界)を知るツールになったり、業界の仕事の棚卸しをすることで新規事業のヒントになったりするかもしれません。新しい取引先企業を知るためのヒントにしていただくのもよいでしょう。親が働いている会社の仕事を子どもに説明するといった親子のコミュニケーションツールになるかもしれません。

 人間の脳は、文字による記憶に加えて、画像や音声があるとより記憶として残るといわれています。百聞は一見にしかず。イラストと図解で分かる「会社図鑑シリーズ」を読むと、大人も子どもも知っているようで知らない、新しい世界が見えてくるはずです。

■会社図鑑シリーズの一覧
書名 監修、イラスト 発行年月日
総合商社図鑑 監修:三井物産
絵:青山邦彦
2012年8月16日
コンサルティング会社図鑑 監修:アビームコンサルティング
絵:青山邦彦
2013年12月25日
証券会社図鑑 監修:野村ホールディングス
絵:青山邦彦
2015年2月23日
建設機械レンタル会社図鑑 監修:レンタルのニッケン
絵:いわた慎二郎
2016年3月15日
ITソリューション会社図鑑 監修:野村総合研究所
絵:青山邦彦
2016年4月19日
航空会社図鑑 監修:日本航空
絵:青山邦彦
2016年12月9日
総合リース会社図鑑 監修:三井住友ファイナンス&リース
絵:青山邦彦
2017年10月23日
再生可能エネルギー図鑑 監修:Looop
絵:青山邦彦
2020年8月5日
通信会社図鑑 監修:NTT東日本
絵:いわた慎二郎
2021年9月21日
陸送会社図鑑版 監修:ゼロ
絵:いわた慎二郎
2021年11月8日
サイバーセキュリティー会社図鑑 監修:NRIセキュアテクノロジーズ
絵:いわた慎二郎
2022年4月18日
プラント制御会社図鑑 監修:横河電機
絵:いわた慎二郎
2023年2月20日